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補選・再選挙全敗の衝撃、「鉄壁」の日米同盟という大津波

政界の風を読むー髙橋利行

髙橋 利行

政治評論家 髙橋 利行

 あと半年に迫った衆院議員のわずかな任期を考えると、思い切って「女性宰相」にするとか、「嫌われ者」の石破茂を宰相にでもしない限り自民党は守勢を挽回できるものではない。なまじいじると、却(かえ)って「表紙」を代えて誤魔化(ごまか)すつもりかと国民から逆捩(さかね)じを食らわせられかねない。今度の衆院選は、単に菅義偉政権の審判に留(とど)まるものではない。①ここ4年間、衆院選が行われていない②菅義偉が安倍晋三路線を「継承」している―ことを考え合わせると「安倍晋三・菅義偉」政治に対する総括的な「民意の審判」と見なければなるまい。

 最大の審判の対象は、主こそ違(たが)えるが、ともにアメリカ大統領と交わした強固な「日米同盟」の是非にある。ドナルド・トランプと安倍晋三は個人的な結び付きの色合いが濃かった。「ジョー・ヨシ」の場合は、ジョセフ(ジョー)バイデンが「鉄壁な日米同盟」と呼んでいる如(ごと)く、地球上を奔馬(ほんば)のように暴れ回る中国が描く版図に日本、台湾が「前衛」として立ちはだかる強力なシフトを敷いた点にある。

 かつて読売ジャイアンツには三塁手・長嶋茂雄、遊撃手・広岡達朗という「鉄壁」のコンビがいた。長嶋は右に左にダイナミックに跳び、時に、広岡の守備範囲まで割り込んで難しいゴロを捌(さば)いた。広岡は難球、曲球(くせだま)を苦もなく捕球して見せた。誰も、この不世出の天才の間に入り込むことはできなかった。ファンは長嶋の派手なプレーに拍手を送り広岡の渋いグラブ捌きに酔った。

 バイデンが就任後初めて直(じか)に会う外国首脳に菅義偉が選ばれたことも特筆されるが、日本は、中国と国交回復(1972年)して以来、中国の意向に配慮して半世紀にもわたって「台湾」には当たらず触らずで過ごしてきた。その禁を破って、共同声明に「台湾海峡の平和と安定」という文言を盛り込んだ意味は重大である。「日米同盟」の守備範囲に明確に台湾海峡を取り込んだことになる。

 いまやアメリカと中国の冷戦は峻烈(しゅんれつ)を極めている。台湾や香港をめぐって一触即発の空気さえ漂っている。その間にあって日本は安全保障をアメリカに頼り、経済を中国市場に依拠してきた。「政冷経熱」と曖昧な言葉で、上手にバランスを取ってきたとも、良いとこ取りと言えないこともなかった。

 そこに、宰相自らが進んでアメリカ陣営に与(くみ)することを選択した。評価は後世の史家に委ねるしかないが、右派をもって任じる前任の安倍晋三をもってしても届かなかった、いわば前人未到の領域に踏み込んだのである。一線を越えたのかもしれない。

 自民党も無縁と言うわけにはいくまい。なにしろ「安倍晋三政権は事実上の菅義偉政権」、菅政権は中国に極めて親密な二階俊博の「傀儡(かいらい)政権」と揶揄(やゆ)されている布陣である。何事にせよ、二階俊博の意向を忖度(そんたく)せざるを得ない宰相が「鉄壁な日米関係」と、いかに折り合いをつけるのか。いままで通りで済むとは思えない。

 衆院選の方は、いつ、誰の手で断行しようと自民党は現有議席を減らさざるを得ないといわれる。どう頑張っても増やすことは難しいらしい。とはいえ、野党の体たらくを重ね合わせると自民・公明連合軍で過半数を割り込むこともあるまい。問題は「負けは負け」の選挙結果をどう受け止めるか。誰が責任を取るのか。微妙な後始末が突き付けられる。

 二階俊博が「ひと暴れ」を目論(もくろ)んでも、自民党内5派閥を糾合して鮮やかに菅政権を生んだ手は通用しない。安倍晋三の影響下にある最大派閥が言うことを聞くまい。中国に親近感を抱く竹下派でさえどうか。派内の総裁候補が黙ってはいまい。そういう展開を睨(にら)んで、永田町ではすでに神経戦が繰り広げられている。東京オリンピック・パラリンピックが、万一、中止か再延期になったら誰が責任を負うのか。コロナ・ワクチンの入手が滞ったらどうなるのか。

 その前哨戦ともいえる衆院北海道2区補選・参院長野選挙区補選・参院広島選挙区再選挙が25日投・開票された。北海道の不戦敗を含め、自民党は全敗を喫した。党内に「菅では戦えない」という空気と「選挙は幹事長の責任と公言していたじゃないか」という空気が鬩(せめ)ぎ合っている。

(文中敬称略)

(政治評論家)

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