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侮れぬ補選・再選挙、“前門”のバイデン“後門”の二階

政界の風を読むー髙橋利行

髙橋 利行

政治評論家 髙橋 利行

 歴(れっき)とした自民党推薦候補が百万票もの大差で敗れる選挙にはなかなかお目にかかれるものではない。千葉県知事選挙(3月21日投票)である。聞けば千葉県政の複雑な勢力争いが如実に反映した選挙らしい。逆に、立憲民主党代表の枝野幸男の周辺は沸き立っている。「神さま、仏さま、菅義偉さま。菅義偉さまにはずっと宰相でいて欲しい。東京オリンピック・パラリンピックもぜひやって欲しい。国民には申し訳ないが、そうすればコロナは手が付けられないほど蔓延(まんえん)し衆院選でわれわれが勝てる。政権が舞い込んでくる」というのである。

 後手後手に回っているコロナ対策やワクチン接種だけでなく、宰相の身内が絡む総務官僚接待などで国民の信頼は地に堕(お)ちている。内閣支持率もやや持ち直したが、依然、危険水域にある。自民党内には「終わりが始まったのかもしれない」と危ぶむ声さえ聞かれる。あのソ連が70年で滅びたことに比して保守合同(1955年)で誕生した自民党も齢(よわい)70に近づいている。

 宰相は、まもなく、たった一人で本当の試練に向き合う。舞台は4月上旬に行われる初の日米首脳会談である。宰相周辺はアメリカ大統領に就任したジョセフ(ジョー)バイデンが初めて直に会う外国首脳に、わが宰相殿が選ばれたと狂喜乱舞の態(てい)である。日米同盟が高く評価された証しだというのである。

 だが、忘れてはならない。「先陣を承る」ことのパラドックスである。戦国時代、名立たる武将は競って「先陣」を望んだ。「お家の誉れ」や「寵(ちょう)を得る」ためだった。飛び交う矢弾の中を真っ先駆けて敵陣に突入し、あわよくば敵将のクビでも上げればお家は安泰、愛(う)い奴となる。だが、下手をすれば命を失う。「先陣を承る」ことは即「忠誠の証」だった。一片の疑念をも持たせない選択だった。

 バイデン政権は異例の早さで日米2プラス2を開き、中国に厳しい姿勢を日本側に見せつけた。アラスカで行われた中国との外交当局者同士の会談は白刃で切り結ぶような凄(すさ)まじいものだったらしい。アメリカの本気度が窺(うかが)われる。いま、中国は、この地球上をわが物顔でのし歩いている。豊富な資金、軍事力、最近では自国製のワクチンを供与するという手でアメーバのように版図を拡大している。さしも度量の広いアメリカも堪忍袋の緒が切れかかったようである。

 アジア太平洋に広がる中国包囲網をつくるには超大国アメリカといえども同盟国の協力なしではできない。地政学上、中国に対峙(たいじ)する要衝に位置する、わが日本列島はなくてはならない存在である。その意味で前政権は申し分なかった。可能な限りアメリカの戦略に加担する覚悟が見えた。

 菅義偉政権はどうか。一見、優等生である。だが、子細に分析すると、この政権は、その成立の経緯から見ても、永田町の政治力学から見ても、ドンと怖(おそ)れられ、中国と極めて近い自民党幹事長・二階俊博の膝下にあるのではないか。アメリカが抱く一抹の懸念である。

 恐らく、宰相は温かくもてなされる。宰相も「シンゾー・ドナルド」に敵うべくもないにしても「ヨシ・ジョー」くらいにはなるだろう。そうあって欲しいものである。だが、外交儀礼に包まれているにしても、バイデンは、しっかりと「アメリカの懸念」を伝えるに違いない。「二階俊博を切れ」と直截に言わないまでも、その意は確実に伝えられる。

 因果を含められたにしても、永田町は、そうは問屋が卸さない。宰相が二階俊博のクビを切ろうとすれば二階俊博は黙ってはいまい。最悪の場合、「菅義偉で衆院選は戦えるのか」と逆襲、宰相のクビを挿(す)げ替える挙に出るだろう。宰相が、秋の総裁選よりも前に「わが手」で解散・総選挙を断行しようと力めば、二階俊博は抑え込む。鍔迫(つばぜ)り合いになる。

 その行方を占うのが①ワクチン接種がスムーズに運ぶか否か。なにしろ「ヒト1人の命は地球より重い」(福田赳夫)「(カンボジアに派遣している)自衛隊員が1人でも亡くなれば辞職する」(宮澤喜一)というお国柄である。

 ②4月25日に投開票される衆院北海道2区補選、参院長野選挙区補選、参院広島選挙区再選挙という三つの国政選の勝敗である。広島は「河井克行・案里夫妻の不始末は党本部の仕業」と県連が張り切り微(かす)かに勝機があるらしい。だが、3連敗すれば「菅降ろし」の風はぐんと強まる。

(文中敬称略)

(政治評論家)

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