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弱り目に祟り目、政権の浮沈占うワクチン接種

 喜寿を過ぎた今も、時折、魘(うな)されることがある。実家近くの低空から怪鳥のような米軍戦闘機に機銃掃射を受ける夢である。せいぜい1、2歳の記憶である。今となっては夢か現(うつつ)かさえ定かではない。

 物心ついてからの記憶は、接収されていた自宅に住んでいた親切な、日系2世の進駐軍兵士だった。ジープに乗せてくれチョコレートをくれた。カラーフィルムに残された幼い映像だった。この若い兵士は朝鮮動乱(1950~53年)に出征し、すぐ戦死した。オンリーさん(同棲する日本人女性)もいつの間にか姿を消した。

 今も脳裏に刻まれているのはストレプトマイシン、ヤトコニンとともに、命を救ってくれたペニシリン注射である。尻に瘤(こぶ)のように残っている痕が、この年になっても記憶を甦(よみがえ)らせる。副作用もあった。岸信介に私淑していた公益財団法人・協和協会専務理事の清原淳平はストマイのおかげで命を長らえ、今も矍鑠(かくしゃく)として岸信介の遺訓を実現すべく憲法改正に老いの情熱を傾けている。だが、副作用のせいで難聴になっている。

 この特効薬は、アメリカが提供してくれた脱脂粉乳とともに、民族にとって屈辱でしかない「占領」という忌まわしい事態を親米に一変させ、今日に至る日米同盟の根幹を形作っている。たかが薬と侮る勿(なか)れ。当時蔓延(まんえん)していた結核の治癒にとどまらず国民感情までを劇的に変える力を持っていたのである。

 今、宰相・菅義偉は針の筵(むしろ)の上にいる。総力を挙げて当選させた河井案里(参院広島選挙区)は公職選挙法違反で有罪、失格となり再選挙となる。夫で元法相・河井克行の選挙区(衆院広島3区)は公明党に譲ることになった。吉川貴盛(衆院北海道2区)は鶏卵業者からの違法献金で衆院議員を辞職、自民党は不戦敗に追い込まれている。緊急事態宣言下で銀座の街を飲み歩いた自民党の衆院議員は「独呑(の)み」というウソがばれ、同僚議員を道連れに離党することになった。公明党議員の方は議員辞職に追い込まれた。宰相の息子が高級官僚を接待漬けにした素行も暴かれた。

 相次ぐスキャンダルに内閣支持率も危険水域まで落ち込んでいる。挙句の果てに東京オリンピック・パラリンピック大会組織委員会会長の森喜朗が「女性が多い理事会は時間がかかる」と「女性蔑視」とも思われかねない発言をして世界中から袋叩(だた)きに遭った。お得意の「与太話」は世界では通用しない。それで済めば傷は、まだ浅かったが、森喜朗は後継会長の指名までやってしまった。

 これが「辞めていく会長にそんな権限があるのか」と火に油を注いでしまった。自ら密室の談合で宰相になった「禁じ手」(2000年)の味が忘れられなかったのか。ついに辞任に追い込まれた。「前総理にも菅総理にも話しした」と口走ってもいる。「根回しの森喜朗」の面目躍如ではあろうが、世界中の顰蹙(ひんしゅく)を買った騒ぎに宰相をも巻き込んだ。2月13日深夜には福島・宮城両県が阪神淡路大震災に匹敵するような大地震(震度6強)にも見舞われた。弱り目に祟(たた)り目である。

 並みの神経ならば、到底耐えられない。政権を投げ出さざるを得ない情勢である。粘り腰で凌(しの)いだとしても、ずるずると引き摺(ず)って結局は辞めざるを得なくなった宰相・安倍晋三(第1次)の二の舞になりかねない。すでに自民党内では、今度の衆院選では現有議席を減らさざるを得ないというのが既成事実として語られている。60議席減らすのか、40議席減で食い止めるのか。20議席減は望み薄ともいわれる。菅義偉のままで戦えるのか。衆院選前に、とにかくカオを代えて凌ぐしかあるまいとも囁(ささや)かれている。

 そこに「命綱」が投げられた。ワクチン接種である。全国民にスムーズに接種が進み、心配される副反応も大したことはない、感染者も漸減するとなれば、宰相の株は持ち直す。実体経済とはかけ離れていると言っても、株価は値上がりしGDP(国内総生産)は増加に転じている。国民の多くは自民党も頼りないが、菅義偉に代わり得る人物も見当たらない。誰をとっても帯に短し襷(たすき)に長しである。まして政権担当の気概も能力も持たない野党では話にならないと思っている。起死回生のチャンスも転がり込むのである。

(文中敬称略)

(政治評論家)

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