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ポスト安倍に求められる外交・安全保障に関する素養

 安倍首相が健康上の理由で退任することになり、日本の舵取りを巡ってポスト安倍候補の名前が取り沙汰されている。そのため、今回の記事では「次の首相を誰が相応しいか」という判断基準として、外交・安全保障面から条件を5つ挙げた。以下の条件を満たす人物こそが日本の首相として任にあたるべき人物である。

(1)日本国益を第一とし、米国・中国に日本の主張を納得させること

渡瀬裕哉

渡瀬裕哉

 日本人は「米国が採用している外交・安全保障の方針」を「日本の国益」や「最先端の安全保障政策」と勘違いする向きがある。そのため、ほぼ全ての外交政策が米国の政策の後追い、もしくは米国の政策に対応するために整備されていく傾向がある。

 もちろん、米国は世界最大の経済・軍事大国であり、その動向を知り、それらを利用することは正しい態度である。しかし、米国と日本は異なる国であり、両国は国際社会の舞台で異なる国益を追及していることは言うまでもない。

 したがって、対中政策を巡っても、米国と外交安全保障面で協調しつつ、米国に中国市場の奪い合いで出し抜かれないようにし、日本の経済的な利得を獲得・保護するように冷徹に動かなくてはならない。

 また、中国は世界最大・最強国家である米国と対峙する状況にあり、基本的に苦しい立場に置かれている。その状況を勘案し、中国に日本にとって有利となる条件を突き付けて飲ましていくチャンスだ。徒に脅威論や崩壊論などを吹聴するお調子者との関係を改め、国益の増進に努めることが望ましい。

 日本国の首相は日本の国益のために働く、それを世界観のレベルでしっかりと構築していることは当然のことだと言えるだろう。

(2)日本と欧州で協調して国際関係に対処する重要性が分かること

 欧州は日本から遠く離れた土地にあるため、外交・安全保障政策の議論では米中の二の次に置かれることが多い。ただし、米中の覇権争いの帰趨は欧州の動向が大きく左右することになるため、その動きをしっかりと把握して日本に有利となるように働きかけることが大事だ。

 安倍政権は日EU経済連携協定(EPA)締結など欧州外交をしっかりと進めた政権の1つであるが、日本の対ロ外交の融和姿勢は欧州との外交・安全保障上の協力関係構築を困難なものにしている。欧州にとっての安全保障上の脅威は、第一にロシア、第二に中東、であり、中国の優先順位は必ずしも高くない。

 しかし、欧州は国際舞台における経済力・外交力ともに重要な地位を占めており、彼らの協力なくして、有効な対中政策を実行していくことは困難だろう。実際、中国は米国による締め付けに対して欧州に逃げ道を求めており、米国はその道を閉ざそうとする攻防が継続している。

 そのため、米中が覇権争いを行う中で、日本と欧州が協力した場合、国際政治上のキャスティングボートの一端を握ることが可能な状況が出現している。複雑怪奇な欧州情勢に対してもアンテナを張り、日本の国益増進に利用できるかを常に模索するスタンスが必要である。

(3)日本の経済力が外交・安全保障の根幹だと理解できること

 安倍政権は残念ながら2度の消費税増税を止めることができず、日本経済の足腰を破壊する結末となった。もちろん、消費税増税方針自体は麻生政権、民主党政権、そして三党合意の流れの中で決まってきたことであり、安倍政権のみの責任ではない。しかし、外交・安全保障政策の観点から、国内市場を冷え込ませて産業を衰退させる政策を止められなかったことは悪政であった。

 言うまでもなく中国が軍事大国になった理由は経済大国になったからだ。そして、トランプ政権が米軍を再建する上で、その大前提として重視していることは米国の経済的繁栄である。軍事費は経済成長を継続することでしか維持・拡大することはできない。したがって、トランプ政権が軍事力強化のために行った政策は大減税と規制廃止である。

 安倍政権は異次元緩和で景気対策に取り組んだものの、二度の消費増税と未完の規制改革によって、アクセルとブレーキを同時に踏んでしまった。不可抗力とは言え、最終的には新型コロナウイルス対策で大きな損害を受けるに至っている。

 米国経済はトランプ政権が継続した場合、来年以降に大きく息を吹き返すだろうが、バイデン政権では景気回復の可能性は疑問符がつく。一方、中国は既にコロナによる経済被害から立ち直りつつある。この状況下で日本の経済回復のための大減税と規制廃止を断行することは、日本の外交・安全保障の立て直しの必須条件だと言える。

(4)日本特有の軍事的な問題について是正する意思と能力を持っていること

 日本特有の問題とは、実際の戦闘を想定している軍隊とするために納税者が十分に監視していないことにある。

 軍事力を実際に使う事態が起きないことが望ましいことは当然だ。そして、運が良いことに、戦後は日本の自衛隊は大きな戦争に直接関わったことはない。

 しかし、だからこそ、自衛隊には大きな無駄が内包された状態となっている。約5兆円の予算が実際の戦争を想定した場合に機能するものであるか、国民的な議論としてその検証について真剣に検討されているとは言い難い。実際には使用しないことが望まれるものであるからこそ、その装備・運用・作戦に関する実践上の有用性について、自衛隊の内外から予算内容まで含めて厳しくチェックされるべきだ。

 平和を保つためには有効に機能する軍事力が必要であり、そして納税者の税金が効果的に使われることが必要だ。したがって、自衛隊を巡る法的な神学論争は終わりにして、その具体的な予算・計画レベルの見直しを図ることが望まれる。

 これは政治的に困難な問題であるため、その改革に向けた意思と能力を持った人物は稀有であろう。しかし、中国の脅威が本格化する中で、この問題を避けて通る首相は無用である。

(5)真に他国の脅威となる国際的な能力を持った人物を育成・登用すること

 日本人には「怖さ」を感じさせる国際人は多くないと思う。もちろん、民間の切った・張ったの世界にいる人にはそのような人もいるが、政治・行政の関係者ではそのような人材は多くはないだろう。

 しかし、実際の国力とは諸外国との交渉の最前線に立つ国際人の能力によって代表される。日本国内で内弁慶の右派言論で国民の溜飲を下げて支持を獲得している程度の政治家などは論外であり、また外国語を流暢に話すだけのお花畑人材も不要である。親父のコネで米国留学して箔をつけただけの世襲議員などもってのほかだ。

 日本国を代表し、国際的視座を持って、他国に対して脅威だと思われる人間の価値は、空母一隻に相当する。それだけの見識と胆力がある人物を国内外から招集し、そして次世代に育てていくことが首相の責務だ。日本の未来は何よりも、人、人、人で決まる。そのことを理解している人物こそ首相の座に相応しい。

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