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亥年現象は憲法改正を不可能にしたか?

 選挙分析の世界で亥年現象という言葉がある。12年に一度巡って来る亥年は参議院選挙の投票率が低下するというものである。その原因は春に統一地方選挙が行われるため、国政選挙の実働部隊でもある地方議員が、自分の選挙が終わった直後なので、参議院選挙のために積極的に動かないことにあると言われている。これは多くの地方議員を抱える自民党に、最も大きな影響が出ることは言うまでもない。

 今年の参議院選挙で自民党の議席が伸びず憲法改正に必要な3分の2の議席を失った理由を、この亥年現象に求める考え方もあると思う。それは正しいか?もう憲法改正は不可能に近くなったのか?詳しい数字に基づいて考えてみたいと思う。

 まず、この亥年現象は無党派層には関係のないもののように思われるかも知れない。だが特に無党派層が増加し始めた80年代くらいから、無党派層の投票率にも大きな影響が出るようになった。これは一つには選挙が過熱すれば、無党派層も投票に行きたくなるという心理的効果があるだろう。もう一つには80年代型の無党派層は、左翼政党に愛想が尽きて離反し、相対的な自民党支持だったという問題も小さくないだろう。

 だが21世紀に入ってから、無党派層が反自民寄りになったという人もいる。そうだとして、その理由は分からないが、一つには小泉構造改革による貧富の差の拡大等があったのかも知れない。

 そのせいか2007年の参議院選挙で一人区だけを見ても、民主党に無党派層の票を半分近くも取られた自民党は、歴史的な大敗北を喫している。但し2007年は今年と同じ亥年だったが、自民党への批判が高かったからか、むしろ投票率は上昇している。そして地方議員の稼働率が良くなかった筈にも関わらず、自民党は無党派層の票の2割以上は取れている。

 やはり無党派層は自民党を見放してはいなかったのではないか?私的な話だが2009年の解散総選挙では、ほとんど政治に関心のない複数の知人から“自民党に一度は下野してもらった方が良いと思うけれど、どうでしょう?”という相談(?)を何回か受けた。その同じ人々が投票1週間前の各メディアの自民党大敗という予測調査の結果を見て“比例区だけでも自民党に入れようか?”と言い出し始めた。その結果として2009年の解散総選挙では、自民は事前予測の80議席の1.5倍の120議席を取ることが出来た。

 しかし何れにしても民主党政権なるものが出来てしまった。だが見事に自滅してくれた。

 それを見ていた若い世代が、再び有力な自民党系無党派層になった。2019年7月時点で、50代以上の無党派層の自民党支持率は10%台半ばなものの、40歳未満の無党派層は30%近く自民党を支持している。

 そのためか2013年の参議院選挙では一人区だけ見ても、民主党系は20%未満しか無党派層の票が取れず、それに対して自民党は4割以上も無党派層の票を取り圧勝した。この年、全体で自民党は65議席、公明党は11議席で、合計77議席。維新の党とみんなの党が8議席づつ、民主党は17議席だった。因みに共産、社民と諸派を合わせると12議席なので、オール反自民勢力は単純計算して29議席。本当に歴史的圧勝だった。

 しかし2016年、当時の野党が32ある一人区で統一候補を立てる戦略に出て、その結果として無党派層の半分以上の票を取った。自民党は3分の1程度だった。

 それでも野党が取った議席は11。自民党は21。しかも野党統一候補の内6人が5%未満の僅差で自民党に勝ったに過ぎなかった。

 なお同年、自民党と公明党は全体では70議席、維新の党が7議席、共産党が6議席。民進党と名前を変えた民主党は32議席だった。

 このように一人区における野党統一等の試みがあったにも関わらず、その野党が特に共闘した一人区で意外に脆弱だったのは、やはり投票率の影響ではないか?2013年には52%程度だった投票率が、2016年には54%と微増。特に民主党政権の失敗を目の当たりにした10代の若者も、この年から選挙権を得たことは、小さいことではなかったかも知れない。

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(引用元: https://digital.asahi.com/articles/photo/AS20190720002420.html )

 但し2010年までの日本では、亥年以外は60%くらいの人が投票に来ていたのである。いかに民主党政権の失敗に失望した特に若者の相対的に自民党支持的な無党派層が多いか?その人々を投票に参加させることが自民党にとって重要か?その事実を以上のようなデータから垣間見ることが出来る。

 今年も亥年であった。そのため投票率は同じ亥年で反自民党政党の躍進を許した1995年の44%に次ぐ48%と非常に低いものであった。そのため自民党および連立を組む公明党そして憲法問題も含めて政策的に近い維新の党の議席は伸び悩み、2016年に3党で得た憲法改正に必要な3分の2議席に4議席足りない結果となった。

 それでも自民党と公明党は6年前と6議席足りなくても3年前よりは1議席多い71議席を得ている。(正確には自民党は3年前より選挙区で9負けて比例で1増やしている。公明は3年前より3増やしている。)維新の党は6年前より2議席増やして10議席を得ている。因みに反自民党系は約34議席で、この内の旧民主党系の立憲民主は17議席、国民民主は6議席。

これは6年前と比較して見ると要するに自公が失った6議席前後を反自民勢力に奪われたことを意味する。やはり低得票率による無党派層の投票参加の低下が、このような結果を招いたのではないか?いま日本国民の3分の1から半分が無党派層だと言われているにも関わらず、今回の選挙で投票に来た人に占める無党派層の割合は15%程度だった。

しかし、やはり32ある一人区で野党共闘が行われた結果、無党派層の約6割を野党が取っているものの、野党が取ることの出来た一人区の議席は3年前より一人少ない10議席。そのうちの四人が、やはり5%程度の僅差で自民党候補に競りがっている。

比例区を見てみると自民党は全体の約3分の1の支持を得て19議席。立憲民主は15%の支持で8議席。国民民主は7%の支持で3議席。因みに維新の党は約1割の支持で5議席、共産党は9%の支持で4議席。ところが以上の政党の殆どが支持者の8割に比例区で投票させることが出来ているのに対し、国民民主だけが7割程度なのである。

どうやら反自民党勢力が、この状況でも一人区等で脆弱なのは、国民民主党の支持基盤が脆弱なためとも思われる。

そして以上の分析を見てみても、もし今年が亥年ではなく投票率が高かったとしたら、反自民党系無党派の票で、もう少し自民党が有利に闘えた可能性も低くない。もちろん選挙区事情や候補者そして比例区に特別枠が導入された等の複雑な事情を勘案する必要はあるだろう。しかし改憲に必要な議席に足りなくなった4議席と、ちょうど同じ一人区の4議席をひっくり返すことは可能だったかも知れないし、他にも複数区で次点だった自民党系の候補者もいる。比例区も、より多くの議席を得ることが出来たかも知れない。

このような自民党の底力を見せ付けることで、今年ないし3年前に一人区で5%前後の僅差で自民党候補に競りがった野党系の候補者や、野党の中で埋没気味なのか他の政党と比べて支持基盤の脆弱な国民民主党に、例えば次の選挙で有力な対抗馬を立てると脅すような形で揺さぶりを掛ける。この中には政策的に自民党から遠くない人も少なくない。まず一般的政策で共闘を模索し、その後に憲法論議でも協力を求める。場合によっては自民党中心の連立に入れて副大臣や政務官にしても良い。

こうして憲法改正議論を何とかして軌道に乗せるのである。

アメリカのトランプ大統領も、2016年の選挙で自らがヒラリーに勝った選挙区選出の民主党議員を説得して、自らの通したい法案等を通したことが、何度もあったではないか?そのような盟友トランプ氏の行き方を、安倍総理も取り入れて頂きたいものである。


「GII REPORT」より転載
https://ameblo.jp/gii-report

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