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自民、9条改正へ見切り発車

2項をめぐる党内の溝深く

 自民党(総裁、安倍晋三首相)は3月25日の党大会で、自衛隊の明記(9条改正)、緊急事態条項、参院選の合区解消、教育の充実―の4項目について、憲法改正推進本部(細田博之本部長)がまとめた条文たたき台素案を報告し、憲法改正を前面に掲げ「実現を目指す」とする運動方針案を採択した。首相は今後、目標の「年内の国会発議」に向けて、公明党との与党協議と衆参両院の憲法審査会の議論に拍車を掛けたいところだが、課題は山積している。
(政治部・武田滋樹)

改憲4項目で条文素案
カギ握る公明との協議

 安倍首相は党大会を締めくくる総裁演説を、学校法人「森友学園」との国有地売却に関する財務省の決裁文書改竄(かいざん)問題への陳謝から始めた。結びでは「憲法に自衛隊を明記し、違憲論争に終止符を打とう」と訴えたが、改憲本部の条文案には「もちろん第9条においても改正案をとりまとめていく」と述べるにとどめた。

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自民党大会で、万歳する安倍晋三首相(党総裁、中央)ら=3月25日、都内のホテル(森啓造撮影)

 文書改竄問題で内閣支持率が急落し、野党の批判が最高潮に達する中で大会を迎えたことが響いた。一つ対応を誤れば、総裁3選はもとより内閣存続すら危うくなりかねない中で、与党からも、事態の鎮静化なくして改憲議論は難しいとの声が相次いだ。

 もう一つの躓(つまず)きは22日、改憲本部の全体会合で、9条改正の条文案を絞り込めなかったことだ。執行部案への異論が残る中で本部長への一任を押し切る、異例の見切り発車となった。執行部は「他の意見」の付記を約束したが、会合後、石破茂元幹事長は「何が一任されたのかよく分からない。自民党の意思決定の在り方としては、極めて異例」と執行部を批判した。背景には、戦力不保持と交戦権否認を定めた9条2項の維持派と削除派の間の深い溝がある。

 昨年5月、安倍首相は「2項を残しつつ自衛隊を明記する」案を示し、党内の9条改正論議に火を付けた。その首相提案を煮詰めてきたのが執行部案だ。自衛隊は憲法が禁じる「戦力」でなく、国際法が保障する自衛権を行使するための必要最小限度の実力組織とする従来の9条解釈も引き継ぐ。国際的には「軍隊」とされる自衛隊が交戦権もない行政組織の一つだという特殊な状況も続くことになる。

 これに抑止力の観点で不満を示しているのが石破氏ら、平成24年の党改憲草案を踏まえた「2項を削除し自衛隊を明記する」案の支持者たちだ。2項削除により戦力や交戦権をめぐる積年の懸案を解消できるが、護憲が信条の野党勢力だけでなく「1、2項の堅持」を公約する公明の反発も予想される。新たな自衛隊の行動範囲を規定する国家安全保障基本法の制定や国民の理解を得るための啓発など、実現へのハードルは高い。

 これに対し、首相提案は、①憲法の不備には新しい条文を書き加える(加憲)立場の公明の理解を得やすく、②国民の約9割が好感を持つ自衛隊を前面に出すことで国民投票も乗り切りやすい。細田本部長も首相案に基づく執行部案が「国民の幅広い理解が得られる最も現実的な案」だと強調する。原則論としては2項削除を支持するが、「実現可能性」という側面から首相案に賛同する改憲派議員も多い。高村正彦副総裁も2項削除論者だったが、「実現可能なものの中から少しでも良くするのが政治家」だと首相案受け入れの背景を説明している。

 自民が今回、曲がりなりにも4項目の条文素案を示したことで、今後の焦点は衆参両院の憲法審査会の論議と、公明との与党協議に移る。27日の佐川宣寿前国税庁長官の証人喚問で野党側は佐川氏の論理を崩せず、森友問題の追及も手詰まり感が漂う。首相としては改憲原案作りを一歩でも二歩でも進めたいところだ。

 最初の関門は公明との与党協議だ。与党案すらまとめられなければ、改憲政党の日本維新の会はともかく、反安倍色を強める立憲民主党や民進党との合流に向け改憲政党色を薄める希望の党などを改憲案作りに巻き込むのは覚束(おぼつか)ない。ただ、公明は先の衆院選マニフェストで、首相の加憲案について「多くの国民は(自衛隊を)憲法違反の存在と考えていない」とこれを一蹴。山口那津男代表は「まだ議論が十分深まっていない」との発言を連発しており、支持母体・創価学会の9条改正に対する拒否感も強い。安倍首相や二階俊博幹事長の政治力が試されるのはこれからだ。

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