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脱中国依存へ歴史新たに 台湾総統就任式

中台「現状維持」で新南向政策を推進

懐日ブーム、関係深化へ

 1月の台湾総統選挙で圧勝した民進党の蔡英文氏(59)が20日、台北市内の総統府で李登輝元総統(93)らが見守る中、総統就任宣誓を行い、国民党の馬英九氏(65)の後任として第14代総統に就任した。陳建仁副総統(64)や行政院長(首相)の林全氏(64)、閣僚らも就任宣誓し、立法院(国会)で過半数を占める安定新内閣が発足。

 女性総統の誕生は台湾史上初となる。独立志向の強い民進党は対中融和に傾斜した国民党から8年ぶりに政権を奪還し、台湾で3度目となる政権交代を行った。就任演説で注目された中台が一体不可分の領土だとする「一つの中国」の原則に関する合意内容について蔡氏は「1992年の中台窓口機関による会談は若干の共通認識に達した歴史的事実を尊重する」と述べるに留まり、「共通認識」が「一つの中国」で合意したかどうかの是非については言及を避けた。

 「一つの中国」を認めさせようとする中国に対して微妙な言い回しで中台の現状維持を継続したい一定配慮がにじむ。民進党は「台湾共和国の建国」を党綱領に掲げ、新憲法の制定に向け、「国号」を台湾に変えることを目指してきた。就任演説では「中華民国の原稿の憲政体制を守る」と述べ、自らの任期中は「法的独立」に動かないことを明言した政治的意味は大きい。

 台湾政策を担当する中国国務院台湾事務弁公室は同日、「92年コンセンサスと中身を明確に認めず、曖昧な態度を取っている」と不満を表明し、「答えを書き終えていない答案用紙だ」と主張。極端な経済制裁や厳しい非難は自縄自縛となるために抑え、模様眺めの構えだ。

 蔡総統は「単一市場に依存する状況から決別する」と中国依存脱却を強調。経済政策では「TPP(環太平洋パートナーシップ協定)やRCEP(東アジア地域包括的経済連携)を含めた経済協力や自由貿易交渉に積極関与する」とし、日本や東南アジア諸国との自由貿易協定への参加意欲を示す。とくに東南アジアやインドなどと関係を強化する「新南向政策」推進を明確化し、経済分野での中国依存傾斜に歯止めをかける依存分散政策を打ち出した。

 南シナ海や東シナ海の領有権問題では「争いを棚上げし、共同で資源などの開発を進める」と呼びかけており、馬英九前政権が最後に沖ノ鳥島を「島ではなく岩だ」と強硬姿勢を取っていた立場を軟化し、日本との関係改善を進めている。

 外交政策では日米欧の関係深化で全方位協力を進め、領土問題については「東シナ海と南シナ海の領有権問題を棚上げし、共同開発を進める」との従来の台湾の立場を表明。若年層の就職難や所得格差拡大への不満については「若者すべての給料をすぐに上げることはできないが即時対応を約束する」と述べ、青年層重視、格差是正に努める姿勢を鮮明にしている。

 台湾では、ここ数年、日本統治時代に嘉義農林学校(現・国立嘉義大学)が甲子園で準優勝したドキュメンタリーを再現した映画「KANO 1931海の向こうの甲子園」が大ヒット。日本統治時代をマイナスの視点ではなく、前向きな視点から再評価する動きが強まり、日本統治時代を知らない若者たちにも大きな影響力を与えている。就任式の外国来賓約700人のうち約250人が日本人であり、日本の貢献による期待感も大きい。

 安倍晋三首相は祖父の岸信介元首相が台湾の蒋介石元総統と親交が深かったこともあり、台湾関係を重視。首相の実弟、自民党の岸信夫衆議院議員は昨年10月、蔡英文氏が訪日した際、同行して山口県内を案内した。岸氏は5日、沖ノ鳥島問題や世界衛生大會(WHA)へのオブザーバー参加問題について約1時間にわたって話し合い、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP) の台湾加入や台湾と日本の自由貿易協定(FTA)締結に向け、国民党政権時代とは違う早期解決に向けた双方の立場を確認し合っている。

 沖ノ鳥島沖に派遣された台湾の巡視船が引き揚げ始め、蔡英文新政権が日本に配慮し、馬英九前政権の方針を転換した。台湾の対日窓口機関である亜東関係協会の会長には蔡英文総統の腹心で知日派の邱義仁元総統府秘書長(66)が就任することが決まり、台北駐日経済文化代表処の代表(駐日大使に相当)には謝長廷元行政院長が内定して日台関係が新たな深化を見せている。

(写真と文=深川耕治)

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