«
»

渋谷と佐世保がつながる楽園祭 リアル×バーチャル

バーチャルが提示するWithコロナ時代の地域交流

 新型コロナウィルスで外出もままならない中、渋谷と佐世保を舞台にした大掛かりなイベントがスタートした。11月14日、15日の両日に渡って「第9回させぼ文化マンス『楽園祭 リアル×バーチャル』」がVRコミュニケーションサービス「VRChat」上と長崎県佐世保市三浦町の「アルカスSASEBO」で同時開催されたのである。

楽園祭 リアル×バーチャル開催で説明を受ける参加者

楽園祭 リアル×バーチャル開催で説明を受ける参加者

リアルの文化祭典と交差するバーチャルができるまで

 これは毎年11月、長崎県佐世保市が文化を発信する文化月間「させぼ文化マンス」との行事だが、今年は新型コロナウィルスの感染拡大によりイベント自体が大幅に縮小されてしまった。そのため、アルカスSASEBOで舞台パフォーマンス等を集めて披露する「楽園祭」が計画された。

 ここまでならば単に佐世保市限定のイベント開催という話なのだが、ここで一旦場所を変えて東京都文京区の本郷三丁目にある蕎麦屋「手打ちそば 田奈部」に舞台を移す事にする。

 「手打ちそば 田奈部」はご存知の方も居るだろうが当サイトにて何度か紹介をしているバーチャルワールドクリエイター田名部康介氏が経営する高級蕎麦屋である。

 そこに「渋谷短編映画祭 CLIMAX at 佐世保」という㈱佐世保映像社の主催するイベントの代表者、志岐誠氏が訪れた。

 このイベントは応募してきた様々な短編映画の中で、一般部門と学生部門のそれぞれ最高の短編映画を選定しようというイベントである。

 元々テレビ番組で田名部氏の創作活動を知った志岐氏が、コミュニケーションツール「ZOOM」で映画祭のイベントをやるという話が持ち上がり、ゲストとして招致したいと話が進んだ。

製作者の田名部さんも頻繁に会場を訪れてイベントを楽しんでいた

製作者の田名部さんも頻繁に会場を訪れてイベントを楽しんでいた

 その後田名部氏がVRでレッドカーペットを歩きたい、渋谷スクランブル交差点で映画を見てみたい、といった希望を出し、何を思ったのか創作意欲が膨れ上がった結果、VRChat上で動作する渋谷スクランブル交差点と渋谷センター街を歩き回れるワールドを制作してしまった。

 そしてこの渋谷短編映画祭 CLIMAX at 佐世保には、渋谷センター街として知られる「渋谷センター商店街」と、その兄弟商店街として佐世保市の「四ヶ町商店街」それぞれの振興組合、協同組合の代表者が会長として名を連ねる映画祭となった。

 映画祭のスタッフ側に渋谷スクランブル交差点制作の話が届いた結果、佐世保市側から楽園祭への参加を打診される事となる。

鳥瀬公園内にはいろいろなイベント案内も

鳥瀬公園内にはいろいろなイベント案内も

 こうして佐世保市下京町にある四ヶ町商店街とそこに連結する島瀬公園をVRChat上で動く様に設計、制作した渋谷スクランブル交差点と合体させる運びとなった。

 また、本来なら映画祭をVR空間で中継するシンプルなものだったイベントが現実側の楽園祭と交差するトリプルコラボレーションとなった結果、映画祭のスポンサー、協賛企業であるNetgear(ネットギアジャパン合同会社 )や東急株式会社、株式会社フェローズにも話が行きバーチャル空間上での広告展示も行う流れとなった。

 こうしてバーチャル空間で楽園祭会場を設計する事となり、渋谷に関しては店名を変更し、佐世保の方では実名での使用許可を貰うなど着々と準備は進んでいった。

 また随所に映画祭の広告を配置したり佐世保競輪場の広告やイメージキャラクター、イベントの告知看板を随所に配置。佐世保市の非公認観光大使である碧波みなと氏のポップを設置するなど、ただの商店街の再現に留まらない作り込みを見せる。

ハイライトの消えた目とか力技でお酒や競輪をアピール

ハイライトの消えた目とか力技でお酒や競輪をアピール

 島瀬公園内には佐世保市の酒造メーカーである潜龍酒造と梅ヶ枝酒造が手掛けた地域コラボ「佐世保×渋谷」新・渋谷酒という8種類の酒をモデルとして展示。酒造の写真や各商品についての紹介を行える他、実際に瓶を持ってデザインを確かめる事も可能である。

佐世保バーガーのマスコットキャラクターたち。デザインはやなせたかし先生

佐世保バーガーのマスコットキャラクターたち。デザインはやなせたかし先生

 同公園内のもう一つの目玉は3Dモデルとして展示された佐世保バーガーで、その側にはアンパンマン等の作品で有名なやなせたかし氏がデザインされたマスコットキャラクターの「佐世保バーガーボーイ」と「ボコちゃん」が鎮座。手に持って佐世保バーガーを眺められるほか、設定項目のせいで何故か宙を舞う様な挙動をしてしまう事から会場参加者に色々と愛された一品となった。

 他には観光スポットの「させぼ四季彩館」の広告や、そこに併せて佐世保市の品々をお取り寄せできる通販サイト「佐世保ふるさと市場 サセボーノ」の案内も配置。会場内ではイベント中実際に使ってみた際の様子が伝えられ、参加者はぜひ使いたいとの声を上げていた。

2日間限定の非公式ゆるキャラ「佐世保マン」誕生!

2日間限定の非公式ゆるキャラ「佐世保マン」誕生!

 佐世保といえば佐世保鎮守府の存在した時代から続く自衛隊の駐屯地や基地があり、また海上保安庁の佐世保地方隊もあることから「させぼ自衛隊グルメ」の看板も展示されていた。

 そして公園の奥にはアルカスSASEBOで開催される現実側の楽園祭の様子を視聴できる大型スクリーンとステージが設置。こうして開幕の手はずが整ったのであった。

現実とバーチャルがともに交差する祭典へ

 11月14日の初日からアルカスSASEBOには人が詰めかけており、そこには今話題の製品である「Oculus Quest2」も設置されていた。これはパソコンと接続せずとも単独で動作するHMD(ヘッドマウントディスプレイ)であり、楽園祭のバーチャル会場と接続されている。つまり現実側の佐世保にいながら、仮想空間上に再現された渋谷と佐世保が合体した商店街を歩き回る事が出来るのである。

 12時より大ホールのスクリーンに登場したのはバーチャルYoutuberのおきゅたんbot/ 宝来すみれ氏。彼女が映しているのはVRChat上の会場の様子である。ここでVRChatの様子が現実の会場内へリアルタイム中継され、渋谷と佐世保をくっつけてしまう前代未聞の企画の様子が事細かにレポートされていった。

VTuber渚の上映会と舞台挨拶

VTuber渚の上映会と舞台挨拶


VTuber渚の上映会と舞台挨拶 (2)

VTuber渚の上映会と舞台挨拶 (2)

 その後、VRChat側の渋谷会場と現実の佐世保側では短編映画「Vtuber渚」が上映される。これはとある地下アイドルの引退とその後のバーチャルYoutuberへの転身や苦労を描いた作品となっており、参加者からは「どうしてこんな高価な機材が使えるのか」「仕事で行ったことがあるスタジオかもしれない」などVRならではの感想が寄せられた。

 リアルの会場では舞台上での演目が進行していき、バーチャルの会場では会場案内や映画上映が中心となってプログラムが進んでいった。この日上映されたのは「Vtuber渚」「夕焼けスクランブル」「ラブ・コネクト」「リッちゃん、健ちゃんの夏」「干し柿」の5本。いずれも惹きつけられる映像作品ばかりである。映画によっては終演後に製作者インタビューも行われ、それぞれが思いのたけを真摯に語っていた。

 またバーチャル会場ではアルカスSASEBO大ホール内の演目も中継されており、高校生による書道パフォーマンスやアルカスビッグバンドジャズコンサートと題されたジャズ演奏も視聴可能となっていた。

 1日目の18時以降に登場したVR側の目玉として、VRで活動するバーチャルブルースロックバンド「Johnny Henry」が行う生演奏がアルカスSASEBOへと生中継された。VRChatにて活動するJohnny YAMADA氏、藍葉じるあ氏、Moiri氏、Yuki Hata氏の4名で結成されるバンドで何度かVRChat内でもライブを開催している。披露されたのは新曲を含めた3曲であり、代表曲である「Paint it Blue」も引っさげての演奏となった。

佐世保会場側でスクリーンを前にパフォーマンスしたり、佐世保バーガーを食べたり (3)

佐世保会場側でスクリーンを前にパフォーマンスしたり、佐世保バーガーを食べたり (3)

 その盛り上がりのまま渋谷センター商店街振興組合理事長 小野寿幸氏、させぼ四ヶ町商店街相談役 竹本慶三氏、㈱佐世保映像社 志岐誠氏と佐世保市長の朝長則男氏が舞台挨拶で登壇。

 朝長市長は「『世界とはこんな形で結ばれるんだ』という事は凄いと思いました。これは志岐さん、文化マンスの実行委員会の方々、そしてここでは見えないバーチャルにいらっしゃる方々。そういった方々のおかげでこの文化マンスが開催できている事、佐世保市民として大変ありがたく思います。しかも全世界に(中継が)通じているんですよね。もしこれが普通の開催であれば、アルカス佐世保と会場の皆さんだけでしか出来なかった事が全世界に配信されています。すごい時代になったと思いませんか。皆さんこの後も楽しんでいってください」と謝辞を述べた。

 最後にはもう一度アルカスビッグバンドによるジャズコンサートの第二幕が開催。VRChat上ではステージで参加者が会場のジャズに合わせて思い思いに踊り、そしてその様子がリアルタイムでアルカスSASEBOへと中継され双方の会場が一つになったかの様な熱気であった。その後バーチャル会場では花火も打ち上がり、両会場盛況の中1日目の幕が降りる事となった。

 11月15日は2日目とあって連日で参加するメンバーもいたからか、初日以上に会場の空気に慣れた様な状態であった。

2日目参加者が集まって記念撮影。どこでも記念撮影が出来るのもバーチャル空間ならでは (2)

2日目参加者が集まって記念撮影。どこでも記念撮影が出来るのもバーチャル空間ならでは (2)

 2日目の短編映画は1日目の5本に加え「VR職場」というVR機器が普及した時代での就労支援サービス開発現場を巡るあるAIの物語を描いた作品が上映された。こちらも参加者からは「実際ありそうだし開発現場はこんな感じだった」「やめてくれ胃がキリキリする」などの悲鳴が上がる程の内容となっていた。

 2日目の演目はダンスが中心となっており、1日目よりもなお長く佐世保会場や商店街を巡る時間が増えていた。その分、会場参加者はより深く佐世保市の提供する様々なコンテンツに触れる事ができ、中でもサブカルチャー文化に親しいであろう佐世保競輪のイメージキャラクターには多くの感想が寄せられていた。

させぼ四ヶ町商店街内の展示キャラに合わせてポージング。なお金髪の方は噂のチャーリー愛染

させぼ四ヶ町商店街内の展示キャラに合わせてポージング。なお金髪の方は噂のチャーリー愛染

 その中でも男性キャラクターである「チャーリー愛染」はなぜか上半身素っ裸の半裸でパネル展示されており、服を着ているイラストがあるにも関わらずその筋肉を見せびらかしていた為か、参加者からは黄色い声が飛んでいた。

 また実際に「佐世保×渋谷」新・渋谷酒を注文したユーザーも参加者として来場しており、イベント間の隙間時間に注文した酒の口当たりやオススメの組み合わせなどを細かく解説する一幕もあった。

 2日目の中心的な演目であるダンスに関してはダンスフェスティバル space miniと銘打たれ、複数のプログラムが組まれている。元々、spaceという2015年に立ち上げられた佐世保市、県北のストリートダンス普及を目的としたイベントが存在し、2018年からは佐世保のダンス文化を担うダンスパフォーマーを育成し、ダンス人口の増加、ダンス文化の発展を目的とした『SASEBO DANCE PORT』へと発展。今回の楽園祭では非常に多くのチームが参加する事となり、また中高生や若者を中心としたメンバーを擁するなど若年層からの文化の発信という点において非常にポジティブな内容となっている。

書道パフォーマンスに合わせてVR会場では巨大毛筆を設置。空間に自由に書道が可能だ

書道パフォーマンスに合わせてVR会場では巨大毛筆を設置。空間に自由に書道が可能だ

 VRChat側でもこれに負けじと参加者も演目に合わせてダンスパフォーマンスを披露。VRChatを中心に活動しているパフォーマーも来場しており、キレの良い動きで両会場を盛り上げていた。

 ここでVRChat上のダンスパフォーマンスの難しさについて説明をすると、生身そのままではなく頭にディスプレイを着けて手足に動きを読み取る機器を装着しているためアクロバティックな動きは非常に難易度が高い。会期内にVtuber渚をご覧になられた方は思い当たられるかもしれないが、「着るだけで全身の動きをトレース可能にするスーツ」というのは高価でありおいそれと買える代物ではない。

 現実的な方法として、頭に被るヘッドマウントディスプレイ、両手に持ったコントローラー、胴体と両足先に着けるトラッカーという小さな機械を装備して全身の動きを擬似的に読み取っているのである。また、ヘッドマウントディスプレイはだいたいの場合パソコンと有線接続をしているため、頭を動かせる範囲にも制限が出てくる。総じて難易度の高い技術の集合と呼べるだろう。

佐世保会場側でスクリーンを前にパフォーマンスしたり、佐世保バーガーを食べたり

佐世保会場側でスクリーンを前にパフォーマンスしたり、佐世保バーガーを食べたり

 2日目の大半はダンスパフォーマンスが披露され、バーチャル会場での参加者はアルカスSASEBOの視聴者に向けて「会場の熱が伝わってくる、届いてる」とアプローチ。エントランスの様子は中継されていなかったため、どれだけの反響があったかは確認出来なかったが、それでも多くの来場者の注目を集めていただろうことは想像に難くない。

 また楽園祭のポスター製作チームとやり取りを行う時間もあり、バーチャル空間上で参加する人々に感嘆の声を漏らしていた。

 最後はバーチャル上の渋谷スクランブル交差点にて、配信役のおきゅたんbot/宝来すみれ氏が演出を含めたライブ演奏を開催。打ち上がる花火とともに2日目も閉幕となった。

・ ・ ・ ・ ・ ・

 世間は新型コロナウィルスによって「コロナ禍」や「Withコロナ」という言葉とともに脅威が拡散し、多人数が参加するイベントはもとより小規模であっても交流会の開催すら危ぶまれている。そんな中で地域性のあるイベントをどう盛り上げていくのか、対外的に発信していくのかという問題は常に付いて回るものになっている。

 これまで以上に「旅行」という行動がリスキーになる中、現実ではどうにもならないご当地感やお祭り感を味わうにはどうしたら良いのかという難題。それに対する一つの回答として、今回の「楽園祭 リアル×バーチャル」が展開されたのであろう。

 参加者の一人は「5分で渋谷と佐世保を旅行出来る」という感想を述べていた。
今後一層移動に対する制約が増える中で最適解として、バーチャル空間等を用いた地域交流というものが着目されるのではないだろうか。

 ZOOM飲み会などが流行る昨今ではあるが、距離を問わない交流手段としてより一層この仮想現実世界に目が向くことを祈ってやまない。

(撮影・記事=市村龍二)

7

コメント

コメントの書き込み・表示するにはログインが必要です(承認制)。

コメント

コメントの書き込み・表示するにはログインが必要です(承認制)。