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島ごとまるまるうさぎ島―大久野島レポート

 「動物と触れ合える場所」が増えている。「犬カフェ」や「猫カフェ」、「ふくろうカフェ」といった変わり種もあるが、大量の動物と触れ合える自然環境がある場所はそう多くない。広島県竹原市にある無人島「大久野島」も数少ないそうした環境の一つで、しかも、ここでは全島に生息する「うさぎ」と触れ合うことができるのだ。大久野島は瀬戸内海に位置しており、竹原市内の忠海港から出る定期船で渡ることが出来る。島には保養所の「休暇村大久野島」があるが、満室となることも多く人気が高い。

 大久野島全体に生息しているのはアナウサギだ。島の外から持ち込まれ、放された個体が野生化したものだとされている。その数は島内でなんと900羽ほど。年を追うごとに数は増えており、色も様々なうさぎが島のあちこちで「落ちている」という表現が似合うほどだ。環境のせいか、うさぎの攻撃性はとても低く、観光客が与える忠海港で購入可能なうさぎの餌やニンジン・キャベツなどの野菜に積極的に食いついてくる。餌を持っていなくとも撫でられるために足元へ寄ってくるものも。島内ではカラスが確認されているが、それでも観光客の前に姿を見せることがなく、ほぼうさぎ以外の動物は見かけられない。

 現在では“うさぎの島”として有名なこの大久野島だが、うさぎに関連する暗い過去がある島でもある。同島は「地図から消された島」として、明治・大正時代からその存在を秘匿されていた。一つにはこの島が明治初期に建築された芸予要塞という、日露戦争を警戒して作られた要塞が存在していたことに起因する。大久野島にも砲台が設置され無事に完成を迎えたが、豊予要塞という愛媛・大分間の海峡を防衛するための要塞が完成したため無用の長物と化してしまった。

 そこに目をつけたのが大日本帝国陸軍であり、関東大震災後に地方に毒ガス製造・研究のための施設を置きたいという意向のもとで研究所や倉庫、製造施設が設営されることとなった。島内ではマスタードガスや青酸ガスなど4種類の毒ガスが製造され、これが日中戦争に使用されたとされている。そして毒ガスの効力を確認する動物実験の対象として飼われていたのが大量のウサギであった。戦後、陸軍は証拠隠滅のため飼育していたウサギを全羽殺処分し、毒ガスの海中投棄や焼却を行った。その様子を伝える写真については島内の毒ガス資料館で見ることができ、投棄された毒ガスや兵器は今なお上水道の水が島外から輸送されることの原因ともなっている。

 大久野島全体が有名となったのは2010年以降とされており、大々的にうさぎの島として旅行ツアーなどを組みニュースで取り上げられたりした結果、来場者数が急増。2017年度の来場者は36万人とされている。昨今はTwitterやFacebook、InstagramのようなSNSやYoutubeやニコニコ動画のような動画投稿サイトでもその様子が投稿され、連日注目を集めている。

 うさぎという動物は過去この島と関わり、そして現在は島の代名詞として語られるようになっている。愛くるしいこの生き物が伝える悲惨な過去と向き合いつつ、紺碧の海に囲まれた孤島でのんびりと生きる彼らの姿に心を癒やされに来てはいかがだろうか。
(写真と動画・文章:市村龍二)

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