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文壇のボス、久保田万太郎

菊田 均

久保田万太郎の人物評

文芸評論家 菊田 均

 「もう、トバ口(ぐち)まで来てるんですよ。運動すればすぐですよ」と久保田万太郎が獅子文六に囁いた。「トバ口」とは今どき聞かない言葉だが、「入口」のこと。「運動すれば芸術院会員になれますよ」と、慶応大学文学部の先輩が後輩に向かって語った。久保田は当時、芸術院第二部長(文学分野担当)。

 こういう場合、反応は二通り考えられる。①ありがたい助言と受け止める。②発言に異和感を覚えて反発する。

 獅子は②を選択した。「運動すれば……」という言い方は、芸術院第二部長である久保田に向かって運動する、ということだろうと獅子は考えた。そんなことをしたら、一生久保田に頭が上がらなくなる。「だれがそんな損な取引きをするもんか」と獅子は考えたのだ。以上のエピソードは、久保田の弟子と言われる戸板康二(やすじ)の『久保田万太郎』(文春文庫・絶版)に記述されている。


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