ワシントン・タイムズ・ジャパン

歴史の教訓 共産中国の行く末

東洋大学名誉教授 西川 佳秀

専制主義は早晩衰退・自壊
抑圧と強制が社会発展妨げる

東洋大学名誉教授 西川佳秀氏

東洋大学名誉教授 西川佳秀氏

 影響力の低下が懸念されるアメリカと、経済のみならず軍事強国ともなった中国が、21世紀の覇権をめぐりあらゆる分野で激しく競り合っている。そのため各国は米中のいずれに与(くみ)すべきか、難しい選択を迫られている。そこで、英国の戦略家リデルハートの著した『なぜ我々は歴史から学ばないのか』を基に、この問題を考えてみたい。

 民主国家なら何十年にもわたり議論が重ねられる重大な社会制度の改革が、共産中国ではトップの意向で直ちに実現し、また選挙の票にならず手付かずの事業も採用される。習近平国家主席が進める学習塾の規制や“共同富裕”実現の施策もその一例と言える。大衆の不満に権力者が素早く対処する中国の専制主義には、民主主義に勝る利点があるようにも見える。それゆえ国内のさまざまな問題に解決策を見いだせないアメリカの民主主義よりも、強権的な中国の国家主義に魅力を感じ、自らもredteamの一員として名を連ねたいと考える途上国も多い。

政治的信用詐欺の手口

 しかしリデルハートは、短期的には隆盛しても、早晩、専制主義は衰退、自壊するのが歴史の理法と説く。彼は、幾多の独裁者や専制主義国家が時代を超えて繰り返してきた政策パターンを列挙し、それを“政治的な信用詐欺”と名付けた。以下はその一例である。

 *何らかの口実を設けて批判を抑圧し、如何(いか)に真実であろうとも彼らの政策に不都合な事実を述べる者は誰でもこれを罰する。

 *大衆から奪った精神および思想の自由を償うために、物質的事業に公金を投入浪費する。

 *国家の経済的立場を実際よりも良く見せるために、通貨工作を施す。

 *国内の不満から国民の眼(め)を逸(そ)らせ、外に向かい爆発させる手段として対外戦争を始める。

 *個人的権威の鎖を国民に打ち込む手段として、愛国の歓声を利用する。

 *自導心ある協力者を犠牲にし、逆に追従者を作り出す。

 *真に価値あるものでなくとも、ただ荘大で感情的なものに惹かれる大衆の好みに訴え、国家の上部機構を拡大させ、その土台を危険に陥れる。

戦略家リデルハート(Wikipediaより)

戦略家リデルハート
(Wikipediaより)

 「彼ら」を習主席や共産党幹部と読み替えれば、リデルハートの指摘した政治的信用詐欺の全てが今日の中国の政策に見事なほどに当てはまる。こうした行為が継続される結果、たとえ自身の代では起きずとも、その後継者の下で彼らが作り上げた体制やシステムは崩壊を来すのが歴史の必然と、彼は結論付けている。

 専制主義が自壊の運命を辿(たど)るのは、それが人間から自由を奪い強制に頼るという内在的な欠陥を抱えているからだ。人類進歩の流れを作り出してきたのは、人間の思考力である。考える人間は、自由な思考を妨げる権威主義や専制主義に反対するものだ。独裁者や専制主義者は自らの権威に復しない思想に恐怖を覚え、検閲や焚書坑儒(ふんしょこうじゅ)を繰り返してきた。しかし、批判や真実の追究は学問や社会発展の生命である。自由の抑圧や強制は、抑圧や強制された努力によって得られた以上のものを失う危険に直面する。

 また社会進歩やイノベーションにとって、情念の存在も重要だ。しかし、情念は抑圧や強制と両立し得ない。情念は本質的に自発的なものだからだ。情念の喪失は、社会の活力や発想の多様性を奪う。批判を許さず、真実を国家や独裁者の都合に従属させ、その受容を国民に強いる専制国家は、強国然と振る舞ってもその衰退は早く、覇権国家にはなり得ない。リデルハートの説く如(ごと)く、また歴史が示すところでもある。さらにリデルハートは、文明は信義を守る慣例の上に築かれるものだとも述べている。人治主義が支配し、独裁者の恣意(しい)や共産党の意向で政策が突然否定され、方向が逆転する国に普遍的価値の創造や国際ルールの構築は難しく、国際社会も信頼を置かないとの謂(い)いである。

日和見の国誘う戦略を

 こうした歴史の法理を耳にしてもなお、恫喝(どうかつ)や報復を恐れ、反中の旗幟(きし)を示さず、日和見(ヘッジング)する国もあろう。そうした国に対しては、敢(あ)えて特定の敵対国を表立って批判の対象とはせず、軍事であれば正面装備を避け、通信や補給などの後方分野に、また人道支援を強調し、社会インフラの整備に支援を注力することで関係を深め、民主陣営に組み込んでいくコバートバランシング(covert balancing)戦略が提唱されている。我が国が対外協力政策を進める上でも一考に値する提言と言える。

(にしかわ・よしみつ)

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