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現実味増す台湾危機を考える

元統幕議長 杉山 蕃

米中の軍事バランス変化
「台湾関係法」いつまで通用?

杉山 蕃

元統幕議長 杉山 蕃

 先進7カ国(G7)首脳会議、北大西洋条約機構(NATO)首脳会議、日米首脳会談をはじめとし、米軍高官の議会証言、両岸首脳の発言等、台湾問題の情勢が厳しさを増しているとの見方が強まっている。これら状況を受けて、今回公表された令和3年度防衛白書では、台湾情勢についての記述にかなりの力点が置かれているが、若干の私見を披露したい。

 台湾情勢が国際問題として浮上してきた背景は、当然、中国海軍の異常な拡大であるが、合わせて中国艦隊の外洋進出、特にバシー海峡、宮古水峡を経由、台湾を包囲する格好での演習行動、海峡中央線を越えて台湾の防空識別圏(ADIZ)に侵入する航空活動等があり、1996年第3次台湾海峡危機の状況に近いといわれている。当時、圧倒的に優勢であった米軍は、空母を派遣し、危機は収まった。しかし今般は、状況が異なる。戦闘艦艇数で米海軍を上回る中国が簡単に折れるとは思われない。

中国にとって最大の壁

 一方、米軍インド太平洋軍司令官は、上院公聴会で、6年以内に中国が台湾に侵攻する可能性があると証言し、注目を浴びている。おそらくは、中国が公表し進捗(しんちょく)している大型ミサイル巡洋艦・攻撃型原潜の充実、空母部隊建設の進展等を踏まえた証言と考えられ注目に値する。他方、米統合参謀長は、中国には、まだ台湾に着上陸侵攻する力はない旨発言した。これは、中国海軍は、艦艇数は充実してきたが、海上航空(空母、艦載機)をはじめ建設途上にあり、実戦能力という点から冷静に見た発言と思われる。

 しかし、査定された予算面から見ると、米海軍は来年度15隻の戦闘艦が退役するのに対し、新造艦の就役は8隻にとどまり、隻数の減少は止まらないと見られ、海軍力の質的実力はともかく、量的バランスは変化を遂げていくと思われる。

 中国側から見ると、香港、ウイグル、南シナ海で国際的非難を浴びつつも、軍事・経済を中核に着実に独裁政権としての成果を上げてきた。そしてその勢力範囲を、「一帯一路」政策の下、インド太平洋地域に拡大しつつある。しかし、こと台湾問題となると一向に進展がない。「一つの中国」の理念を正面に台湾問題を「内政問題」とし、他国の干渉を拒否する立場を堅持しているものの、65年間大した変化はない。最大の壁は、米国国内法である「台湾関係法」にある。

 同法は79年、中華人民共和国との国交樹立、中華民国との国交断絶に際し、台湾地域での平和的環境維持のため、「台湾の安全を脅かす武力行使等に対抗し得る防衛力を維持し、適切な行動を取らねばならない(安全保障項要旨)」として制定され、現在も厳存する。そして同法成立の経緯から、中華人民共和国承認の条件と見られ、中国としても無視するわけには参らないものである。したがって、台湾問題は中国にとって、引くに引けない最重要課題でありながら、軽々に手を出せない状況にあり続けていると言える。

 ここで大きな問題は、台湾関係法に明らかな如(ごと)く、米国が圧倒的な軍事力を有することを前提とする国内法であり、中国の軍拡の進捗から見て何時(いつ)まで通用するのかという疑問である。米中軍事力の質的状況が早々に逆転することはないにしても、変化の傾向は顕著である。当面の処置としては、国際的な包囲網の形成による「軍事的行動抑止」への圧力、台湾自身の防衛力の充実、米軍事力のインド太平洋地域の強化といった諸策を総合的に進めることになろうが、何(いず)れにせよ、台湾地域の平和的解決には、軍事的バランスの均衡が何より肝要であり、関係国の努力が必要であることは論をまたない。

微妙な位置にある島々

 台湾といえば、本島が念頭に来るが、金門・馬祖と呼ばれる中国福建省海岸に近い台湾支配の島々、南シナ海北部に台湾が保有する東沙等、微妙な位置にある島々がある。金門島は中国本土より至近距離にあり、フェリー便で、年間数十万といわれる中国からの観光客で賑(にぎ)わい、水道は対岸からパイプで供給を受けているという。内戦直後の厳しい対立の最前線であった時代とは全く違う姿に変わっているのである。蔡英文総統の就任以降、独立志向が強まりつつあるとされる台湾の民意の変化等もあり、我が国は当地域の平和的推移を願う立場から、情勢の変化に万全の注意を払っていく必要がある。

(すぎやま・しげる)

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