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日本に必要な自主自立の精神

拓殖大学国際日本文化研究所教授 ペマ・ギャルポ

国防は国の最重要責務
米への他力本願は甘えの構造

ペマ・ギャルポ

拓殖大学国際日本文化研究所教授
ペマ・ギャルポ

 菅総理の国民に対する公約ともいうべきスローガンは、「自助共助公助」であると広く報じられた。私にはこれらの言葉は大変良く響き、特別な思いを持っている。私が幼少時通った難民学校「チベット難民自助協力センター」を開設したのはダライ・ラマ法王の義理の姉であるミセス・ギャロウ・トンドゥップであった。

 彼女は私たち子供にも「Self help is the best help(自助は最高の助けである)」と「God helps those who help themselves」(天は自ら助くる者を助く)つまり、難民だからと言っていつまでも他に頼ってはならない、ましてや祖国のために尽くそうと思うなら、まず自分たち自らがしっかりしなければならないと常日頃おっしゃっていた。

言行一致しない菅首相

 また日本に来て偶然にも私が通った亜細亜大学の建学の精神は「自助協力」であった。さらに私は福沢諭吉の「独立自尊」という言葉にも共鳴した。以来、私の人生でこれらの言葉は大きな支えとなった。それ故に菅義偉首相が語るこれらの言葉には親しみと期待を持っていたが、最近少々疑問に感じることがある。なぜなら菅首相の言行が必ずしも一致していないように思えてきたからである。

 私は個人や民族だけではなく、国家にとっても「自立自主」ということは極めて重要と思う。今世界中の指導者たちは武漢ウイルスと戦っており、その一環としてワクチンが多くの国々で接種されている。国民に信頼され積極的に接種を受けるためイギリスではエリザベス女王陛下、ボリス・ジョンソン首相が、アメリカではバイデン大統領、インドではモディ首相のほかにダライ・ラマ法王が率先して接種を受け、国民に安心感を与えている。

 モディ首相とダライ・ラマ法王が接種したワクチンはインド製のものである。科学技術が最も進んでいるはずの日本が自国製のワクチンを作れないことと、首相が国民に先立ってワクチンの信頼性を示すデモンストレーションをしないことは、私には自助の精神が欠けるように見える(注・16日に接種)。

 また中国は2013年に武装警察の管轄内で発足させた中国海警局を、18年から軍事委員会の直轄で軍隊化し、さらにこのたび、外国船舶への武器使用を法的に認めた。こうした脅威に対しても、アメリカのバイデン大統領が日米間の安全保障条約に基づいて守ってくれると言ったからといって喜ぶ菅政権や日本政府にも自主自立の精神が欠けているようにも見える。

 自国の領海領空領土を守るのはその国の最も重要な責務であり、アメリカが助けてくれるという他力本願は、日本国の自主自尊に関わる問題である。日本国および日本国民が、自ら自国を守るという姿勢を示さずに、他の国に命を懸けて守ってほしいと期待することは甘えの構造以外の何物でもない。いまだに日本の国会議員たちは、海上自衛隊や海上保安庁の武器使用に関する法律を作る代わりに解釈で済ませようともめているが、これは自主独立国家としてふさわしいのだろうか。

 他の国から信頼され、尊敬されるには日本国の自主性と独立性を示すことが肝心である。中国政府は厚顔無恥にも今回の全国人民代表大会(全人代)開催中に、アメリカが言うウイグルでのジェノサイドがでっち上げであると決め付けた。その前にも中国政府はウイグルとチベットは民族政策で最も成功した事例であると誇らしげに宣言している。1960年、国際法律家委員会(ICJ)が345ページにも及ぶ調査結果を報告し、チベットで計画的組織的ジェノサイドがあったと結論を出したことも中国政府は無視している。

独自路線で影響力示せ

 日本政府は中国と強いパイプがあると言い、中国のバックアップで天安門事件のまねごとをしているミャンマーの軍事政権に対しても同様に太いパイプがあるとして、先進諸国の制裁に同調することを躊躇(ちゅうちょ)している。もし本当に日本政府が中国共産党ならびにミャンマーの軍事政権に対してそのような影響力があるなら、他の国々と違って日本独自の路線でこれらの人権弾圧、大量殺戮(さつりく)を阻止する働き掛けをし、世界から信頼と称賛を受ける行動を示すべきである。でなければただの傍観者か、極端なことを言えば間接的な共犯者に見られても仕方がない。

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