«
»

2021年 日本外交の課題

東洋大学教授 西川 佳秀

求められる“攻めの外交”
米新政権への楽観は禁物

西川 佳秀

東洋大学教授 西川 佳秀

 コロナ災禍に襲われた2020年が過ぎ、新たな年が幕を開けた。有効なワクチンが行き渡り、21年が人類にとってコロナ封じ込めに成功した記念すべき年となることを願うばかりである。昨年はアメリカ大統領選挙の年でもあったが、共和党支持者の8割が「選挙に不正あり」と信じ選挙結果に異議を唱えるなど、アメリカは分裂と混迷の極にある。

 そのため新大統領を確定できない異例の状況が続いているが、仮に民主党のバイデン新政権が発足するとなった場合、日米関係はどのような展開を見せ、また我が国の外交や対米政策にはどのような舵(かじ)取りが求められるであろうか。

親中反日の民主党政権

 日米関係を顧みると、民主党の指導者や政権には親中反日の傾向があり、厳しい対日政策を採ることも多かった。古くは蒋介石を支援し、対日石油禁輸で日本を対米開戦に追い込んだフランクリン・ローズベルト、既に継戦能力を失っていた日本に2発も原爆を投下したトルーマン、近くは、自由貿易を唱えながら数値目標の設定を求めるなど戦後最も厳しい経済交渉となった日米包括経済協議を仕掛ける一方、日本を素通り(ジャパンパッシング)して北京を訪問、そのまま帰国したクリントン大統領らが挙げられる。

 またリベラルの旗を掲げ、人権や民主主義を標榜(ひょうぼう)する民主党だが、同政権の時に世界的な緊張や国際紛争が多発している。中国の赤化と朝鮮戦争勃発(トルーマン政権)、キューバ危機やベトナム戦争の泥沼化(ケネディ・ジョンソン政権)、在韓米軍撤退騒ぎやソ連軍のアフガン侵攻(カーター政権)、中国が李登輝政権を威嚇した台湾海峡危機(クリントン政権)、そして現下の厳しい国際環境をもたらしたロシアのクリミア併合や中国の南シナ海占拠(オバマ政権)等である。

 共産勢力拡大への対処が手緩(てぬる)かったために、第2次世界大戦後は米ソ冷戦を、1980年代には新冷戦を引き起こし、さらに中国の膨張を許し現在の米中覇権戦を誘発させるなど、国際政治を対立の構図へと悪化させたのがいずれも民主党の大統領であり政権であったことは、正しく記憶に留めおかねばなるまい。

 さて、バイデン政権の誕生となった場合、トランプ氏の厳しい対中政策を継承する一方、前政権とは異なり同盟関係を重視し国際協調路線を取るので、外交関係は安定に向かうとの見立てもある。だが日米関係や、また国際情勢についても安易な楽観論は禁物だ。過去の民主党政権と同様、防衛や通商・経済問題で我が国に厳しい対応を強いてくるケースも視野に入れておくべきである。台湾問題などで東アジア情勢が緊迫する事態に備え、危機管理体制の整備に努めるとともに、アメリカの抑止力や防衛協力に依存するだけでなく、極力自力で対処するとの心構えも必要だ。

 そもそも“反トランプ”の象徴にすぎず、しかも親中派の世評が絶えないバイデン新大統領に、中国の野望、膨張を挫(くじ)く強いリーダーシップを期待することは難しかろう。翻って日本も似たような環境にある。5年前トランプ氏が大統領選挙に勝利するや、安倍前総理は自ら電撃訪米し、大統領就任前のトランプ氏と事実上の日米首脳会談を実現させ、ヒラリーの勝利を疑わなかった外務官僚の失点を補った。

 また西欧諸国が対米関係を悪化させるなか、日本だけは首脳間の強い信頼関係構築に成功し、さらに自由で開かれたインド太平洋(FOIP)戦略を自由主義陣営の共通戦略に押し上げた。しかし、菅総理にそのような首脳外交は望むべくもない。こうした両国の事情から、日米関係は当面外交当局間のお膳立ての中で動いていくだろう。

FOIP戦略継承促せ

 戦後の日本外交は、ともすればアメリカに対する“合わせ”の姿勢に終始しがちであった。そのため時の米政権の意向を探り、その要求を受け入れ、善処することで事足れりとする受け身消極の外交スタイルが染みついてしまった。しかし、国力に陰りが見えるアメリカを支え、かつ自由世界を守るためには、日米同盟の強靭(きょうじん)化にとどまらず、バイデン新政権にFOIP戦略への支持と継承を強く促し、さらに海洋諸国家と多角重層的な連帯関係を構築するなど、積極能動的な“攻めの外交”が日本に求められる。受け身で待ちの姿勢では、厳しい国際環境を生き抜くことなどできないからだ。

 にしかわ・よしみつ 1978年、大阪大学法学部を卒業し、防衛庁入庁。英国王立国防大学院に留学。防衛庁長官官房企画官、防衛研究所第3研究室長などを歴任し、2002年より東洋大学教授。著書に『日本の外交戦略』(晃洋書房)など多数。

3

コメント

コメントの書き込み・表示するにはログインが必要です(承認制)。