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国民総参加で海の生態系管理を

一般社団法人生態系総合研究所代表理事 小松 正之

水産資源は「共有の財産」
民間シンクタンク設立を提言

小松 正之

一般社団法人生態系総合研究所代表理事
小松 正之

 一般財団法人鹿島平和研究所(会長・平泉信之鹿島建設取締役)の海洋生態系研究会(主査・小松正之=筆者)は7月、「水産から日本国家の大局的な構造改革モデルを」と題した中間提言を公表した。日本の海や魚を「国民総参加で守る」、水産資源の保護や持続的利用を図る「生態系管理」の推進などが柱だ。

 提言ではまず、海や資源を「国民総参加で守る」という理念を強く打ち出した。現在、誰のものでもない「無主物」の水産物を、「国民共有の財産」と位置付けるべきだとする主張に加え、海や資源は消費者を含めた「すべての国民がステークホルダー(利害関係者)」であると「新たな法律」に明記することを求めた。

自然の力を活用し防災

 海や魚は自分たちの所有物だと錯覚している漁業者が多いため、資源管理ができておらず、漁業が衰退している。

 豊かな海や資源を再び取り戻すために提唱されたのが「生態系管理」という概念である。サバやサンマ、サケ、マグロなど単一魚種の研究だけでは、資源の保護や管理には不十分で、河川や海、酸素、植物・動物プランクトンなど、食物連鎖を含めた生態系全体を科学的に調査し、海水温の上昇でさらに悪化した環境を改善して、水産資源を回復させることが重要だ。

 筆者が現地調査する陸前高田市の広田湾では、昨年3月時点で調査地点の最低水温が5度まで下がっていたが、今年の同時期は7・5~8度と1年間で2・5~3度も上昇していることが判明。8月25日には27・5度(昨年より2度高い)に達した。養殖カキが海中で餌とする植物プランクトンのクロロフィル量が極端に減っている。

 過去数年は出荷のスタート時期だった10月を過ぎても、実入りが良くならない状況が続いている。夏には殻付きカキと岩ガキとエゾイシカゲガイを育てるなど漁場を休ませず、周年、過密養殖になっている。

 海岸線の巨大コンクリート堤防や河岸堤の建設によって湿地帯・砂州が減少した。これにより湿地帯、川から海に流れる水量の減少や、水量が多い時期も山・森林と氾濫原(はんらんげん)から運ばれてきた栄養分が大きく減少しているほか、陸上の泥がそのまま海に流れている。米国のスミソニアン環境研究所や米政府の研究機関では、コンクリートの前面では生物多様性が減少するとの研究結果も出ている。

 防災と生態系の改善を両立させるため、堤防・コンクリート建設(グレープロジェクト)だけでなく、自然の力を活用すべきだ。湿地帯を造成したり、川の氾濫や津波を防ぐための木を植えたり(グリーンプロジェクト)して、堤防と合わせて防災に取り組むことが重要である。

 政府から独立させた形で科学調査を行う民間のシンクタンク「海洋生態系研究所」の新設も提言に盛り込んだ。

 国立研究開発法人水産研究・教育機構について「予算と人事が水産庁と一体になっており、水産庁に対して意見が言えないのが大きな問題」とし、国際法や経済・経営の視点も取り入れて研究を進める必要性も訴える。

 また、新シンクタンクでは、既に生態系研究が進んでいるスミソニアン環境研究所やオランダのデルタレス研究所など、海外の研究機関と意見交換や交流することも強調した。

最終提言を世界に発信

 今後、中間提言の内容をさらに議論を深め、実行に向けた行動計画を作成し、来年の夏~秋をめどに最終提言をまとめる。多国間で領海や排他的経済水域(EEZ)など海洋に関する規定を定めた国連海洋法条約や、北太平洋の漁業に関する国際条約など外交についても検討する方針。さらに海の生態系と農業との関係性も重要で、農業と海がどうすれば共存できるのかも探る。

 実現に向けて政府、農林水産省、水産庁、国土交通省や漁業関係者、政治家などに働き掛ける。一方、中間提言と同様に英文化し、米、加、豪、ノルウェー、欧州連合(EU)の各国政府や研究機関、国連食糧農業機関(FAO)、経済協力開発機構(OECD)、国連教育科学文化機関(ユネスコ)などの国際機関、ハーバード大、エール大、世界海事大学など、世界に向けても発信して、日本の遅れた海洋水産政策の現状についても諸外国の理解を深めていきたい。

(こまつ・まさゆき)

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