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多様多層的な中国経済スパイ

日本安全保障・危機管理学会上席フェロー 新田 容子

あらゆる製造業を標的に
大学院生や研究者も工作員

新田 容子

日本安全保障・危機管理学会上席フェロー 新田 容子

 次世代通信規格「5G」を含む次世代テクノロジーや、新型コロナウイルス感染症のワクチン研究関連の情報、知的財産の窃盗をめぐり、米中の覇権争いの激化がクローズアップされている。米国のほか、日本を含む企業数百社が中国スパイの標的になった。

 7月上旬、米国連邦捜査局(FBI)のレイ長官は中国政府によるスパイ活動と盗用行為について、「中国はどんな方法を使っても世界唯一の超大国になろうと、国家的な取り組みを進めている」と述べた。我が国も特に情報と知的財産、そして経済の活力を脅かすもの―中国経済スパイの脅威―に対して理解を深め、効果的な対応を示したい。中国の脅威は経済的安全保障への脅威であり、ひいては国家安全保障への脅威だ。

企業内に共産党「セル」

 中国からの脅威の第一点は、いかに多様で多層的なものであるかだ。物理的な窃盗、サイバー攻撃をはじめ、内部関係者まで利用する幅広い手法と技術を駆使している。自国の諜報(ちょうほう)機関だけでなく、国有企業、表向きは民間企業、大学院生や研究者、他の幅広いアクターを通じ、イノベーションを盗んでいる。

 上場企業、中小企業、政府や学術機関からハイテクや農業、大学の最先端の研究に至るまで、ターゲットとする分野や規模も多様化しており、標的は防衛分野の企業、技術革新や研究開発だけではない。米や野菜の種子からさまざまな用途のソフトウエア、ハイエンドの医療機器まで、あらゆる製造業を標的にしている。コストや価格情報、内部戦略文書、大量の個人情報など、競争上の優位性が得られるものなら何でも狙う。

 中国政府は全ツール・全セクターのアプローチをとっており、これに対応するためには、我が国も全ツール・全セクターのアプローチが必要だ。

 第二点は、中国政府と中国共産党の野心の範囲だ。中国政府は、経済的・技術的リーダーシップで他国を凌駕(りょうが)するために、外国投資や企業買収と、企業内部者によるサイバー侵入やスパイ活動を組み合わせて、合法・非合法を問わず、非伝統的な手法を拡大している。

 ここ数十年、中国は低コストの中国の労働力と欧米の資本と技術を組み合わせて経済を急成長させてきた。しかし、中国の指導者たちは、いつまでもこのモデルに頼るわけにはいかず、最先端の技術を飛躍させる必要があることを知っている。昨年3月、李克強首相は共産党の集会で「我が国のイノベーション能力は決して高くはなく、主要分野のコア技術の弱さは依然として顕著な問題である」との理解を明確にした。

 第三点に、中国は我々とは根本的に異なるシステムを持っており、我々の開放性を利用している。中国では、中国政府と中国共産党の区別、民間部門と軍事部門や用途の区別、国家とその企業部門の区別などが曖昧だ。

 中国の国家安全保障法は、中国企業が政府の要請に応じて情報を提供し、アクセスすることを義務付けている。中国のあらゆる企業は、党の理念や政策に沿っているかを確認するために、内部に共産党の「セル」を持つことを要求されている。

 一方、彼らは中国の巨大な市場へのアクセスを得るためのコストとして、企業秘密や顧客の個人情報を危険にさらすことを企業に求めている。そして、中国で事業を展開するアメリカの合弁企業に、企業内に共産党の「セル」を設立させている。

 また、華為技術(ファーウェイ)のような大手ITプロバイダーが、日本企業の中国での活動に幅広くアクセスしている。日本企業は、詐欺、司法妨害、企業秘密の窃盗などで告発される環境で事業を行うことがどういうことなのか考えてほしい。

 多くの海外パートナーの協力を得てイノベーションを起こそうとしても、我が国の事情で、刑事告発や民事の差止請求、経済制裁、ビザの取り消しなど、さまざまなツールが使えないのであれば元も子もない。政府と民間部門が協力して、社会全体で対応する必要がある。

全く異なるレトリック

 改正外為法が施行されたが、経営者や取締役会は、誰と取引をするか、誰をサプライチェーンの一部にするかを慎重に検討してほしい。中国が言う「イノベーション」「グローバルガバナンス」「開かれた市場」は我々のレトリックとは全く異なる。

(にった・ようこ)

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