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イージス・アショア計画停止に思う

元統幕議長 杉山 蕃

望ましい陸上配置型装備
陸自のシステム近代化を期待

杉山 蕃

元統幕議長 杉山 蕃氏

 6月15日、防衛省は難航していた弾道弾迎撃用「イージス・アショア(以下AA)」システムの配備計画を停止し、事実上中止する旨、河野防衛大臣が発表、配置を予定していた陸自演習場が所在する秋田・山口両県に陳謝する事態となった。実に残念な結果であるが、問題は多々あろうことから、若干の所見を披露したい。

艦艇での対応には限界

 大臣説明では予定する迎撃弾(スタンダードミサイル3型ブロックⅡA)の1段目ロケットが、燃焼後、演習場内に落下させられる保証がなく、従来の地元への説明と齟齬(そご)を来し、小改修では解決できないことが原因とされている。防衛省側としては大変な失態であるが、経費高騰等、複雑な事情もあったのであろう。

 もともと本システムは、北朝鮮の弾道弾開発に対応するのが主眼である。現行の体制は、弾道弾が大気圏外を飛翔するフェーズでは海自イージス艦搭載のミサイルで迎撃。打ち漏らした場合は、大気圏内で、空自パトリオットPAC3ミサイルで破壊することとなっている。しかし北朝鮮ミサイルの高次化(ロフテッド軌道、軌道変更等)により対応が困難になりつつある一方、PAC3ミサイルは引き付けて射撃する関係上、守備範囲が狭いという難点を持っている。

 AAはこの間隙を埋めるため、弾道弾が大気圏に突入する前後を狙って迎撃するもので、広い守備範囲を持つ不可欠の対応システムなのである。米陸軍が韓国に配備した「高高度防衛ミサイル(THAAD)」システムも同様の能力を持ち、有力な候補であったが、海自艦艇との共通性、経費見積もり等の観点から、AAを選択したとされている。

 しかし、THAADが2008年から製造され、兵器として十分実用化されているのに比し、AAは北大西洋条約機構(NATO)防衛用に開発中のシステムで、各地に関連サイトはあるものの、高射部隊としてはルーマニアに1個単位が存在する他、二つ目の部隊をポーランドに建設中とされている。いわば開発途上にあると言ってよい。

 我が国の場合、北朝鮮が世界中の反対を押し切って、核弾道弾を開発している情勢から、より有効な対応策を講じ、弾道弾開発が決してペイするものでは無い状況を作り上げていくことが何より重要である。

 報道では、当面イージス艦の増勢、艦艇艦齢の見直し等の諸案が挙げられているが、本来的に24時間、常時最適位置に位置する負担を、艦艇に頼るのは、天象・海象を考えただけでも相当な無理があり、やはり陸上配置型の装備配置が望ましい。

 本件に関しては、陸上自衛隊が担当することが望ましい、という持論を筆者は持っている。理由は近代戦に不可欠のIT戦、ネットワーク戦の観点から見ると、陸上部隊の近代化はなかなか進んでいないのが実情である。今回、宇宙速度で展開するミサイル戦に対応することは、陸自の情報・指揮システムを分・秒単位に凝縮させる近代化が不可欠で、この点、大きな期待を持っているからである。

 航空自衛隊車力分屯基地(青森県)には、米陸軍レーダー部隊が07年以降、駐屯している。保有装備はTPY2と呼ばれるXバンド対空レーダーで、THAADシステムのレーダー部分と考えてよい。ここ10年以上、日本海上空のミサイル飛翔監視に任じている。さらに2台目のレーダーが、空自経ヶ岬分屯基地に配備され、米国による対北朝鮮弾道弾監視の大きな存在となっている。

 THAADの韓国配置に際し、本レーダーの性能が中国に不利をもたらすとしてクレームし、中韓間で大きな騒動となったのは、読者承知のことであろう。このように北朝鮮弾道弾に対する対応網は、着実な努力が行われていることを承知すべきである。

捲土重来期し対応策を

 今回のAAのみならず、海自ヘリコプター搭載護衛艦(DDH)「いずも」の戦闘機発着機能付与、空自次期戦闘機(FX)の機種選定等、防衛計画の中核を成す骨幹事業が、安倍トランプ共同記者会見(17年11月6日)以降、急展開で決定された。従来、極めて慎重な調査・検討を行ってきた「新規装備」の選定が、トップダウン的に「スピード感」をもって処置され、細部に検討が甘くなったと言われてもやむを得ない。ここ数週間、捲土(けんど)重来を期して対応策を講じてほしいものである。

(すぎやま・しげる)

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