«
»

新型コロナ禍最中の国産空母就役

拓殖大学名誉教授 茅原 郁生

中国は強軍より防疫を
空母打撃群保有に莫大な経費

茅原 郁生

拓殖大学名誉教授 茅原 郁生

 中国を発生源とする新型コロナウイルスによる肺炎は、中国内で約8万人に感染、死者も3000人を超し連日報道を賑(にぎ)わせている。

 わが国でも、クルーズ船がらみの感染者の拡大や死者も出ているが、100カ国を超える多国にも感染は拡大し、遅ればせながら世界保健機関(WHO)はパンデミック宣言を出した。中国はメンツに拘(こだわ)って危機感より防疫戦争勝利を強弁している。これを米紙は「中国はアジアの病人」とし、「言論の自由を抹殺した人災」との論評まで出して米中角逐に新たな火種を増やしている。

仏露インド並みの戦力

 折から中国では国産空母「山東」の就役式が海南島の三亜港で盛大に行われていた。新華社電(昨年12月18日)は白の制服に身を固めた乗組員が仰々しく居並ぶ飛行甲板で、習近平国家主席から艦長に公試終了後の空母を「山東」と命名した書が手交される儀式が大きく報道された。

 このような時勢に中国内のインターネット交流サイト「微博」で「空母建造など『一流の海軍』建設より、医療・衛生面での一流化を求める」との書き込みが報じられたが(今年2月19日付本紙)、筆者は来るべきものが来た思いで注目している。中国では習近平時代になって、19回共産党大会で表明されたように21世紀中葉に世界最前列に立つ強大国家を目標に掲げてきた。そこに向けたナショナリズムの鼓舞と強引な強軍路線に内在する歪(ひず)みが新型コロナへの中国の初動対応を狂わせ、弾力性を失った各級行政機関が拡散を抑え切れなかったとの批判に繋(つな)がっている。

 いよいよ実戦配備される「山東」の実態はなお不透明であるが、大連船舶重工集団で2013年に起工され、38~44機搭載可能の5・5万㌧で、米空母ニミッツ級に比べれば半分以下の搭載戦力になる。

 そもそも航空母艦とは航空戦力の運搬具であり、艦載機の発・着艦力こそがその実力に直結する。「山東」は飛行甲板の先端が反り上がるスキージャンプ方式艦で、カタパルト方式の米艦には比肩しようもなく、仏露インド並みの戦力と見られている。搭載機は実験空母「遼寧」と同じく殲15戦闘機とすれば、戦力発揮にはエンジンの出力不足など依然課題を抱えることになる。現に「山東」の引き渡し前の公試運転中の作戦機の離発着状況の公開は少なく、命名式の写真にも飛行甲板に搭載機影がないだけでなく、きれいに飾り立てられた甲板には飛行機の離発着に伴うタイヤ痕も見えなかった。

 中国では「山東」に続いて空母3番艦の建造が上海江南造船所で進められており、最終的には4、5隻の空母保有を目指している。中国が21世紀中葉までの世界最前列に立ち世界覇権を狙うからには、米国並みの空母打撃群の保有が目指されるのであろうが、スキージャンプ式空母では発艦に技術的限界が残る。

 同時に空母打撃群には、「動く航空基地」としての機動力や防空など空母の安全性が不可欠となる。米海軍の例では、航空打撃力の中核を占める空母の他に水上戦や防空戦を担うミサイル巡洋艦、ミサイル駆逐艦、駆逐艦、フリゲート艦などの水上護衛部隊、水中での対潜水艦戦を担う原子力潜水艦、艦隊の燃料・弾薬などの補給艦、状況によっては両用戦を戦う強襲揚陸艦などを随伴して統合戦力を纏(まと)めて機動させる力が必要になり、それがあって初めてパワープロジェクション力発揮が可能になる。

 空母打撃群の保有は大国の象徴だけでなく実際の国際政治でも極めて有効であるが、その保有には莫大(ばくだい)な経費と高度な軍事技術を要すことは周知で、現に「山東」の建造費は船体だけで4800億円、搭載機や随伴艦艇を纏めると1兆2700億円(8000億元)という膨大な経費がかかるといわれている。今日の米中角逐や新型コロナとの防疫戦争を抱えながら、逼迫(ひっぱく)してくる経済苦境の中でそれだけの投資は可能か、が問われてくる。

国際協調路線に転換を

 先に見た「微博」に現れ始めた下からの声は党によって抹殺されようとも、中国の軍拡路線修正の起爆剤になる可能性はある。新型コロナの世界的拡大に鑑み、パンデミック発生源となった中国は「防疫戦争」の先頭に立って奮闘する責任があり、これを契機に国際的な平和協調路線に切り替えてほしいものである。

(かやはら・いくお)

3

コメント

コメントの書き込み・表示するにはログインが必要です(承認制)。