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予算低迷10年の影響深刻

元統幕議長 杉山 蕃

令和元年の防衛問題を振り返る
米中の軍事力拮抗に備えよ

杉山 蕃

元統幕議長 杉山 蕃

 早いもので、令和元年も師走の声を聞く。大いに荒れた日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)問題も米国の強力な仲介で韓国が折れた形で継続されることとなった。まずは結構なことと受け取っている。

 交渉の過程でいかなる譲歩があったのか今の段階では知る由もないが、これから本格的に尾を引く問題と考えてよい。特に、韓国大統領の「日本とは、情報を共有できない」とする決定的な発言があり、日韓関係は一段と距離を置くこととなった。長い目でそれぞれの国益を考えるならば、韓国の孤立化は避けられないこととなり、文政権の支持率も低下の一途を辿(たど)るものと考えている。

拡大続ける中国国防費

 今回は一年を振り返り、問題意識を持って、課題と考える事項を2点披露してみたい。

 まず第1点は防衛努力全般に関する事態である。我が国の防衛予算は年度当初ベースで本年度5兆円を超えた。まずは結構なことであるが、表面的な事実を捉えるだけでは意味がない。過去の予算を概観すると、平成17年4・8兆円だった防衛予算は、7年間にわたり漸減を辿り、4・8兆円に復するまで10年を要した。この防衛予算低迷の10年間の影響は極めて大きく、今に影響を与えている。

 ちなみに中国の防衛予算は公表ベースでも、平成17年から26年の同時期に2000億元から4倍の8000億元に達し、その後も年率7%程度の拡大を続け、本年度は1兆1800億元(約17兆円)の巨費を計上しているのである。一方、2019年米国防予算は約80兆円、うち作戦実施費災害派遣費が20兆円であり、通常の防衛費は約60兆円と考えてよい。ここ10年国防予算に大きな変化はなく(約60兆円)このままのペースで推移すれば、15年後には中国の国防費が米国に追いつくことが予想される。

 このような米中が軍事力を拮抗(きっこう)させる近未来を考えるとき、台湾、朝鮮半島、南シナ海沿岸諸国が、各国の安全保障について、従来とは異なる対応を取ることが十分考えられる。現に韓国においては、年度国防予算が4兆円に達し、我が国と比肩する状況にある。そして、米韓連合軍の指揮権問題とも関連し、「自主防衛論」が台頭している。米国からは在韓米軍の旅団規模の撤収問題、駐留費負担の大幅な引き上げ要求等があり、摩擦も激しさを増している。このような中国軍事力の拡張が背景となる変化は覚悟しなければならない。我が国としても防衛力に対する努力はいかにあるべきか20年30年を見越して深刻な検討が必要なのである。

 第2点は昨年末生起した韓国駆逐艦による海自哨戒機への火器照準レーダー照射事件と、その後の処置である。事件そのものは、「照射した」「しない」の押し問答、低空威嚇飛行を行ったとかの言い合いになり時間の経過とともに話題性を失って現在に至っている。本件、国際的な反響はともかく、我が排他的経済水域(EEZ)内での韓国艦艇を代表すると言える2隻の艦艇が、経済封鎖が厳しく行われている北朝鮮の漁船と接触するという胡乱(うろん)臭い行動を取っており、この状況を確認していた海自哨戒機をレーダー照射により追い払ったという結果が残った事実は否めない。

 海自の公表した映像、音声の状況から、接触・監視を中止した判断はやむを得なかったと考えているが、状況確認という観点からは任務を中止したことになり、残念な結果となったと認識する。直後の本欄でのコメントで、哨戒に任ずる海自哨戒機への自己防御用チャフフレアー射出機能の付与を提言したが、ぜひ強力に進めてほしいと考えている。今後、対韓国のみならず、前例のある対中国でもその必要性はますます加重されるのは明らかである。

監視用ドローン活用を

 さらに今回は海上監視活動の一層の充実を図るため、監視用ドローンの活用を提言したい。各自衛隊は、偵察、射撃標的等に各種のドローンを使用しているが、その有用性は大いに高まっていると言ってよい。特に広範囲に及ぶ海域監視には、哨戒機と併用して映像収録とリアルタイム送信が可能なドローンを併用すれば、より正確な監視活動が可能となる。さらに前回のような不測事態においても、最小限の監視活動の継続が可能であることは言うまでもない。対領空侵犯処置、海上監視活動といった平時の行動は、一国の主権厳守、国防に対する毅然(きぜん)たる意志の表象とも言える重要性を有する。前回の事象を参考に一層の厳格さを望むところである。

(すぎやま・しげる)

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