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米の「航行の自由」作戦の意義

日本大学名誉教授 小林 宏晨

「開かれた海」の原則堅持
南シナ海を舞台に中国と対決

小林 宏晨

日本大学名誉教授 小林 宏晨

 長年にわたる自制の後、アメリカは、2016年1月22日、南シナ海で「航行の自由」作戦を実行した。その3週間後、オバマ米大統領は、東南アジア地域の緊張緩和の可能性について話し合う目的で東南アジア諸国連合(ASEAN)地域の国家・政府首脳を、カリフォルニア州に招待した。なぜなら南シナ海諸島とその資源をめぐる中国と隣国間の紛争は、先鋭化する危険が高まったからである。

 中国は緊張緩和の努力をする代わりに、台湾とベトナムも領有権を主張するウッディー島にミサイル基地を設置することによってむしろ緊張を高めた。この地域紛争と並んで南シナ海は今やアメリカと中国の秩序政策的対決の舞台ともなっている。その際に航行の自由が維持されるのか、あるいは制限されるのかは、重大な地理政策的および軍事戦略的帰結を伴う。

白熱の議論の末に再開

 15年10月27日、アメリカ海軍の駆逐艦ラッセンは、中国が南シナ海に構築した基地から12カイリ以内の領域を航行した。

 アメリカ側の公式声明は、この航行の自由作戦は、国際法に合致した通常出動にすぎず、しかもアメリカがこの海域における航行の自由の制限を受け入れるつもりがないとの意思表示を意味した。

 この作戦には、数カ月にわたるアメリカ議会(上院)における白熱した議論が先行した。その際に南シナ海の現状変更に反対する点では、ジョージ・マケイン軍事委員会委員長、ボブ・コーカー外交委員会委員長、カーター国防長官、ケリー国務長官の意見が一致している。マケイン上院議員によれば、12カイリ制限の承認は、暗黙裡に承認した実質主権を意味することになる。

 アメリカは、長年にわたって南シナ海における中国の領土獲得活動に関心を示さなかった。駆逐艦ラッセンの出動は、この領域における12年以来最初の航行の自由作戦であった。問題は、12カイリの領海請求できない中国と西側諸国間の国連海洋法条約第13条の解釈の相違にあった。つまり中国が浅瀬を領海請求の根拠としているのに対し、西側諸国がこれを否定しているのだ。

 公海とは、国連海洋法条約によれば、沿岸諸国がいかなる沿岸諸国も主権を行使しない海域である。しかしそのことは、自らの領域の確定が沿岸諸国の自由裁量下にあることを意味しない。海域の拡大には明確な限定が付されている。領海はたかだか12カイリ、排他的経済水域は200カイリとされている。

 1996年以来、海洋法条約当事国である中国とは異なり、アメリカは、これまで国連海洋法条約に加入していない。しかし、レーガン米大統領は、83年3月10日、条約当事国がアメリカの権利と自由ならびに国際法を順守する限り、アメリカも条約当事国の航行権と航空権を尊重すると宣言した。このような政策を通してアメリカは、全世界で自らの航行権と航空権を行使し、これらの諸権利を制限する一方的措置を受け入れない。

 現行海洋法の標準的原理は、海を全人類の共同財産と見なすフーゴ・グロチウスの意味における「開かれた海」である。しかし、この原理と対立する動きを示す勢力は、なかんずく力による現状変更を試みる中国である。

 これに対してアメリカの観点によれば、グローバルな公共財としての海に対しては、国際法に合致する全ての権利と自由が妥当する。しかもこれには無害船舶航行権も含まれる。

 このような背景下の航行の自由は、沿岸国の事前の許可のない場合でも、沿岸国の12カイリ海域および200カイリの排他的経済水域を通過航行できることを意味する(海洋法条約第58条)。

 しかし中国は、軍艦の無害通過航行の場合であっても、事前の許可申請を要求している。

連帯行為の遂行検討を

 アメリカはこれまで航行の自由を堅持するために孤独な努力を続けてきた。従って、日本を含む自由主義諸国は、世界的規模で航行の自由を堅持するために、資金援助や共同航行を含めた連帯行為の遂行について真剣に検討することが必要と考える。

(こばやし・ひろあき)

(当記事のサムネイルはWikipediaから引用いたしました)

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