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国連IPCC報告と海洋の危機

東京財団政策研究所上席研究員 小松 正之

温暖化進み生態系悪化
漁獲量の大幅な減少を予測

小松 正之

東京財団政策研究所上席研究員 小松 正之

 台風15号と19号が続けて日本を襲い、多数の地域で水害をもたらした。その後、10月25日には低気圧が千葉県を中心に水害をもたらした。

 ところで、最近の漁業の状況もますます悪化している。サケの日本沿岸への回帰が史上最低であった2017年の5・1万㌧を、本年はさらに下回る。最盛期の1990年には30・8万㌧の漁獲量があったサンマも、本年は11・3万㌧(2018年)のわずか15%の漁獲量にとどまる。スルメイカも1997年の44・7万㌧が、昨年は4・6万㌧で、今年は1・7万㌧(9月末)である。

 上述の9月と10月の台風と大雨は、海には鉄砲水、汚染物質、砂泥・シルト、倒木と瓦礫(がれき)を流し込み、沿岸域は土砂が積み重なり水質は悪化し、漁場に中長期的に大きな悪い影響を残した。

栄養運ぶサイクル攪乱

 さて、9月25日、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が「海洋と雪氷圏(氷に覆われた地域)に関する特別報告書」を発表した。報告書は膨大なので、第5章「変化する海洋と海洋生態系と依存する社会」を見てみたい。

 それによると、海洋は人間の福祉と生存には基本的なものであり、気候の制御やエネルギーのやりとり、炭素循環ならびに栄養のサイクルには鍵となる重要な場所である。海洋は微生物から海産哺乳動物までの生物多様性の住処(すみか)であり、沖合域と沿岸生態系を構成する。

 海洋の温暖化は2005年以来進行し、05年から17年までの海表面から700㍍までと、700㍍から2000㍍までの間では、前者の方が格段に暖かくなっている。2000㍍以深でも温暖化は進行している。近年における温暖化の進行のスピードは増し、海表層での階層化(Stratification)が進んでおり、すなわち海表層から海底への栄養を運ぶサイクルも攪乱(かくらん)され、海洋の微生物から海産哺乳動物までの生物多様性も変化している。

 大気中の二酸化炭素の増加で海洋に吸収される二酸化炭素の量も過去20年間増加している。二酸化炭素の20~30%を海洋が吸収し、吸収量は南太平洋が北太平洋より多い。半面、1970~2010年の間に海水中に溶解する酸素を最大で5・3%失っている。

 これらの結果、漁獲量と漁獲の構成にも多くの地域で温暖化の影響を受けており、第1次生産力、漁業資源の生残率なども減少する。

 沿岸生態系も海洋の温暖化の影響を受ける。温暖化で海面上昇が起きており、また温暖化には全く関わりのない人間の圧力(開発行為や埋め立て)によって世界的にみて湿地帯は50%減少した(瀬戸内海沿岸は自然海岸が50%程度しか残っていない)。また過剰な栄養分や化学物質が入り込んでおり、これを制御する必要がある。窒素分やリン酸分を含んだ農業用水が海に入り込むと海藻(Algae)が発生し、大量の酸素を消費する。

 同報告書のシナリオ(100年間に1度温度が上昇するシナリオRCP2・6、と2度上昇するシナリオRCP8・5)では、今後の予測が異なる。RCP2・6でも2100年までには今後温暖化は2~4倍、RCP8・5では5~7倍進むと予測する。海洋酸性化も進行することから水素イオン指数(pH)が0・042(RCP2・6)か0・29(RCP8・5)も低下する。また漁獲可能な魚の量も9・1%(RCP2・6)から25・5%(RCP8・5)も減少する。

 これは海洋全体の平均値の予測であり、沿岸域は太陽熱の影響と湿地帯を失う影響を受けやすく漁獲可能量の減少はもっと大きいだろうと私は予測する。

科学的漁業資源管理を

 国連IPCCの「海洋と雪氷圏特別報告書」は、極めて暗い未来を予想するが、われわれにできることが何かを冷静に考えることが必要である。

 ①第一に、海洋の温暖化、生態系の悪化を政治家、政府、科学者と国民も早急に理解し、政治と行政は地球温暖化をなくす節電や食料の食べ残し削減など必要な対策を直ちに実行に移すことである。

 ②漁業の資源管理を科学的な根拠に基づいて実施。早い者勝ちは資源を乱獲し海洋生態系を悪化させたことを反省すべきである。国家予算を湿地帯と干潟の海洋の生態系の機能の調査とそれらの保護と回復のため投入すべきである。

 ③農林水産省、環境省と国土交通省や関連する研究機関の縦割りの行政と研究を横断的・包括的な総合生態系・大気研究体制を直ちに構築すべきであろう。

(こまつ・まさゆき)

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