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暗躍するロシアの政治技術者

日本対外文化協会理事 中澤孝之

アフリカで勢力圏を拡大
豊富な資金使い親露勢力支援

中澤 孝之

日本対外文化協会理事 中澤孝之

 「政治技術」とか「政治技術者」という日本語は日ごろ、ほとんどなじみがない。ロシア語(以下、読者のためにカタカナ表記)で「政治技術」は、「ポリチーチェスカヤ・チェフノロギヤ」と書き、英語では、「political technology」である。ロシア語の短縮形は、オジェゴフ露露辞典によると、「ポリトチェフノロギヤ」。また、「政治技術者」は、専ら短縮形が多く、オジェゴフ露露辞典に出ている「ポリトチェフノログ」が目に付く。英語では、「political technologist」である。この用語は、ロシア(旧ソ連)で頻繁に使用されていたにもかかわらず、残念ながら、露和辞典や和露辞典には、知る限りで、ロシア語でも日本語の表記でも見当たらない。

米中間選挙に介入図る

 ただ、「政治技術者」に関しては、さすがオックスフォード露英辞典に、ポリトチェフノログが掲載され、「spin doctor」という英訳が付いている。逆にオックスフォード英露辞典の「spin doctor」を見ると、当然ながら「ポリトチェフノログ」という露訳が示されている。「スピンドクター」は、内外の選挙関係の日本語の記事や論文などでも時折使用される用語で、「選挙運動コンサルタント」(ジーニアス英和大辞典)が適当な訳だろう。

 現代では、ロシアの「政治技術者たち」、まさにスピンドクターたちが、豊富な資金を使って、主にアフリカでも暗躍し、それぞれの国の政治に関与して、クレムリンの都合のいい方向に導くケースが少なくないといわれる。アフリカと言えば、中国企業のアフリカ進出がしばしば話題となるが、片やロシア政府は政治技術者を動員して、アフリカ諸国を舞台に政治、経済の両面で、勢力圏の拡大を狙っているというのである。

 今年4月に、「プーチンのシェフ」と呼ばれる実業家エフゲニー・プリゴジン氏の事務所から極秘文書(露文・A4で7枚)がネットに流出した。この文書は、数枚の集合写真付きで、「いかにして(アフリカ)20カ国での選挙にロシア(の政治技術者ら)が介入したか」についてのリポートであると前書きに書かれ、極めて興味ある内容だ。この文書は、権力の座に居続けるようモスクワが願う専制的な指導者への支援と、モスクワが嫌う専制的な指導者に反対する野党集団への支援とに、ロシアの政治技術者たちが同時に関与していると指摘している。

 プリゴジン氏と言えば、2016年米大統領選でインターネット調査会社に資金を投じて介入を図ったとして、米当局に昨年起訴された被告だ。さらに、米財務省は今年9月30日、インターネットを通じた対米世論工作で昨秋の米中間選挙に影響を与えようとしたとして同氏と関連企業の関係者らに制裁を課したと発表した。制裁対象はプリゴジン被告ら7人と「インターネット調査会社」など関連の4企業など。これは中間選挙への介入で初めての対露制裁である。

 ベーカー元米国務長官の特別顧問だったポール・ゴーブル氏によれば、「旧ソ連邦の全域でよく聞かれる『政治技術』というツールを、クレムリンはロシアだけでなく他の旧ソ連構成諸国で1990年代から広範に使い、それ以来、それはさらに遠く隔たったアフリカでさえもロシアの主力の『輸出品』となってきた。モスクワは世界中の親ロシアの専制的な政権が権力の座にとどまれるように、あるいは、もっとリベラルな諸国で、専制的な傾向のある野党が選挙で勝利できるようにするために、この暗黒の芸術の達人たちを派遣してきた。そして、今やロシアの政治技術者たちの足場がアフリカからヨーロッパに移りつつある」という。

欧州でも幾つかの成功

 アフリカと同様にロシアの政治技術者らは、ハンガリー政府およびイタリアの一部野党組織の支援という公の成功を幾つか収めた。政治技術者らが欧州で(アフリカと同様に)十分な成功を収めたので、クレムリンがその路線を支持する者を守り、それに将来、反対する者を牽制(けんせい)するために、彼らを利用し続ける兆候が顕著になっているとゴーブル氏は結論付けている。

(なかざわ・たかゆき)

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