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国民対話に見るロシア大統領の持論

日本対外文化協会理事 中澤 孝之

対露制裁「西側も損害」
ウクライナ新大統領は「悲劇」

中澤 孝之

日本対外文化協会理事 中澤 孝之

 ロシアのプーチン大統領(66)は6月20日、恒例の「大統領との直接ライン」(大統領と国民の直接対話)を行った。一般国民から提起された内政、外交にわたる細かい質問に大統領が即答する模様が、全国ネットワークのテレビ・チャンネルと有力なラジオ放送によってライブで長時間にわたり国民に伝達される。この年1回の大型行事は2001年から始まり、04年と12年を除いて毎年行われた。今年は17回目で、全国23の地域からの264万件を超えた質問のうち81件が取り上げられ、質疑応答は4時間8分を要した。過去最長は13年の4時間13分だった。

 A4版で118ページに及ぶ大統領府配信の質疑録を見ると、個人の年金や所得、成長率、インフレなど経済問題や米国、ウクライナ、ベラルーシ、中国、イランなどの諸国との関係も話題となったが、医療、教育、住宅、公共サービスなど国内の社会問題が中心。興味あるテーマ別に大統領の回答を紹介したい。

「軍事費削減は露だけ」

 まず14年のウクライナ危機、クリミア併合に端を発した西側からの対露制裁について―。ロシアはもちろん西側も制裁で大きな損害を被ったとして、プーチン大統領は具体的な損失額を挙げた。これによると、ロシアの損失は約500億㌦で、欧州連合(EU)は約2400億㌦、米国は170億㌦、日本は270億㌦だったという。「制裁に関しては、私の考えでは米国の大きな誤りで、いつか彼らがそれに気付き、撤回することを望む」と大統領は付け加えた。

 なお、大統領が日本の国名を挙げたのは、この問題と、各国の国防支出に触れた答えの2カ所だけだった。米国の国防支出は7200億㌦から7500億㌦、中国は1170億㌦、そして、数字を挙げずにサウジアラビア、英国、フランス、日本を列挙し、ロシアはドル換算で480億㌦で7位だという。ロシアの国内総生産(GDP)に占める国防費の割合は、17年が3・4%、18年3%強、今年は3%を切り、20年、21年はそれぞれ2・87%,2・8%と減少傾向にあるとし、「軍事大国の中で軍事費を減らしているのはわれわれだけだ」と大統領は強調した。

 次に新ウクライナ大統領に選ばれた元コメディアンのボロドイムイル・ゼレンスキー氏について―。「彼は有能な人物だ。2000年のころモスクワで、テレビでの彼の演技を見た記憶がある。滑稽だった。しかし今、われわれが目撃しているのは滑稽でないし、コメディーでもない。それは悲劇である。最近パリで彼は分離主義者たち、つまりドンバス地方の指導者たちとは話し合わないと言った。紛争当事者同士の直接の対話なしには、問題は解決しないのだ」。プーチン大統領はまだ、ゼレンスキー氏に大統領就任の祝電を打っていない。

 またマレーシア航空機撃墜事件の調査結果について―。14年7月、ウクライナ東部上空でマレーシア航空機17便が撃墜され、乗客乗員298人全員が死亡した事件を調査していたオランダなど5カ国の合同捜査チームがロシアの責任を問い、ロシア国籍などの4人を殺人容疑で訴追した。大統領は「ロシアは、実際に負うべき責任は決して避けないが、今回ロシアに罪があると結論付けられたことには断じて満足しない。彼らの言う証拠は、全く証明されていないとわれわれは信じている」と述べた。

 さらに言論の自由について―。今年3月にロシアのシンボルや当局をネットで批判すると軽犯罪となる法令が採択されたことに関して、「この法令は権力への批判を対象にしているのではない。権力への批判は自由であるべきだ。この法令は、国旗や紋章など国家のシンボルへの侮辱、愚弄(ぐろう)と戦うためのものである」と主張。

「エイリアンではない」

 最後に、人間業とは思えない大統領の働きぶりを念頭に皮肉を込めて、あなたはエイリアンですか?との質問には「ニエト(ノー)。私はエイリアンでない。証拠はあるし、親戚、近くの人たちや子供たちなど証人がいる」と答えた。

(なかざわ・たかゆき)

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