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トランプ流の外交手法とは

アメリカン・エンタープライズ研究所客員研究員 加瀬 みき

強硬姿勢に出て譲歩迫る
国内や同盟国への影響考えず

加瀬 みき

アメリカン・エンタープライズ研究所客員研究員 加瀬 みき

 トランプ米大統領は自ら予測がつかない言動を取ることが戦術と述べている。足元をすくわれるのは敵だけでなく、味方も同じである。一定のトランプ流外交手法があるのだろうか。安倍首相は日本の総理として40年ぶりにイランを訪問し、イランとアメリカ間の緊張緩和を試みた。誤ってでも軍事衝突が起き、世界中に被害が及ぶのを防ぐためである。

イランとの緊張高める

 トランプ大統領はあえてイランとの緊張を高めてきた。米欧諸国とイランが締結したイランの核開発を凍結する合意から一方的に離脱し制裁の再開を決めた。アメリカ企業ばかりかアメリカとビジネスを行う他国の企業もイランと取引をすれば制裁の対象となる。

 さらに先月、空母打撃群の地域派遣を命じたが、その前月にはポンペオ国務長官がイスラム革命防衛隊をテロリスト組織に指名したと発表した。これを受け中央軍司令官は地域への2万人余りの増派を提案し、最終的に大統領が1500人余りの増派を命じたが、発表したのはボルトン国家安全保障担当補佐官であった。一方、トランプ大統領は国防総省の高官たちに軍事衝突を望んでいないと述べ、中立国スイスのマウラー大統領を迎え、イランとの対話の道を開くことを探ったとされる。

 安倍首相のイラン訪問はこうした中、行われたが、首相はトランプ大統領からイランへの何らかの譲歩という切り札も渡されていなかった。最高指導者ハメネイ師との面談日に日本とノルウェー籍のタンカーが攻撃され、面談の様子とタンカーの炎上シーンが同時に映し出された。トランプ大統領は「安倍首相には感謝しているが、個人的にはイランとディールをすることを考えることすら早過ぎると思っている」とツイートした。

 そしてアメリカのいかなるものでも攻撃すれば圧倒的な軍事力を行使すると脅し、ロウハニ・イラン大統領が、米大統領は「頭がおかしい」と述べると、イランを抹消すると怒りのツイートを連発、結局さらなる制裁が発表された。

 北朝鮮に対してはまずは「炎と怒り」を振り落とすと、アメリカの軍事力をてこに脅しをかけた。しかし金正恩委員長から面談の用意があるという書簡を受け取るとトランプ大統領はその場で同意、昨年初の米朝首脳会談が実現した。その後、核・ミサイル廃絶で進展はなく、年初の2度目の首脳会談は失敗、北朝鮮は先月2度にわたり短距離ミサイル実験を実施した。ボルトン氏がこれを合意違反としたのに対し、大統領は問題ないと軽くあしらい、金委員長から美しい書簡が届いたとトップ同士の関係が親しいことを強調した。首脳会談実現に貢献した韓国の文在寅大統領は先月の訪米時にトランプ大統領と面談したが、その時間は実質2分だったといわれる。

 トランプ大統領の姿勢はニューヨークの不動産業界の典型といわれてきた。嘘(うそ)や見掛け倒しで強い姿勢に出て相手に譲歩を余儀なくさせる。ディールが失敗すれば、次を狙えばよい。超大国の大統領となり、力は見掛け倒しでなく、世界最強の軍事力、経済力、ドルに基づいた世界の金融システム、技術力、消費力となった。

効果出ぬ時の戦略なし

 しかし、武力行使という脅しが目的を達成できない場合の戦略は見えないが「次のディール」に向かうこともできない。戦争は再選を妨げるだけに絶対に避けなければならない。武力という脅しを利用できない中国やメキシコに対しては関税や企業の締め出しという武器がある。

 ファイナンシャル・タイムズ紙のラックマン論説委員は、トランプ大統領の態度は映画ゴッドファーザーを連想させるとして、ボス同士の個人的関係を重視し、同盟国にはまるでマフィアがみかじめ料を取り立てるかのようだと記している。弱みに付け込み利用し、不要な時は切り捨てる。敵やライバルと見なす国への締め付けが同盟国に与える影響も同盟国と協力することも念頭にない。権威主義者同士美しい関係を築けるが、脅しや締め付けの効果が出ない場合の戦略はない。しかし自らを「非常に安定した天才」と述べるトランプ大統領としては一貫した戦略を遂行しているのかもしれない。

(かせ・みき)

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