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中国が選ぶ18年十大ニュース

拓殖大学名誉教授 茅原 郁生

習主席の権威付け前面に
成長鈍化や格差拡大に触れず

茅原 郁生

拓殖大学名誉教授 茅原 郁生

 2018年は習近平2期政権の初年であったが厳しい年であった。前年秋の19回共産党大会(19大)で中国は21世紀中葉に向けて「世界最大の国力と影響力の構築」を打ち出し、米国の覇権に挑戦する姿勢を見せていたが、逆にトランプ米大統領によって「貿易戦争」と呼ばれる経済制裁に苦しめられた。

 周知のように中国政治体制は共産党独裁下にあり、加えて習近平国家主席に集権を進めた専制的統治という体制になっても、なお統治の安定のためには強権が発動されている。習政権は、革命後世代のトップ指導者の中では異例なほどに権力を一身に集めているが、安定統治のために自らの権威化に腐心する中で、18年はトランプ大統領から「ツキディデスの罠(わな)」とも言われる冷や水を浴びせられ、その対処に難渋してきた。「ツキディデスの罠」とは、紀元前5世紀に覇権国スパルタに対して勃興するアテネが挑戦したペロポネソス戦争の故事に倣って、米ハーバード大学のアリソン教授が、米中両国のパワーシフトの過程で戦争に陥る危険性を警告した言葉であるが、筆者は今日の米中貿易戦争もそれに該当すると見ている。

 現実にその影響で18年の中国の国内総生産(GDP)の成長率は6・6%と天安門事件後の経済制裁以来の低率が公表された。習政権は経済規模が大きくなった新時代では成長率が下がるのは「新常態」と強弁しながら18年の目標を6・5%に抑えてきた経緯がある。18年は、経済大国中国を生み出した改革開放40周年記念に当たる年になるが、28年ぶりの低成長記録とは何とも皮肉なことである。

 このような18年を中国はどのように見たのか、新華社が選定した国際・国内十大ニュース(北京12月25日)から探ってみよう。周知のように中国の十大ニュースは国民的関心(投票)によるものではなく、新華社が時系列順に選定したものである。そもそも中国ではマスメディアは共産党の「喉舌(宣伝)」の役割を担わされており、まして国営通信の十大ニュースは政治的に忖度(そんたく)し、政権擁護や政策の正当性のアピール、弁護が鼻につくものとなっている。

 まず国内十大ニュース(時系列順)は①全人代・政協本会議で第19回党大会に西進貫徹への共通認識と力の結集、手配が進んだ②米中経済・貿易摩擦に落ち着いて対応した③海南自由貿易区設立で対外開放確立の決意を示す④マルクス生誕200周年記念を盛大に祝す⑤長生公司に問題ワクチン生産で厳しい処罰⑥初の農民豊収節(祭り)を実施⑦民営経済支援の重大措置を集中提示⑧第1回中国輸入博覧会などホスト国外交活動成功⑨月探査で「嫦娥4号」打ち上げ成功等科学技術の吉報相次ぐ⑩改革開放40周年祝賀大会を盛大に実行―が選定されている。

 次に国際十大ニュース(時系列順)は①米国が引き起こした貿易摩擦が抵抗に遭う②中国が改革開放を拡大し、世界のウィンウィンを推進③朝鮮半島問題の前向きな変化はあるものの、障害は消えず④ホットスポット相次いで発生し、中東の地政学的駆け引きを誘発⑤中国の特色ある大国外交が新たな局面を開く⑥インドネシアの巨大地震と津波が多数の死傷者を出す⑦複数の中南米諸国での選挙が政治勢力図に変化を生む⑧英国の欧州連合離脱が幾多の曲折に直面し、先行き不透明に⑨仏「黄色いベスト」デモが根強い矛盾を暴く⑩米中首脳会談で重要な共通認識を形成―が挙げられていた。

 見てきたような国内・国際十大ニュースを共産党独裁の正統性の強調や習主席の権威を高める道具との観点で解せば、中国が直面する特殊事情が読み取れる。例えば中国の最大の問題となった米中貿易戦争では、昨12月のアルゼンチンでの米中首脳会談でトランプ大統領の90日間の時間的猶予で決裂が避けられ、習主席はメンツを守れた。それを中国は国内ニュース②では国内向けに平静を装いながら「貿易摩擦に落ち着いて対応」と中国の対応姿勢を正当化し、対策として③⑦⑧を挙げている。さらに国際ニュースでは①の「米国が引き起こした問題」「多くの抵抗に遭う」とし、中国の対応を②とアピールし、⑩では共通認識の形成としている。

 さらに中国は「米国ファースト」に対して自由貿易を主張しながら自らは国有企業への過度の国家支援をし、経済自由競争に反するとの批判に対しては⑦のような弁解をしている。

 また「中国の特色ある社会主義建設」を目指した努力として国内ニュースでは④⑤⑨と自慢し、国際ニュースでは⑤で「大国外交」を喧伝(けんでん)しながら国際ニュース③④や⑧⑨では人ごとのような見方で大国外交の責任感は伝わってこない。

 このように中国の十大ニュースは相変わらず共産党統治の正当化や習主席の権威付けが前面に出ており、逆に経済成長の鈍化や経済格差の拡大、退役軍人のデモなど体制を揺るがしかねない不都合なニュースは一切取り上げられていない。また人権派弁護士200余名の拘束や少数民族への弾圧など中国特有の暗部も取り上げてはおらず、中国メディアの発表には眼光紙背に徹する読み方が必要になることを今年も痛感させられた。

(かやはら・いくお)

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