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ウイグル族迫害と米中「冷戦」

櫻田 淳東洋学園大学教授 櫻田 淳

対中懸念を強める米国
政府と議会の「共通認識」に

 米中両国を軸とした「第2次冷戦」への流れは、止まらないようである。

 「日本経済新聞」(電子版、11月10日配信)記事に拠(よ)れば、ワシントンで開催された米中安全保障・外交対話の後の記者会見で、マイク・ポンペオ(米国国務長官)は、「米国は中国との冷戦や封じ込め政策を目指しているわけではない」と述べ、魏鳳和(国務委員兼国防相)も、「覇権を求める意図はない」と表明したとのことである。けれども、こうしたやりとりは、互いに互いの「建前」を述べ合ったということを示しているにすぎない。

 米中関係の相を占うには、個別の案件で何が語られていたかを観るのが重要である。特に、この記事が報じたように、ポンペオが「中国の新疆ウイグル自治区で少数民族のウイグル族が中国当局によって不当に拘束されていることへの懸念も表明した」という事実は、それに象徴される人権案件こそが、今後の米中確執に際して絶えず執拗(しつよう)に響く「執拗低音」になるであろうという事情を示唆する。

 中国国内ウイグル族への迫害に際してマイク・ポンペオが表明した懸念が示すのは、「ドナルド・J・トランプの米国」が「カネのためには他のことに目を瞑(つぶ)る」理屈で動いていないという事実である。しかも、それは、「中国共産党政府が後に引けない」案件を持ち出したことによって、米中確執が永く続くであろうという事情を示唆している。

 振り返れば、10月4日、マイク・ペンス(米国副大統領)がワシントン、ハドソン研究所で披露した対中政策包括演説には、次のような一節がある。

 「新疆ウイグル自治区では、共産党が政府の収容所に100万人ものイスラム教徒のウイグル人を投獄し、24時間体制で思想改造を行っている。収容所から生還した人々は、自らの体験について、中国政府がウイグル文化を破壊し、イスラム教徒の信仰を根絶しようとする意図的な試みであったと説明している」。

 また、「AFP通信」(日本語電子版、10月11日配信)記事に拠れば、10月10日に米国連邦議会中国問題執行委員会が発表した年次報告書では、「中国国内では人権は悲惨なまでに蔑(ないがし)ろにされ、状況はほぼ全面的に悪化の一途を辿(たど)っている」という懸念が表明されている。

 この委員会の共同委員長を務めるマルコ・ルビオ(上院議員)とクリス・スミス(下院議員)は、報告書中、「特に注目すべきは、中国西部で100万人以上のウイグル人をはじめとするイスラム教徒の少数民族が大規模かつ恣意的に政治的再教育施設なるものに収容されていることだ」と指摘した上で、こうした虐待は「人道に対する罪に該当する可能性がある」と糾弾したとのことである。現下の米国では、行政府で立法府でも、ウイグル族迫害に象徴される中国の人権状況への懸念は、既に「共通認識」になりつつあるのであろう。

 加えて、ウイグル族迫害への懸念は、米国以外の「西方世界」諸国でも共有されるものとなっている。折しも、11月6日の国連人権理事会討議では、中国政府が新疆ウイグル自治区各地に続々と設営する「収容施設」に批判が集中した。

 例えば、NHKが報じたところでは、米国代表は、新疆ウイグル自治区の現状について、「中国当局による取り締まりが悪化し、驚いている。恣意的な拘束をやめ、何十万、何百万という人たちを即座に解放することを求める」と述べた。仏独両国を含む欧州諸国、さらには豪加両国からも、「中国政府によるウイグル族の不当拘束」を批判する声が相次いだ。

 こうした「西方世界」諸国の懸念を前にして、従来、中国政府は、収容施設が「職業訓練および教育のための施設」であると反論し、それが新疆ウイグル自治区におけるテロ対策の一部であると主張してきた。国連人権理事会討議での中国代表の発言の通り、「テロリズムに感化された人物を過激な思想から遠ざけるため、訓練施設を設置しているにすぎない」というのが、中国政府の理屈付けである。

 しかし、ナチス・ドイツのホロコーストをわずか70余年前に経た欧州諸国、そして「言論、表現、信教の自由、欠乏や恐怖からの自由」を自らの価値意識の中核に据えた戦後米国にとっては、こうした中国政府の理屈は、説得性に乏しく受け入れ難いものであろう。

 新疆ウイグル自治区各地の「収容施設」がナチス・ドイツの「強制収容所」と同じ類のものとして「西方世界」諸国の人々の目に本格的に映るようになれば、どのような事態になるか。「西方世界」諸国と中国の確執の様相は、およそ「第2次冷戦」と呼ぶことすら温(ぬる)いと評されるほどの殺伐としたものになるであろう。その萌芽は既に生えつつあるのではないか。(敬称略)

(さくらだ・じゅん)

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