ワシントン・タイムズ・ジャパン

中国はWHOを私物化するな

NPO法人修学院院長・アジア太平洋交流学会会長 久保田 信之

久保田 信之

許し難い台湾締め出し
日本政府は抗議の声上げよ

 台湾は2009年以降、国連復帰が認められていないとはいえ、その医療実績等を買われて世界保健機構(WHO)の総会に、オブザーバーながらも参加してきた。しかし、昨年5月22日に開幕した総会には、招待状すら送達されないという屈辱を受けた。当時この事件は、日本でも各紙が大きく取り上げたものの、1年たった今、日本人の記憶からも消え失せてしまったようだ。

 日本の政治家諸氏は、与党も野党も、台湾問題を、わがことのように、深い関心を持ち続けているであろうか、はなはだ疑問だ。しかし、中国の言動に無関心でいられる人は一人もおるまい。この中国問題に最も苦しんでいるのが台湾人なのだ。台湾が直面している中国からの難題は、日本の悩みと同質だ。台湾の問題は日本が悩まなければならない難問でもあるのだ。

 身勝手で一方的な、政治決断とは言い切れない「一つの中国論」を認めないからといって、理不尽な報復に出たのが今回、改めて提起する「WHOからの台湾締め出し」なのである。世界の世論は「WHOを明らかに私物化している証拠だ」と中国を非難しているが、中国は全く動ずる様子も見せずに平然としている。自分にとって正義であれば相手が困ろうが世界が批判しようが押し通す「暴挙」こそ、日本の悩みでもあるのだ。許し難い発想であると厳しく糾弾する必要があるのだ。今回問題にするのは中国との政治論争ではない、人類の健康と安全のためだ。

 ここに改めて述べるまでもなく、WHOは、全世界に起きている健康衛生問題について、指導力を発揮しながら、病気撲滅のための研究、適切な医療・医薬品の普及など、世界中の人々が、健康的なライフスタイルの推進を願う、広い意味での人類の肉体的精神的健康の推進という基本的人権の保持を目的とする、国連の重要な任務である。また、世界保健総会(WHA)は、現在194カ国の代表が毎年集まり会議する世界的な政策決定機関である。中国の恣意(しい)的な野望に左右できるような機関ではないのだ。

 全ての国々に深刻な影響を与えているインフルエンザをはじめとする各種の感染病が、毎年のように猛威を振るっているが、台湾は、近代的医療のレベルが、他国の追随を許さないまでに進歩している、自由を尊重する近代国家である。

 WHOは、渡り鳥により感染する事実も判明するに至って流行しているがために、関係国から自由に情報を収集して、適正な患者の管理や感染制御への対策、リスクの高い人へのワクチンの摂取など、必要な対策を講じるよう勧告する、まさにグローバル国際機関なのである。

 台湾は、国民一人一人の健康への基本的権利を守るためにWHOを必要としている国際感覚を持っており、知的レベルも高いし、防疫体制を構築している点などでも、アジアでも特筆する状態にある。防疫強化キャンプの場を設けることで、東アジアおよび東南アジア地区で多発しているエボラ出血熱、中東呼吸器症候群(MERS)、デング熱、ジカ熱への防疫対策についても、他国に比して強力に推進していることは、既に世界が認めているところである。

 しかし不幸なことに、複雑な国際政治の駆け引きから、国連創設時の連合国を構成していた『中国』を、中華人民共和国が継承するとの暴挙が認められたことが原因して、台湾を統治していた中華民国は1971年に国連を脱退した。その後の14年間、連続で『中華民国』名義で国連加盟を求めてきたが実現できていない。

 蒋介石の影響が薄らぎ、台湾在住民が強く支持する民進党政権が確立して以降、陳水扁総統は「台湾」名義で国連加盟を新たに申請した。しかし、中華人民共和国の「強引な政治的駆け引き」から、国連の議席は2300万人の台湾人には与えられずに今日に至っているのだ。

 台湾は、人類の平和と繁栄の敵である疫病に対して、高度な研究と治療の実績を既に確立していながら、主として中国の低次元の政治的な妨害によって議席を保持していない。もちろん、政治を超越するWHOからも、政治的理由から台湾を排除する勢力に対する批判・不安は高まってきた。にもかかわらず、台湾に対する中国からの嫌がらせは続いている。

 こうした、中華人民共和国の強引で理不尽な主張によって、台湾がWHO総会から締め出される慣例が出来上がることは、極力阻止しなければならないと考える。オブザーバーといった過酷な条件の下でも、これまで台湾は、医療技術向上の会議や疫病の研究活動その他に、積極的に参加して世界の防疫ネットワークを強化することに貢献してきた。また、衛生問題に関する課題に直面した国への支援にも全力で取り組んできたことは衆目の一致するところである。

 しかしながら、中華人民共和国の一方的な政治的思惑から、台湾がWHAに招請されることなく、WHOの諸活動に貢献できないでいることは人類にとって大きな損失であると言わなければならない。この際、日本政府は、臆することなく、厳しく抗議し、日本人の総意として、世界的視野に立って、WHOを私物化するなと明確な意見表明をするよう期待したい。

(くぼた・のぶゆき)

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