ワシントン・タイムズ・ジャパン
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米朝会談「中止」と今後の展開

杉山 蕃元統幕議長 杉山 蕃

援助先行の動きは禁物
対北経済封鎖、厳格に継続へ

 世界中の耳目を集める米朝会談が旬日後に迫ったところで、北朝鮮の揺さぶり的動きが報ぜられていたが、業を煮やしたトランプ大統領が、北朝鮮に会談中止の書簡を送った。北朝鮮は予期せぬ米国の強硬な処置に、苦しい対応を迫られているが、今後の展開は予断を許さないところである。

 まず本年初頭、平昌五輪を契機に、核開発強行路線から、一転、対話・交渉路線に切り替えた北朝鮮の事情を確認したい。第一に核開発の状況である。本件はミサイル発射・核実験のたびに、マスコミにより細部報道された通り、核弾頭、長距離弾道弾技術は、北朝鮮にとっておおむね満足すべき状態に達したと判断したと考えられる。

 第二の状況は、厳しい国際環境に置かれ、封鎖・孤立が進んだことによる閉塞(へいそく)状態打開を必要とするとした判断であろう。そもそも北朝鮮の原子炉導入の経緯は、旧ソ連から「核拡散防止条約(NPT)体制」への加盟を条件に供与されたものを、直後から秘密裏に核開発を行い、露見するやNPT、国際原子力機関(IAEA)からの脱退、復帰そして最終的に、脱退する過程で、日米韓から援助を盗み取る等の行為で、核開発・孤立の道を進んだものである。この間、拉致問題、密輸、貨幣偽造、韓国への軍事的挑発等と相まって、国際世論の悪化は極に達しており、打開策が必要とする判断があったと考えられる。

 第三に、度重なる核実験の結果、安保理決議が中露を含む全会一致で可決され、極めて厳しい経済封鎖が開始されたことであろう。これにより、石炭輸出制限、労働者集団派遣の終了、開城工業団地閉鎖をはじめとする外貨収入の大幅削減、そして石油および関連製品の輸入に対する厳しい封鎖処置が時間とともに大きな効果を発揮し、国家経済上耐えられない状態に至ると判断されることである。

 第四の軍事であるが、非核・在来軍事力は、旧式化し、近代装備を誇る米韓連合軍には太刀打ちできる状態に無い。非武装地帯(DMZ)近辺に配した長距離火砲群が自慢であるが、米韓軍も長年手をこまねいていたわけではない。被害極限・反撃・逆襲の作戦計画は練りに練られていると考えてよい。頼みとする核兵器は、確かに生存を担保する意味からは重要な役割を有するが、米国が軍事攻撃を決定すれば、巡航ミサイル等による先制攻撃で、なすすべなく破壊されてしまうであろう現実も大きな脅威として認識されていると見られる。

 こうして見ると、国際間の非難を浴びながら進めてきた核開発、核兵器保有であるが、厳しい国際環境に迫られ、特に経済封鎖の効果が顕著になっていく状況から、方針変換のやむなきに至ったと考えてよい。言い換えれば、後の無い北朝鮮が最後の切り札である「核放棄」という「目標」をちらつかせながら、外圧の壁をいかに和らげ、状況を好転させる方向を模索し始めたと見るべきである。

 中止となった米朝会談であるが、今後の展開について考えてみたい。本件「大好転」を期待した層も多かったと推察するが、決して簡単に道が開ける筋合いのものでは無い。北朝鮮は予備交渉の段階で「米側の一方的な要求には、会談中止もやむを得ない」と発言したり、高級レベルの事前交渉を無断で中止したり、種々さまざまな駆け引き、曲折が予想されたところである。ちなみに米露間の核軍縮「スタート条約」は第1次条約の成立(1991年)に10年を要しているし、その後も改定をめぐり難航を重ねる交渉が引き続けられて現在に至っている。今回は、事前交渉を通じ、両者の主張に乖離(かいり)が大きく、北朝鮮の瀬戸際交渉に米国が応ぜず、中止と言うカードを切ったのであろう。これにより、現在の経済封鎖をはじめとする厳格な国際処置が継続されることとなるが、過去に失敗した「朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)」に見られるような、援助先行型の動きは断じて行ってはならないと銘肝すべきである。

 対話路線への変更以降、関係国の対応には首をかしげるところが見られる。韓国文政権の姿勢は、「前のめり」と評せられるが、安保理決議をはじめとする国際協力の原点に立ち、関係国の結束を緩めるがごとき行動は厳に慎むべきであろう。北朝鮮の寄るべき大樹としての中国の判断も微妙である。米朝会談を前に、連続2回の金正恩訪中は異常であり、いかなる合意がなされたか不明であるが、北朝鮮の強硬な態度の支えとなっている可能性がある。中国も、安保理決議の原点を損なわず国際間の協力を果たすべきである。

 我が国の取るべき態度は、当然封鎖の現状を厳しく維持し、国際的な協調を固めることが大切で、安倍首相の主張は支持されるべきものである。北朝鮮は、核実験場の廃棄現場への取材に際し、我が国マスコミをボイコットする嫌がらせを行ったが、筆者は結構なことと考えている。理由は、今後の非核化交渉の過程において当然生起する北朝鮮への援助・投資と言った問題を考えるとき、KEDO問題(軽水炉建設費用の30%負担)で見せたようなお人好しの姿勢は取るべきではない。むしろ、拉致問題、不正入国、漁業問題を前面に、厳しい態度を取り続けるべきであろうと考えているからである。米朝会談中止後の展開を大きな関心を持って見守りたい。

(すぎやま・しげる)

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