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トランプ大統領の政策の謎

アメリカン・エンタープライズ政策研究所客員研究員 加瀬 みき

加瀬 みき2

前任者の政策まず廃棄
支持者の満足最優先で行動

 日本は戦後、アメリカのリーダーシップの下、構築された自由・民主主義・市場経済にのっとった国際秩序の枠組みの恩恵を受けてきた。しかし、今のアメリカはこれまでのアメリカとは違う。そしてそのアメリカが選んだ大統領は全く異質である。予測不可能であることが信条であり、それにより相手を驚かせ、有利に立つというのがディール・メーカー、トランプ氏の戦法である。アメリカも世界もそのやり口に振り回された1年であった。しかし、この1年でトランプ政策の理屈も見えた。

 まずトランプ氏の大きな目的は、とにかく前任者であったオバマ大統領の政策をつぶすことである。国内政策では最大の業績であった、いわゆるオバマケア(新医療保険制度)の廃止、代替法の制定(未達成)。対外政策ではイランとの核開発停止合意や地球温暖化をめぐるパリ条約からの脱退、環太平洋連携協定(TPP)からの離脱が目玉政策であった。

 次の大きな柱は、支持者を満足させることである。政治家であれば当然かもしれないが、そのためにはそれ以外の要因に対する配慮はない。自分が評価されるためだけに支持者の求める言葉を発し、政策を打ち出し、これまでのアメリカの政策やアメリカ建国の精神にのっとっているか、同盟国との関係やアメリカの国際的な地位がいかになろうとも関心がない。

 この姿勢が一番明らかになったのが、エルサレムをイスラエルの首都と認定するという発表であろう。これは、中東和平をさらに難しくし、サウジアラビアなどの中東同盟国との関係にひびを入れ、多くの同盟国からも批判を受け、アメリカは孤立し、と理屈に合わないように見える。しかし、予想外にエバンジェリカル(福音派)の票を獲得し、それが選挙での勝利に大きくつながったトランプ大統領の理屈にかなっている。

 エバンジェリカルは米国人口の4分の1とされ、大きな政治勢力を有する。彼らに向かいトランプ候補が、親イスラエルを強調し、エルサレムを首都として認知することを約束したことは、本来、道徳観が強い彼らが、セクハラ疑惑があり、2度の離婚経験があるトランプ氏を支持した大きな理由であった。

 シオニストも同じである。本来、ユダヤ教徒のほとんどが民主党支持であるが、少数派のシオニストはエルサレムをイスラエルの首都とすることを根幹的な信条としてきた。支持率が下がり、ロシアゲートでフリン前国家安全保障担当補佐官が検察官と取引をしているという臆測が流れた直後に出されたエルサレム発表は、こうした支持者たちの支持が萎(な)えないための手段であったであろう。

 大統領が力を入れる他の政策も同じようにみることができる。政権発足直後に発表された、一部のムスリムが多数である国からの移民・難民ばかりか訪問者すらも受け入れない政策や、いまだ実現していないがメキシコとの国境沿いの壁建設は、選挙で大きな支持基盤であった排他主義者や反移民主義者を満足させようというものである。

 バージニア州シャーロッツビルで白人至上主義者の集会をきっかに反対派と衝突が起き、死者を含め犠牲者が出た。その後も差別運動が後を絶たないが、トランプ大統領は決して白人至上主義者たちを非難しないどころか、反対派に同じ罪があると述べている。これも支持者の一部である白人至上主義者、そして極端な排他主義者でなくとも人種や宗教をめぐり差別主義と言える人々に対し、彼らの気持ちを汲(く)んでいるというメッセージに他ならない。

 銃による犯罪は後を絶たないが、ラスベガス大量殺害事件はアメリカにもさすがに大きな衝撃を与えた。犯人は自動小銃に改造したものも含め大量のライフルや銃を用い、コンサートの聴衆に向かい無差別乱射、58人が死亡、546人が負傷した。しかし、トランプ政権は銃の取り締まりを強化することを検討すらしていないのは、やはりトランプ候補の支持者であった銃擁護派への配慮である。

 エルサレムへの首都移転発表直前には、大統領も力を入れた税制改革法が成立したが、共和党指導層が訴えたように中産階級のためではなく、選挙資金を提供するビジネス界を満足させるものであるのは、トランプ大統領の不用意な発言で確認されてしまった。

 トランプ大統領に政治的信条や国家国民のために尽くすという気持ちはない。政策は自分への支持を保つため、自分がよくやったと褒められるためであるのは、発言を聞き、ツイッターを見れば明らかである。精神分析専門医たちが大統領は精神異常と発表したが、おだてに極端に弱く、反対、ましてや批判には怒りを抑えることができず、あることないことまくし立ててしまう。自分の言動に一貫性があるか、倫理的か真実か公平かといったことにはまったく関心はない。この性格ゆえに墓穴を掘り、状況をさらに悪化させるばかりか、他国にそれを利用される。

 日本が密接な関係を保たざるを得ないアメリカの大統領がいかなる人物であるか、いかに政策が決まるか、世界がどう見ているか、トランプ政権の2年目を迎え、しっかり肝に銘じておく必要がある。

(かせ・みき)

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