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クルド人の独立への悲願

乾 一宇ロシア研究家 乾 一宇

部族意識強く抗争絶えず
自治権拡大が現実的選択か

 シリア・イラク領域の一部を占拠したイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)が首都と称していたシリア北部のラッカを、クルド人とアラブ人の反政府派混成部隊の「シリア民主軍(SDF)」が解放したと、10月20日、正式に宣言した。

 ISは単なるテロ組織と異なり地域を支配、首都を置き、国もどきの存在を誇示していた。その象徴を米軍の支援を受けたクルド人主力のSDFが解放したのである。

 クルド人はアーリア系で、トルコ、イラク、イラン、シリアに分断させられて居住、アゼルバイジャン、アルメニアにも住み、スンニ派が多い。言語はペルシャ語系のクルド語で、元来は山岳地帯に住み、方言が多く、地域によって使用文字も異なる。推定人口は約3200万人、イラクの全人口とほぼ同じ、シリアより多く、国家を持たない世界最大の民族である。トルコ領南東部に最も多く約1300万人、イラン北西部に800万人、イラク北部に700万人、シリア北東部に230万人である(推定数)。分断されているため、各国では少数民族である。第2次世界大戦直後の1946年1月、ソ連占領下のイラン北西部で、クルディスタン人民共和国として独立したが、12月にソ連軍が撤退し、あえなく崩壊した。

 それぞれの国で独立や自治権拡大を求めて活動する大小の政治組織や武装組織が存在する。だが、クルド人は部族意識が強く、抗争が絶えず、合従連衡が目まぐるしい。

 アラブの春以降、反政府勢力が武装闘争を始め、クルド人もそれに乗じ分離運動や自治活動を活発化した。山岳民族の血を引くクルド人は勇猛で戦闘において秀でている。ISがシリアとイラクに侵攻した当初、中央政府はなすすべがなかった。一方、クルド人の武力行動が目を引いた。米国とロシアが空爆をはじめとする軍事支援を行い、両国の戦場は政府軍、反政府勢力、ISの三つ巴(どもえ)、クルド人勢力を入れると四つ巴の戦いとなった。

 中でもクルド人は、シリア、イラク両国においてISに抵抗、これを撃破する戦力の中心として活躍した。両国政府は、反政府勢力とも戦わねばならず、特に米国はクルド人を軍事支援し、IS掃討に利用した。

 イラクでは9月下旬、北部地域を実質的に支配していたクルド自治政府が独立の是非を問う住民投票を行い、独立支持が9割に達した。イラク中央政府は住民投票を違法とし、自治政府が実効支配していた大油田のあるキルクーク地域に政府軍を送り10月16日に制圧した。精強で鳴らした自治政府治安部隊ペシュメルガ(「死に向かう者」の意)は抵抗らしい抵抗をしていない。

 一説によれば、マスード・バラザニ議長率いるクルド民主党政権(アルビルなど西部を支配)が住民投票を実施したが、ライバルのタラバニ一族率いる愛国同盟(前議長ジャラル・タラバニが創設。スレイマニアなど東部を支配)が投票に反対し、イラン革命防衛隊を後ろ盾に、ペシュメルガを撤退させた、という。バラザニ議長は愛国同盟の撤退指示を「裏切り行為」と非難していた。

 なお同議長は、11月1日、引責辞任した。両党の抗争は、バラザニ一族とタラバニ一族との争いの歴史の一齣(ひとこま)とも言える。両部族の二政党、それに「ゴラン」党からなる自治政府は、権力・利権争奪に明け暮れ、悲願である独立か・自治の拡大かで周辺諸国から使嗾(しそう)・介入され翻弄されている。

 ロシアは、シリアにおいてイランと協同して、アサド政権の勢力回復に尽力した。イランはクルド人の勢力拡大を容認してないが、ロシアはシリア和平協議にクルド人代表団が参加できないことに懸念を表明している。

 トルコ政府は、クルド人の独立運動を警戒している。トルコで分離独立を目指すクルド労働者党(PKK)は、78年、ソ連の支援で結成され、ゲリラ戦を展開、テロ組織に指定されている。一方、シリアのクルド民族主義政党の民主連合党(PYD)は人民防衛隊(YPG)を持ち、トルコのPKKと密接な関係にある。トルコの懸念はここにある。つまり、この地域の独立状態の固定化である。YPGは米国と連携してIS掃討に従事している。シリア内戦で、政府軍が撤退した地域に入り占拠、あるいは政府軍と棲(す)み分け、北部において実質的な自治を獲得している。一方、油田があるデリゾールでは、ロシア軍の支援する政府軍が、ラッカから逃げて来た者を含むISの残党を一掃しつつある。

 今回のクルド自治政府の独立の是非を問う住民投票に対し、周辺諸国(イスラエルを除く)だけでなく、米国はじめ西欧主要国、国連事務総長がこぞって延期や中止を求めた。

 シリア北部のクルド人勢力PYD/YPGは、トルコの強い反対により、シリアの今後を話し合う国際会議から除外されており、発言の場を閉ざされている。IS掃討でクルド人を利用してきた米国も、クルド人の独立に関しては冷淡である。

 IS掃討後、各国のクルド人にとっては、それぞれの置かれた状況・事情は異なるが、関係国の厳しい態度から自治権の拡大が悲しい現実なのだろうか。

(いぬい・いちう)

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