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中露との攻防、もう一つの最前線ボスニア

元嘉悦大学教授<br>山田 寛

元嘉悦大学教授 山田 寛

 中欧のバルカン半島西部のボスニア・ヘルツェゴビナ(以下ボスニア)が、中露権威主義vs民主主義対決のもう一つの最前線になりつつある。酷い内戦の後、なんとかその再発を抑えてきたこの国が、新たな民族紛争の危機に近づいている。

 ボスニアは1992年に独立したが、イスラム教徒(ボシュニャク人)、セルビア人、クロアチア人の民族対立で95年の和平合意成立まで、スレブレニツァの虐殺(セルビア人軍隊がイスラム教徒約8000人を惨殺)を含めて死者10万人を出す内戦が続いた。その後、イスラム教徒+クロアチア人のボスニア連邦とセルビア人共和国を合わせた連合国家となり、3民族代表からなる大統領評議会の上で、和平履行評議会(55カ国)から任命される外国人上級代表(EU〈欧州連合〉特別代表)が、強力な権限を握り国を維持して来た。

 戦略的要衝のバルカン西部への影響力を死守したいロシア、近年エネルギー・インフラ投資で進出してきた中国にとって最大の頼りはセルビアで、それに連なるボスニアのセルビア人勢力も重要な将棋の駒だ。大統領評議会のセルビア人代表、ミロラド・ドディック氏は、セルビア人共和国の分離独立、セルビアとの合流を訴え続け、国の統合を妨げてきた。米国は17年に同氏を制裁対象にしたが、米欧ともこの国へ対応が甘くなっていた。その隙にロシアは民族対立を存分にあおり、選挙干渉もしたという。そして中露がスクラムを組んだ。

 厳しい綱引きが展開されている。

 今年3月、ロシアは「ボスニアがNATO(北大西洋条約機構)加盟に動くなら、対抗措置を取らざるを得ない」との声明を発表した。この地域では昨年北マケドニアがNATOに加盟し、非加盟はセルビアとボスニアだけだが、ボスニアの加盟手続きは18年末に開始されている。ロシアは米欧による包囲網強化を懸念し、かつてない強い脅しをボスニアにかけたのだろう。

 中露両国は先月、国連安保理に上級代表廃止を提案した。もう上級代表職など全く必要ないと主張したのである。結果は、中露以外の理事国が皆「国連安保理の権限外」として棄権し、提案は不発に終わった。

 そして先月、退任直前の上級代表が置き土産のように「ジェノサイドが存在した事実を否定する者の処罰」を決めたのに対し、セルビア人勢力が猛反発、「中央国家機関の業務を全てボイコットする」と宣言して大騒ぎとなっている。セルビア人側は絶対にジェノサイドを認めない。15年にスレブレニツァ・ジェノサイド非難決議案が国連安保理に提出された時は、ロシアが拒否権で葬った。ドディック氏は当然のようにまた「ボスニア解体」論を口にしている。

 欧米側も一矢を報いた。6月の国連人権理事会では、今年も中国のウイグル人弾圧問題で激しい共同声明合戦が展開された。日米欧など44カ国が中国批判声明を出すと、中国側は65カ国の支持声明で圧倒した。一昨年、昨年と同様だった。

その声明合戦で、サウジアラビア、イランなどのイスラム大国はいつも中国支持で、中国内のイスラム弾圧に“お墨付き”を与えている。

 だが今年初めて、中国批判の隊列にイスラム教徒が多数派の国が加わった。ボスニアである。中国と中東欧の協力の枠組み「16+1」と「一帯一路」計画の参加国が、中国を批判したのだ。しかしボスニアの多数派は西を向いても、国内のバラバラは極めて深刻である。そんな危機を乗り越えられるか。中露の攻勢と圧力は一層強まるだろう。民主陣営側もさらに褌(ふんどし)を締め直して対抗すべきと思われる。

(元嘉悦大学教授)

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