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成功しているか、中国のワクチン外交

山田寛の国際レーダー

yamada

 

 昨年11月に中国のワクチン外交が始まってから半年、それは一応の戦略的効果を発揮している様だ。だが成功と呼ぶのはまだ早い。

 3月下旬、王・中国外相は「中国はワクチンを80カ国に援助し、47カ国に輸出する」と言明した。圧倒的な数だ。そこには米中対立、民主陣営の中国非難包囲網の中で、途上世界に中国への感謝と支持を広げることをはじめ、台湾やウイグルなどの問題も含めて戦略的狙いがいろいろ込められている。

 効果がうかがえる例。

 ☆アルジェリアなど、供与への謝礼として中国の「核心的利益」「内政不干渉の主張」への支持を表明・確認した国々がある。

 ☆パラグアイが大揺れだ。台湾の呉外相が先月こうぼやいた。「中国は、台湾と断交すれば何百万回分ものワクチンを提供すると猛アタックしている。台湾は他国にパラグアイへのワクチン支援を頼んでいるが」。

 この国は南米大陸で唯一残る台湾のトラの子だが、医療危機に瀕(ひん)し野党や世論からの台湾断交要求が強まる一方だ。アセベド外相までが断交の可能性を口にする。外交儀礼より生命だからと。

 ☆南アジアは、ネパールもバングラデシュもスリランカもインド製(主にアストラゼネカ製)優先で固まっていた。だがインドが最悪の感染大爆発でワクチン輸出を停止した4月、中国は地域諸国と会議を重ねインドの牙城に食い込んだ。中国ワクチンの南アジア貯蔵施設設置計画を提案、3国とも大賛成したのである。

 ☆トルコ向けの大量ワクチンは、ウイグル難民取り締まり強化、犯罪人引き渡し条約早期批准要請の紐(ひも)つきだった様だ。すでに取り締まりは強化されたという。

 欧米やインドの大感染は中国ワクチンを利した。だが最大の問題は、その有効・安全性が不明確で、信頼度が今イチなこと。中国の疾病対策センター長までが先月、「中国製は効果が少ない」と口をすべらせた。

 例えばチリは接種率世界3位で3月末までに3人に1人以上が2回接種(90%以上が中国製)を完了したが、新規感染はその後も増えた。チリ大学の調査ではワクチンの有効度は56・5%、1回接種では3%に過ぎなかった。

 世界保健機関(WHO)は先週、中国製を緊急使用リストに加えたが、とにかく欧米製より信頼度が低い。

 中国の信頼度の問題もある。

 シンガポールのISEASユソフ・イシャク研究所が2月、東南アジア諸国連合(ASEAN)10カ国の有識者らの意識調査(日米中印4カ国とEUへの評価)の結果を公表した。「コロナ禍の間どこが最大の援助をしてくれたか」では、中国が44・2%で断トツだった(2位日本18・2%)。だが「信頼できない国」も中国が断トツで63%。「南シナ海に関する懸念」では、「中国による軍事化と独断的行動」が1番で62・4%。「米中対立でどちらを選ぶか」では米国が61・5%で前年比7・9ポイントも上昇、中国を引き離した。

 ワクチン外交でASEANを最重点対象として力を注いでも評価が低下している。先日もフィリピンのロクシン外相が、中国船団の係争海域停泊に「出て失せろ」と怒りを爆発させ、中国外務省が「基本的礼儀をわきまえるべき」とやり返し(あんたに言われたくないが)、口論となった。

 だからワクチン勝負はまだついていない。日米豪印4カ国首脳は3月、「来年末までにインド太平洋諸国に10億回分を提供する」ことで合意している。「ワクチン特許権の一時放棄」問題も提起されている。民主陣営は自分の家の火事を早く鎮め、今年後半以後、途上国へのワクチン供給戦に本格参入すべきだろう。

(元嘉悦大学教授)

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