ワシントン・タイムズ・ジャパン
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アジア安定へ日米が目標共有を

新春座談会「トランプ新米政権と日米同盟」(上)

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新春座談会に出席した渡部恒雄笹川平和財団特任研究員(中央)、加瀬みきアメリカン・エンタープライズ政策研究所客員研究員(右)、世界日報の竹林春夫社長・主筆(左)

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昨年11月の米大統領選で勝利したトランプ氏が、1月20日に第45代米大統領に就任する。トランプ新政権の下、米国がどう変化し、世界に影響を及ぼしていくのかに注目が集まっている。こうした中、笹川平和財団特任研究員の渡部恒雄氏、アメリカン・エンタープライズ政策研究所客員研究員の加瀬みき氏、世界日報社長・主筆の竹林春夫が「トランプ新米政権と日米同盟」をテーマに論じ合った。

渡部氏は、オバマ政権よりも軍の意見が取り入れられることで、「対中シグナルも、より力の要素が反映される方向に行く可能性もある」との見通しに言及。日本がアジア安定のため、米国と目標を共有する必要性を強調した。また、加瀬氏はトランプ氏の外交交渉について「一つのディール(取引)を完成させるような感覚でしか見ていない」と懸念を表明した。さらに、竹林氏は、安倍晋三首相には強靭(きょうじん)な指導力と胆力と国民からの支持が必要だと語った。

「米国の変化」に期待と不安

国務長官の議会承認問題に 渡部
娘婿クシュナー氏が門番役 加瀬
アジアへの関与変更に注目 竹林

 竹林 トランプ氏が米国の次期大統領になり、外務、防衛、財務など主要閣僚候補の顔触れがそろってきた。トランプ政権の外交・安全保障政策はどうなるか、アジア関与をどう変更するのか、日米同盟の行方はどうかなどが、今年の最大の注目点になるのは間違いない。

 その最高指揮官であるトランプ氏はこれまで、「アメリカ・ファースト」とか「グレート・アメリカ」などと主張してきたが、一体どういう人物なのか。

米国変える舞台回しの役割

渡部恒雄

渡部恒雄(わたなべ・つねお)昭和38年生まれ。東北大歯学部卒。平成7年、ニュースクール・フォー・ソーシャルリサーチ政治学修士。戦略国際問題研究所上級研究員。三井物産戦略研究所主任研究員、東京財団上席研究員を経て、笹川平和財団特任研究員。著書に『二〇二五年米中逆転』など。

 渡部 私は、トランプ氏をトリックスターだと言ってきた。国内外に矛盾を持つ米国が変化することへの期待を受けて大統領になった彼だが、自分ではそのような意識はしていないし、その能力もない。しかし、その人が出てくることによって米国が変わるきっかけになる舞台回しのような存在なのだと思う。

 トランプ氏に変化を期待して新たに投票した人々も、トランプ氏の具体的な政策や能力に期待したわけではなく、彼ならば既存のものを壊して米国社会のありようを大きく変えてくれるという期待を持って投票したのだと思う。トランプ氏は現状維持のリーダーではない。だから、既存秩序がかなり壊されるだろう。それは必ずしも悪いことばかりではないが、世界にとっても副作用は大きいはずだ。

 政権人事を見ても、既存の政策エリートであるワシントンのシンクタンクの元政府高官たちが簡単には政府に入れない動きがみられる。つまり脱エリート、脱ワシントンの発想で、現状維持的な通常の政府人事を拒否しているという印象だ。

 加瀬 私もトランプ氏自身にはこういう米国をつくりたいとか、ここをこういう風に変えたいというような具体的なアイデアはないと思う。昔、ケネディの末の弟のエドワード・ケネディが、あなたはなぜ大統領になりたいのかと質問され、答えられなかった。大統領候補になれなかった一番の大きな理由は、それではないかと言われた。トランプ氏は、現状を否定することによって支持を得たが、では次に何をするのと聞かれても、多分それに対する答えを持っていないと思う。

 でも、今の米国には、現状が嫌だ、何か変えてほしいという人たちが年を追うごとに増えてきた。もう一つ大きいのは、自分たちが思っていた米国ではなくなってきてしまっているということ。自分たちの存在が否定されているのではないかと白人のクリスチャンたちが不安を抱いている。昔の米国を取り戻してほしいという期待をしているのではないか。でも、昔、といっても、ピューリタンが渡って来たような昔に戻れるわけではないし、レーガンの時代のような米国に戻れるわけではない。だからその現実と期待感がぶつかった時に、一体トランプ氏はどうするのか、そこが心配な点だ。

竹林春夫

世界日報の竹林春夫社長・主筆

 竹林 その意味では、トランプ氏の政権運営がどうなるかが気掛かりとなる。トランプ政権は、脱ワシントン政権とも言われるが、注目したい人物が指名された。ティラーソン国務長官、マティス国防長官、ムニューチン財務長官、国家安全保障担当のフリン補佐官、あるいはバノン大統領上級顧問だ。この顔触れからトランプ政権とはどのような性格の政権になると見るか。

目立つ軍人とビジネスマン

 渡部 ワシントンDCにいる政策エリート、政府に出たり入ったりしているシンクタンクや大学にいる人たちのサークルの中からは、少なくとも閣僚級の人材を取らないし、取れない。彼らも将来を考えると自分のキャリアが傷付くかもしれないのでトランプ政権に入ることには躊躇(ちゅうちょ)がある。特に大学で教える政策志向の経済学の教授たちがそうだろう。

 トランプ氏のこれまでの起用で、まず目立つのが軍人とビジネスマンだ。安全保障の現場の活動はよく知っているけど、これまでの政治任用を経験してシンクタンクで政策を提言しているシビリアンや元軍人は入っていない。こういう人たちは、もう手垢が付いていると考えているのだろう。トランプ氏は共和党、民主党、それぞれの政策専門家のネットワークからの起用を極力避けようとしているようだ。米国の軍人のプロフェッショナリズムは、現役の時にはなるべく政治に関わらないのが基本なので、現役の軍人は既存の政治との関係が薄い人が多い。現に第2次世界大戦の軍の英雄だったアイゼンハワーがかつて大統領選挙に出た時も、直前まで民主党から出るのか共和党で出るのか誰も分からなかった。それぐらい彼は気を付けて党派性を出さないようにした。

加瀬みき

加瀬みき(かせ・みき)昭和30年生まれ。上智大外国語学部卒。東京銀行勤務後、フレッチャー法律外交専門大学院修士。スタンフォード大学ワシントン分校客員研究員。平成8年、アメリカン・エンタープライズ政策研究所客員研究員。著書に『大統領宛 日本国首相の極秘ファイル』など。

 加瀬 共和党のスコウクロフト氏(元国家安全保障担当補佐官)がクリントン氏に投票すると言っていたぐらいだったが、トランプ氏が当選すると「トランプは何も分かっていないから助けてやれ」と言って共和党の大物たちに声を掛けたという話がある。それくらい、トランプ政権に少なくとも最初の段階で参加したら、汚点が付くと警戒しているのだろう。

 竹林 国務長官候補のティラーソン氏は、エクソン・モービルCEOだ。この人もビジネスマンだが、親露派と言われている。共和党内には親露派に対する強い懸念もあるようだ。最終的には議会の承認がいるが、この人物の選択はどうか。

 渡部 ティラーソン氏は、ビジネスマンだから資質がないというわけではない。むしろ、エクソン・モービルのトップということは、国際情勢の全体を見て、その中で会社を動かしているので、国務長官の資質として不足はないと評価する声が、ティラーソン氏を知っている人の評価だ。ただ問題点は、エクソン・モービルの利益のため、ロシアに対する制裁解除をこれまで主張してきたことだ。国務長官として制裁を解除すると、明らかにエクソン・モービルの利益になってしまう。この利益相反という問題は、トランプ氏も抱えているが、もし国務長官になったら問題視されるだろう。

 だからこそ、議会は厳しく精査すると思う。特に、マケインとグラムという、反ロシア派で議会に影響力がある二人が、マティスという国防長官候補には、もろ手を挙げて賛成なのに比べて、ティラーソン氏に関してはこの点を非常に厳しく問うと言っている。承認手続きが難航する可能性も否定できない。なぜなら、上院100議席のうち共和党は52議席なので、3人造反したら通らないからだ。

 竹林 まだ高いハードルがあるわけだ。軍事関係、経済閣僚の人選はどうか。

 加瀬 政権の一つのグループは軍人だ。その軍人も、アフガニスタン、イラク、イランなどに関わってきた人たちを中心に採っている。でもアジアに詳しい人はいない。トランプ氏には政策がないのではないかと言われている中で、彼がずっと主張しているのは、(過激派組織)「イスラム国」(IS)の破壊だ。そのためには当然そこに詳しい軍人を雇い、「イスラム国」を叩くことに集中すると思う。だからこそ「イスラム国」への攻撃を続けるロシアとの関係が重要になってくる。

 それ以外のグループを見てみると、例えばCIA長官や運輸長官は議会や閣僚経験がある人を連れてきた。もう一つのグループは、ウォールストリートだ。あれだけウォールストリートを叩いて、あれだけクリントンがゴールドマンサックス(米金融大手)からお金をもらって演説したことを散々叩いて、結局元ゴールドマンサックスの人を財務長官に、国家経済委員会の議長にもゴールドマンサックスのナンバー2を指名した。バノン上級顧問もゴールドマンサックス出身だ。

 なぜこの人たちが選ばれたかというと、(トランプ氏の娘婿の)クシュナー氏の友達という要因もある。ということは人事に非常に影響力があるのはクシュナー氏だろう。クリスティー・ニュージャージー州知事のようにクシュナー氏に見捨てられると全くポストを得られないということがある。彼になぜ力があるかというと、義理のお父さんを守る、つまり、義理のお父さんに対して絶対忠誠を要求するからだ。そこから少しでも外れる人を絶対に受け入れない。言ってみれば門番の役割だ。

アジア安保重視の可能性も

中露のリーダーと似た交渉術 渡部
「イスラム国」・北で中露利用 加瀬
オバマ政権と異なる中台政策 竹林

 竹林 娘のイバンカさんも含めて、家族の影響力もかなりあるようだ。

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新春座談会で論じ合う渡部恒雄笹川平和財団特任研究員(中央)、加瀬みきアメリカン・エンタープライズ政策研究所客員研究員(右)、世界日報の竹林春夫社長・主筆(左)

 渡部 かなりあるだろう。つまりトランプ氏はこれまで職業として政治家を経験していないので、腹心がいない。そういう意味でクシュナー氏は政治センスと人脈もあり、何より身内として安心して相談できる相手なのだろう。

 私も政治家の身内として選挙を経験したことがあるから分かるが、いつも側にいる身内は、最後は候補者のゲートキーパー(門番)になる。多くの人はトランプ氏に直接ものが言えない。逆鱗に触れるのは嫌だから。そういう場合は、ゲートキーパーに委ねることも多く、結果的に身内に情報と権限が集中することになる。

 いずれにしても、ここにきて、クシュナー氏は普通の大統領における腹心のアドバイザーとは全く毛色の異なる、ディープな役割を果たすことになるのだろうと考えられる。

 竹林 マティス次期国防長官の安保政策はどうか。特に、沖縄の普天間基地の辺野古移設問題の解決は日米同盟にとって極めて重要だ。政府は現在、地元の反対で苦慮している。彼は沖縄にいたこともあるので、アジアの安全保障にも大きな関心があるとみられる。この問題解決に向けてのマティス氏への期待値は高いと思うがどうか。

 渡部 彼は(沖縄)赴任当時はまだ下士官だったのでアジア情勢についてアップデートされているかどうかは分からない。ただ、2015年1月に議会でアジア太平洋地域で同盟国が今後ますます重要になると証言している。一般的に、沖縄に赴任した経験のある海兵隊員と、あるいは赴任していなくても、海兵隊の指導者レベルの人間でアジアの安全保障に関心のない人はいない。それは海兵隊の存在意義に関わる問題だからだ。裏を返せば、沖縄の基地縮小問題が米国内でも政治的に難しい問題の理由の一つでもある。

 竹林 今、オバマ米大統領のロシア政策が、クリミア、シリア問題などで非常に緊張し厳しいが、今後、ロシアにどう対していくか。領土問題を抱える日露関係にも影響が出てくるものとみられる。トランプ氏の対ロシア戦略についてどうか。

 渡部 トランプ氏は、ロシアとの関係改善を志向している。それにより、いくつかの点で現状を打破しようとしているようだ。その一つは「イスラム国」対策で、その先には、シリア問題の解決にも道筋を付けたいと思っているだろう。ロシアとの関係が改善されて、地域のバランスが変われば、中国に圧力が掛かることになる。

 しかし、これはあくまで現時点での思惑であり、実際にそうなる保証はない。そもそも共和党の主流派はロシアに不満を持ち、信用していない。特に、ここ1年ぐらいのシリアをめぐるロシアの動きで、米国の不信は高まっている。ロシアが停戦を破棄して、アサド政権と共に反政府勢力地域に空爆をしているからだ。しかも、ロシアとの交渉で、プーチン大統領がウクライナをめぐる制裁解除のような大きな利益がないかぎり、「イスラム国」対策やシリア問題で、大きな譲歩をするとは思えない。日本に対しても、プーチン大統領が領土問題で譲るような気配はない。プーチン大統領は独裁的だが選挙もある。外に対して安易な譲歩はできないだろう。そう考えれば、トランプ政権のロシアへの秋波も、先行きを見通すことは難しいだろう。

 加瀬 トランプ氏自身の考え方がこれからどう変わっていくのか分からない。例えば、オバマ大統領と会った時、あと2年ぐらいで核兵器が米国本土に届くと言われ、そこでギョッとなって北朝鮮も大事な問題だと初めて分かったというくらいだ。これから勉強しないといけない問題が、かなりあると思う。それと、現実的にいろいろな人と話すことで、考え方も変わると思う。

 現在、ロシアに対してなぜあれだけ友好的なことを言っているのかというと、プーチン大統領がトランプ氏を褒めているということもあるが、シリア、「イスラム国」を叩き、現状を打破するためにはロシアの力を借りるのが一番だろうということもある。これはフリン(次期国家安全保障担当補佐官)氏の考えでもある。

 中国に厳しい発言を繰り返してきたが、台湾総統に電話をしたことは、中国に脅しを掛けるという交渉術だ。相手をギョッとさせ、米国に何か言うのであれば、こっちも何かできるんだぞということを示したのだ。

 それはなぜかというと、北朝鮮問題に対する圧力だろう。「世界の警察官」になるのがもう嫌だという米国にとって、その枠内でやろうとする外交問題があるとしたら、「イスラム国」と北朝鮮だ。これらは米国に危険を及ぼすからだ。だからロシアと中国を利用しようと計算しているのだろう。

 竹林 台湾の蔡英文総統にプレジデントという表現を使って話していたし、一つの中国にこだわらないというのは「一つの中国」で合意したキッシンジャー国務長官(当時)以来のものだろう。トランプ氏の対中・台湾政策がオバマ大統領とは大分違うようだが、このあたりのトランプ氏の本音はどうなのか。

 渡部 過去の米国の対中政策を振り返ると、政権発足当初に中国に対して期待をもって良好な関係を築こうとした政権は、期待を裏切られて、結果的には厳しい関係に陥るケースが多い。ブッシュ(父)政権やオバマ政権がそのパターンだ。逆に中国から警戒されるような厳しい政策を打ち出した政権は、むしろ中国側からの期待値も下がるので、何かしら問題は起こるものの、その後はそれなりにいい関係を築くことができる。レーガン政権やブッシュ(子)政権がそうだった。米中関係は政権の初期段階での方向性がそのまま続くわけではないことが多いので、現在はトランプの対中姿勢はかなり厳しいが、最終的には分からない。

 トランプ氏は、過去に『Art of the Deal(ディールの技術)』というビジネス交渉術の本を書いている。その中で、相手に対して、多くの要求や圧力を掛けることで圧倒して、契約を自分に有利に進めていくというような考え方が書かれている。中国もそういう交渉をする国だし、ロシアも同じだ。

 トランプ氏にとっては分かりやすい相手かもしれない。自国に対して強い支配権を持っている独裁的な国家リーダーとのほうが話をしやすいと考えているのだろう。ただし、実際の外交は、ビジネスよりもより複雑であり、トランプ氏のもくろみ通りにはいかないだろう。

 加瀬 トランプ氏について心配なのは、物事を短期でしか見ていないことだ。一つのディールを完成させるような感覚でしか見ていない。例えば、ロシアとこれをやり合って、こっちが一つ勝った、次は中国とやって勝った。ではその先どうなるの、ということは、多分考えていない。もっと広い見方、一つの国と勝負するにしても他の国に影響があるのだということは、多分彼の考え方には入っていないと思う。長い目で米国はどうするべきか、米国のためにはこういうロシア政策を立てるべきだ、などとは考えていないようなのだ。

 渡部 トランプ氏の政策を分析している人が指摘しているのは、今、加瀬さんが言われた、一つの物事を成し遂げたときに、それが別の件に悪影響を与えるような、関連性を理解する能力が欠如しているらしいということだ。現時点でトランプが言っているのは、ロシアと仲良くして、対「イスラム国」で共闘する、というここまでだ。

 加瀬 そうであれば、次にどういう影響があるか。「イスラム国」を叩いても過激派ムスリムが消えるわけではない。テロリストが拡散すると他の国にどういう影響があって、米国の同盟国にどう影響があるか。次の段階、何ステップも先は考えていない。碁だとかチェスだと、簡単に負けるかもしれない。

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