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「有事に即応するため憲法改正を」陸海空 安保座談会(下)

台湾有事を考える―陸海空3自衛隊元トップが提言

出席者

 

大串 日米安保の再定義を進めよ
洗 台湾を国として承認すべき
古庄 海峡有事には北朝鮮も動く
木下 政治の責任で台湾関連法を

制服組OBもいろいろ政策提言しているようだが。

大串康夫氏

大串康夫氏

 大串 例えば、日米安保を再定義して日米はほとんど同じ義務を負うようにし、集団的自衛権を行使する組織に変えるべきだ。そうなると米国のやる戦争に日本が参加しなければならないとか言われるが、そんなことはない。日英同盟で日本は欧州に行って戦争していない。だから米国が戦っている所に全部日本が行くわけではない。同時に、いざというときに在日米軍の戦闘部隊が一緒に立ち上がる形態にしないといけない。今は日米安保の発動要件は、それぞれの国家の長である大統領や総理が国会の承認を得ることだ。そこで初めて日米安保は動いて、兵力の動員・展開ができる。だから韓国は、北朝鮮から攻撃されたとき、同時に反撃も対応もできる。そこが大きな違いだ。今まではそれで良かったが、今度やられるのは日本だ。日本だけでは中国や北朝鮮に対峙(たいじ)できないから、量・質的な対応が必要だ。そのために日本は米国を活用しないといけない。簡単ではないが、安保再定義について検討を開始する時期だと思う。

 木下 実際に米軍はアフガニスタンから撤退することを決めたが、反アフガン政府勢力のタリバンが政府軍を圧倒した。バイデン大統領は同時テロ20周年を前にアフガン戦争を終結させ、自分の功績にしたいとの思惑があったが、もはやそれは無理。米国が弱体化する中で、いつまでも一方的に米国が日本を守ることはあり得ない。それだけに日本自体が防衛努力をしないと日米関係は希薄となり、危険な状況となる。

左翼勢力を中心に日本は米国の戦争に巻き込まれるという、いわゆる「巻き込まれ論」が喧伝(けんでん)されるが、日本の安全確保のため逆に米国を巻き込むとの発想が必要ではないか。

古庄幸一氏

古庄幸一氏

 古庄 今後、体制を整える上でも自衛隊関連の用語は変えるべきだ。例えば統合作戦の「作戦」という言葉は、日本の法律用語にないからと、自衛隊はずっと「運用」としている。ところが先日、航空自衛隊に宇宙作戦隊が誕生した。私は長年、内閣・法制局とやり合ってきたが、やっと出たなと感慨深いものがある。こうした部分からしっかり変えていってほしい。

脅威となる宇宙からの情報収集

 木下 その宇宙作戦隊だが、東京・府中基地において約20名で編成され、宇宙状況監視システムを運用するなど、宇宙空間の安定的利用の確保に資する活動を実施する予定だ。米国のヴァンデンバーグ空軍基地で訓練し、50名の増員となる。宇宙領域における体制を迅速に構築するため、23年度からの本格的な宇宙状況監視の運用開始に向けて、宇宙領域における部隊運用の検討、宇宙領域の知見を持つ人材の育成、米国の宇宙軍との連携体制の構築などを進めていく。ひいてはNASA(米航空宇宙局)のプロジェクト「アルテミス計画」にも寄与するという。宇宙作戦隊への期待感はどうか。

 大串 まだ作戦組織としては監視のみと、低レベルだ。将来、衛星打ち上げからすぐトラッキングできる体制を米国が整えた後、日本が一部センサーの役割を担う。現在宇宙には兵器に属するものを上げることは禁じられている。とはいえ、中国は自分の宇宙ステーションを造っている。今、日本が世界と共用している宇宙ステーションは一つだ。中国はこれからたくさん上げる。そして、そこから小さな衛星を撒(ま)き散らす。それぞれが一つのレーダーであり、通信機器を持ち、星雲(コンステレーション)をつくり上げる。そうなると一つや二つ攻撃しても全然ダメージはない。しかし、今の米国や日本は、通信衛星をやられたら対応できない。その意味では宇宙作戦隊はまだ初歩だが、つくったことは良かった。

 木下 中国は、独自の宇宙ステーションである「天宮」を開発中だ。宇宙空間を制する者が戦略的優位に立つ「制天権」という概念を重視、07年に初の月探査機「嫦娥(じょうが)1号」を打ち上げて以来5回にわたり月面着陸に成功。「嫦娥4号」で世界で初めて月の裏側にも軟着陸を成功させている。今後独自の宇宙ステーションを建設、ロシアと共同で月面基地も構築するとも言われている。宇宙からの「情報収集・軍事力」は脅威だ。

 古庄 「情報の共有」とよく言うが、問題なのは相手国が日本に全部情報を提供していないことだ。秘密保護法など、普通の国が当たり前に持っているものが日本にはない。新型コロナウイルス対策でも国は都道府県にお願いしかできない。全て憲法違反となってしまう。

 木下 国家安全保障会議で生物兵器の可能性もあると思って対処すべきで、単なる厚生労働省の対処の問題ではない。憲法改正は戦後、米国が6回、インド99回、イタリアが20回、ドイツ59回だが、日本は依然としてゼロのまま。これは政治の責任だ。憲法のために日本があるのではなく、国家・国民を守るために憲法がある。必要ならば何回でも改正すべきだ。

民主主義の堅固な防波堤が必要

洗 堯氏

洗 堯氏

  すでに有事が始まっているという観点で見れば、今の憲法で対応するしかないが、集団的自衛権を行使できるようになったと言っても実際にできることはほとんどない。そのため有事に近い状態が起きた時に、政治家は何も決断できない。自衛隊は手足を縛られて動けない。そうすると、いざ尖閣が危うくなった、あるいは取られてしまった時、自衛隊が動かなければ米軍も動かない。だから、明日にでも憲法を改正しないといけない。自衛隊は動かないのに、なぜ米軍が動かなければならないのかと、日米安保自体も瓦解(がかい)してしまうことが一番怖い。

 木下 警察予備隊以来、自衛隊の方々は災害救助を含め2001人が殉職されている。その尊い犠牲があって辛うじて日本は守られているが、これ以上犠牲を増やさず軍事衝突の前の段階で収めることができる日本であってほしい。

 古庄 中国と北朝鮮は、有事の際、直ちにお互いが動く条約が結ばれている。朝鮮戦争の時も中国がすぐ出てきた。今後、台湾有事になって中国が動いたら北はすぐに動ける。日本国内の米軍の基地にミサイルを撃つ。これは当たり前の話だ。

 木下 日本はこれから真剣に台湾関連法を作らなければならない。これは政治の責任だ。

本紙主筆・木下義昭

本紙主筆・木下義昭

  台湾を独立国として承認すべきだ。曖昧な状態で置いておくからいけない。中国とは別の独立国家だと米国が承認して、日本もそれを追認しないといけない。必要ならば「日米台安全保障条約」を結ぶ。第一列島線を冷戦時代のベルリンと同じ第一線として、そこに民主主義の堅固な防波堤をつくらないといけない。中国も今は強いが、10年もしたら国内問題のほころびがいろいろ出てくる。長期戦になるほど不利になると考えると、6年以内に手を出してくるかもしれない。焦っている時期でもあるから、いかにその間をうまく乗り切るかだ。

 大串 有事の際、日本にとっての大問題は、政府が事態に応じてタイムリーな決断を下せるか否かということ。政情、世論を忖度(そんたく)して決断が遅れれば、第一線の自衛隊はかなり限定された範囲内でしか動けない。何かあったときに、その都度、法的根拠が必要な特措法を新たに作るような余裕はない。現在の平和安全法制だけで終わっては駄目で、いざというときには最高指揮官である首相が決断して命令を出し、部隊を動かす仕組みにしないといけない。特措法があっても法的解釈の拡大などでは適切に対処できない。

 木下 政府・与党はもとより野党も国家・国民を守るために党利党略、派利派略を超えて真摯(しんし)に憲法改正、緊急事態基本法の制定、有事関連の法整備等に取り組むべきだ。

「現場」が問う有事の対応

座談会を終えて 本紙主幹・黒木正博

 出席した3自衛隊の元将官は、防衛の最前線で指揮を執ったトップたちだ。それだけにこの「台湾有事」のテーマで具体的な戦術論や日米同盟の対応といった、いわば“プロの視点”からの分析、議論が期待されたかもしれない。しかし、実際には意外というか当然というべきか、「有事」以前の段階での政治や法体制の不備に対する警鐘乱打が主流を占めた。現時点では、台湾有事はおろか尖閣有事においても陸海空の3自衛隊の連携、統合作戦もおぼつかない現状を隠さないところに元制服組トップの危機感がにじみ出ていた。

 日米同盟といっても、本質的に実効あらしめるためには結局はわが国自身が自ら守る強い決意と対応があってこその同盟関係である。それはベトナム戦争、クウェート侵攻、直近ではタリバンのアフガン支配が教訓だろう。自衛隊そして日米同盟が円滑かつ機動的に対応できる前提をいかに確立できるかが問われている。

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