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「実効性ある日米同盟強化を」陸海空 安保座談会(上)

陸海空3自衛隊元トップが台湾有事を考える

座談会に出席した(右から)古庄幸一氏、大串康夫氏、洗堯氏、木下義昭・本紙主筆、黒木正博・本紙主幹(司会)

座談会に出席した(右から)古庄幸一氏、大串康夫氏、洗堯氏、木下義昭・本紙主筆、黒木正博・本紙主幹(司会)

 世界的なコロナ禍の下で各国はその対応に追われる一方で、武力衝突や紛争の懸念も止(や)まない。わが国周辺においても中国は、台湾を念頭に統一のために軍事力の行使もあり得るとの強い意思を鮮明にしている。米国も軍首脳から「台湾情勢は日本の安全保障に直結」との厳しい見方も出ているほどだ。

 そこで、わが国はこうした迫り来る事態にどう備えていくか、「台湾有事を考える」をテーマに国防の最前線で指揮を執った陸海空3自衛隊制服組元トップが語り合った。出席者は、大串康夫・元航空総隊司令官、洗堯・元陸自東北方面総監、古庄幸一・元海上幕僚長、そして木下義昭・本紙主筆。

 座談会では、中国側の出方について、サイバー攻撃による通信・重要インフラの妨害、非正規ゲリラ戦など従来の戦争形態とは異なり、軍事と非軍事の境界を意図的に曖昧にした、いわゆる「ハイブリッド型」戦争の危険性が強調された。また、台湾有事はわが国とくに尖閣諸島の有事と一体との見方で一致するとともに、尖閣対応ではわが国自身が対処すべき政治の課題や世論喚起の必要性を訴えた。

 陸海空3自衛隊の連携、統合作戦が課題とされる中、これに向けての憲法改正や法整備など政治の取り組み、さらには実効性ある日米同盟の強化なども提言した。

出席者

 

「ハイブリッド型」侵攻に備えよ

大串 クリミア併合の形狙う中国
 有事と分かった時は手遅れ
古庄 台湾海峡の監視体制強化を

木下 危機感がない日本の指導層

まず、なぜ今台湾有事なのかというところから伺いたい。

 木下 中国の習近平国家主席は、7月の中国共産党の創建100周年の演説で「いかなる台湾独立のたくらみも断固として粉砕する」と「台湾統一」を明言した。

 デービッドソン・米インド太平洋軍司令官は3月の米上院軍事委員会公聴会での証言で6年以内の中国による台湾侵攻の可能性を指摘している。習氏の国家主席任期は、2018年の憲法改正で2期10年の制限が撤廃され、2期目の終わる22年以降も続投が可能になり、その場合、3期目の終わりは27年となる。党総書記の任期切れも27年秋だが、同年8月に人民解放軍が創建100周年を迎える。

 こうした中で習氏はバイデン米政権の弱体化を予想し、中国軍が米軍に対し優位に立つ期間は27年頃までで、この時までに「台湾統一」を完遂したい考えがある。これに対し、日本は特に政治の面でしっかりした準備をしていない。

 ただ救いは、現防衛相の岸信夫氏は以前から台湾との関係強化に向け、自民党若手の議員を集めている。この「日本台湾経済文化交流を促進する若手議員の会」は2006年に設立され、積極的に活動している。その代表が岸氏だ。平和安全法制を作られた安倍前首相の弟である岸防衛相が台湾を重要視しているのは少し安心できる材料だ。

 とはいえ中国が軍事行動を起こし実際に中国と台湾の戦闘機や艦船が交戦して日本の領域に入ってきた場合、現実的にどう対応するのか法整備がされていない中、極めて心配だ。

自主防衛力強化日台に迫る米国

 大串 習氏は、台湾統一は中国共産党の任務だと言い、武力行使も辞さないとも言っているが、いきなり武力行使をするという意味ではない。台湾有事侵攻のシナリオの前段階が非常に重要だ。中国としては、プロパガンダやフェイクニュース、スパイ活動、親中勢力への肩入れなど、いわゆる「ハイブリッド戦略」で、内乱状態を画策して(ロシアの)クリミア併合のような形に持っていきたい考えだろう。

 米中は対立状態になっているが、中国が台湾に直接侵攻しない限り、米国は国内外の世論を考えると手が出せない。そこで今、米国が台湾に迫っているのは自主防衛力の強化だ。昨年くらいまで台湾の防衛予算は横ばいだったが、今年あたりからグッと上がっている。今後毎年20%増くらいのペースでいけば、相当強力になる。同様に日本にも防衛力強化を求めてきている。菅首相は「強化する」と言ったが、現実には何も変わっていないのが問題だ。

 米国は単独で台湾を守ろうとしないだろう。日本、可能なら韓国も入れて、またクアッド(日米豪印)のような幅広な同盟国で対抗したい。その動きが出てくる中で、わが陸海空自衛隊はどう備えるかという話になる。

  私が中国の立場で台湾に手を出そうとするなら、平時の態勢で落とす。グレーゾーンのような形で「超限戦」とも言うが、大串さんが言われた「ハイブリッド戦略」で、明らかに有事だという情勢をつくらないまま、熟し柿のように落とす形だ。そうすることで米国や日本に介入させにくい。孫子の「戦わずして勝つ」という兵法だ。それが中国にとって一番良い方法ではないか。そうなると米軍や日本の決断、介入が非常に大きな問題となる。現状ではリベラルの政治勢力が強くなっているから、はっきりと軍事介入が確認されない限り、手を出すことは考えられない。有事だと分かった時にはもう手遅れだ。

 木下 台湾にはハイテク企業が多く、米国と中国のデカップリング(分断)の中で、台湾は「脱中国」を進めている。中国は戦わずして勝ち、そっくり台湾を支配下に置くという考えか。

元東北方面総監洗 堯

 あらい・たかし 1944年生まれ。防衛大学校11期卒。フランス陸軍歩兵学校留学。陸上幕僚監部防衛部長、陸上自衛隊・東北方面総監(陸将)などを歴任。

  米中対立構造はあるが、実際のところ経済的な相互依存関係は非常に大きい。だから中国にとって熱戦にならずして台湾を併合できれば一番良い。米軍としても戦いなしで何らかの決着をつけたい。どのような手の出し方をして、どのあたりで中国と交渉するかを考えるなど、戦いの様相になる前にできることがあるのではないか。

日本経済に死活的なシーレーン

 古庄 ハイブリット戦略など戦わずして勝つ戦法はもう始まっている。それが日本の政治にどう理解されているか。かつての第1次世界大戦や大東亜戦争の時代とは違う。すでに何割かの民兵が台湾に入って活動している。ロシアのクリミア侵攻を教訓に、日本もやられているのではとの認識を持たなければならない。

 令和3年版の防衛白書は、原案が各省に回され調整された結果、今年も中国は「脅威」ではなく「懸念」としている。北朝鮮については明確に「脅威」と書いているのに、このままでいいのか。

 台湾は、日本列島と南シナ海で中国を覆っている扇(第一列島線)の要だ。その扇の親骨を越えないと中国は太平洋に出て行けない。通れる数カ所のうちの一つが台湾海峡だが、日本が監視体制など強固な対応措置を取るとなれば困難だ。米ソ冷戦時、オホーツク海からソ連の原子力潜水艦が出られないように、自衛隊機が毎日警戒飛行した。冷戦時に陸海空自衛隊はどう動いていたかを政治はもっと理解してほしい。

 世界中で年間約100億㌧の物流がある中で、10分の1に当たる約10億㌧は日本だ。毎日約240万㌧の物資が輸入されている。10万㌧タンカーなら24隻、毎日どこかの港に入っていないと電気もつかないという現実がある。このタンカーの半分以上が南シナ海、東シナ海を通って日本に向かう。もし中国が海域を封鎖したら商船が通れず、延々と南を回るしかなくなり、莫大(ばくだい)なコストと日数がかかって日本経済は破綻してしまう。

 木下 台湾は巨大な空母だといえる。日本のシーレーン(海上交通路)の一部分である台湾海峡が中国の内海に転化するかどうかは日本の国益に直結し、日本の国家安全保障に大きく影響する。「空母」を失ったら日本もアジアも中国のコントロール下に置かれ、危機的状況になる。わが国の政治家はその認識が希薄だ。

 古庄 まず総理は自衛隊の最高指揮官である以上、首相公邸に住むべきだ。なぜ歴代総理が自宅や議員宿舎から通っているのか。安全保障や危機管理の面から見てもおかしい。3自衛隊は一定の指揮官以上になると指定官舎に住まなければならない。たとえ官舎の隣に自宅があったとしても自宅から通うことはできない。

 今は平時ではない。英国の空母は動き始めており、9月には日本に入港する。日ごろから「何かあったらわれわれが行く。そのために訓練しているのだ」という意思を示す。それが一番の抑止力だ。

相対的に凋落する米国の軍事力

これがあったら有事という時代ではなく、有事と平時の境がないシームレスになっている。そこにどう対応するかが喫緊の課題だ。

元航空総隊司令官大串康夫

 おおくし・やすお 1943年生まれ。防衛大学校10期卒。戦闘機パイロット。85年、防衛駐在官として渡韓。航空自衛隊・航空幕僚副長、航空総隊司令官(空将)などを歴任。

 古庄 中国も、孫子の教えの通り戦わずして勝つと言っている。中国は、砂漠に「横須賀エリア」「アメリカ、沖縄エリア」などの地域を模した演習場を設置し、爆撃訓練をしていると聞く。こういうことを実際にやるという意思表示だ。これが日本にはない。

 木下 その件に関して、米国のグラントF・ニューシャム元海兵隊大佐(日本戦略研究フォーラム上席研究員)が専門誌「Wedge6月号」でこう述べている。

 「もしも富士山が胎動し地震を起こし、水蒸気を噴き上げているとしたら、日本の国民も政府も危機感を抱き、噴火に備えて対策を講じるだろう。日本は今国の周辺でも同じくらい深刻な脅威に直面しているが、国民が特に心配している様子はない。永田町と霞が関がわずかながら懸念しているだけのようだ。その脅威の震源地は北京であり、既にその初期微動も感じられる」

 危機感がない日本の指導層や国民への的確な警鐘といえる。

 大串 メディアの責任がかなり大きいと思う。いろいろな人が警告を発するが、メディアが取り上げない。

 台湾の人の意識が変わったのは、チベットの実態、新疆ウイグル自治区、内モンゴルにおける人権侵害、香港への国家安全維持法による民主派弾圧を見てきたからだ。一時期は国民の大半がステータスクオ(現状維持)で今の平和が保たれるのが一番いいと言い、日本の平和ボケと似た感じだった。

 しかし、いま彼らは目覚め「昨日のチベット、今日の香港・ウイグルは、明日の台湾」と警鐘を鳴らし始めた。そして「明後日は沖縄・日本」とも揶揄(やゆ)している。台湾の人たちが迫る危険に気が付き始めたのに、今の日本国民は現実に台湾で起きそうなことがわが身にも起こるかもしれないという危機意識がない。

 また台湾有事は日本有事に波及する重大性にも認識が希薄だ。これは精強な自衛隊があるから大丈夫と思っているのではなく、大半は日米安保と米軍がいるから何とかなると思っている。だが米国の軍事力は相対的に凋落(ちょうらく)しており、かつての冷戦時代のように単独で敵を跳ね返せなくなっている。だから同盟国の力を必要としており、防衛力の強化を迫っているわけだ。バイデン大統領初年度の国防予算はほとんど増えていない。

日本有事に直結 米軍依存脱却を

大串 中国が付け込む日本の自制

  実力で領土守る姿勢見せよ

 古庄 国会議員でも行けない尖閣

 木下 その意味ではトランプ前大統領は退任前の昨年12月、台湾保証法を成立させた。台湾への武器売却や台湾の国際機関への参加を米国政府に促そうというものだ。これは評価されていい。今のところバイデン大統領はすぐに変えられないからトランプ前政権の安全保障政策を継続しているが、いつ崩されていくか非常に疑念がある。

そこで台湾有事と切り離せない要素が尖閣諸島の問題との見方が強い。これとの関連で制服組の視点、特に陸海空3自衛隊の連携という対応はどうなるのか。

  はっきり言って対応できない。台湾とは「国交」もないし、現役の政府当局者同士が話し合って、この場合はどうするという検討さえしたことがない。OBが細々と意見交換的な交流をしているが、現役の自衛官が行くことはできない。具体的なシミュレーションすらやっていないから陸海空の統合以前に全然できない。

 例えば陸自の場合、相浦(長崎県)にある水陸機動団で離島を占領された際に奪回する訓練をやっているが、取られたら取り返すのは不可能だ。要するに、ありえない作戦を一生懸命訓練している。尖閣に一個中隊でも一個大隊でも、あるいは沿岸監視隊でもいいから実際にプレゼンスさせて、実力で島を守る姿勢を見せないといけない。脅かしてくるものにどう対応するかもあるが、現実には尖閣は北方領土と同じで中国の侵略を半分受けている。それに甘んじて黙認している現状下で、陸海空がどう手を携えてどのように作戦するのかといってもハナからできない。

領土は尊厳性が絡む重大な問題

第26代海上幕僚長古庄幸一

 ふるしょう・こういち 1946年生まれ。防衛大学校13期卒。第14掃海隊司令、海上自衛隊・阪神基地隊司令、護衛艦隊司令官(海将)、海上幕僚長などを歴任。

 大串 尖閣は日本の固有の領土だと言っているのに、灯台の修理のために人を上陸させることもできない。国家の存立条件に主権・国民・領域があるが、特に領土は国の尊厳性が絡む極めて重大な問題で、それに相応した強い決意と行動が必要であるのに,生物科学調査もできない。世界日報は他紙にない「国境警報」を連日報じ評価しているが、接続水域への侵入が何日連続、領海侵犯が何時間続というだけに終わらず、繰り返される領海侵犯の問題を深く追及してほしい。

 古庄 国会議員ですら尖閣に行くと申請しても行けない。台風が来ると中国漁船が尖閣周辺に避難する。乗っていた漁船をそこで沈めて陸に上がる。食べ物がないなどの理由をつけて中国が救助に行く際に、日本がそれに反対した瞬間に世界中に日本はこんな非人道的なことを言ったと逆宣伝に動くのではないか。

 木下 この件でも首相は、米国の国務長官や大統領が、日米安保条約の第5条の適用範囲と言ったと、それで安心して帰ってくる程度だが、米国サイドから見れば、継続的かつ効果的な自助および相互援助がある上での話だ。日本が身を挺(てい)して守る姿勢を見せない限り、米国は絶対に応援しない。ここが抜けている。

 大串 生物調査でも自然保護でも灯台守でもいい。人がいて、きちんとそういうことをやっている、それが施政権だ。そして行きたい人がいたら学者でも誰でも行ける。実際には領海に入られて、ずっと居座っているのを排除できない。これでは施政権がないようなものだ。中国海警の船も公船、海上保安庁の船も公船で、2国の公船が同じ海域に入っているなら、それは領土問題だというのが国際的な常識だが、日本は実効支配しているのであくまで領土問題は存在しないという公的姿勢を貫いている。にもかかわらず日本国民の誰もが上陸できない。事を荒立てまいとする自制措置こそが中国に付け込まれている。

南西地域にらみ統合司令部必要

 木下 外交交渉で決着するというが、第一段階が「話し合い」だ。第二段階が軍事力・経済力などを包括した「威嚇」。この段階では刀(軍事力)は絶対に抜かない。この威嚇がベースで外交交渉して最後が「妥結」だ。威嚇力、軍事力をうまく機能的に活(い)かした外交をすべきだが、これが希薄だ。外国に行って対話するだけでは本当の実りある外交交渉にはならない。

 古庄 両手で握手するのは日本の政治家だけだ。外国人は絶対両手で握手しない。話し合いの時は必ず片手に武器を隠し持っている。

 木下 国民は一般的に「でも、自衛隊と米軍は何とかしてくれる」という漠然とした期待感だけは持っている。約40年以上前に作家のイザヤ・ベンダサン氏が書いた『日本人とユダヤ人』で「日本人は水と安全はタダと思っている」との指摘があったが、今でもこの「平和ボケ」の状態は変わっていない。

元東北方面総監洗 堯

あらい・たかし1944年生まれ。防衛大学校11期卒。フランス陸軍歩兵学校留学。陸上幕僚監部防衛部長、陸上自衛隊・東北方面総監(陸将)などを歴任。 

 大串 日米安保は日米同盟体制だが、日米連合軍体制ではない。施政権の問題や日本が攻撃された時の対応でもしかりだ。在日米空軍は三沢基地にも嘉手納基地にも戦闘機部隊を配置しているが、日本が突然奇襲されても彼らはすぐに発進・反撃できる仕組みになっていない。だから日米の同盟関係は、米韓連合軍やNATO(北大西洋条約機構)軍とは全く異なる。

 このため日本が武力侵攻された場合、当初は自衛隊が一生懸命守る。米国は2週間ぐらいで参戦決意して1カ月後ほどで兵力が到着するというのが、これまでの作戦概念だ。これは今でも変わらない。しかし、米国が尖閣は安保5条の適用範囲だと認めたことで米国が守ってくれるというはなはだしい誤解をしている。5条は施政権が及んでいることが前提だが、それがあろうとなかろうと日本の領土である尖閣は先(ま)ず自衛隊が独力で守るのだと考える国民は少ない。

 日米は平時から情報を共有しているが、警戒監視など全ての状況ピクチャーを常時共有しているわけではない。近年、陸海空自衛隊はこの状況を平時からできる限り共有できるように装備システムを整えてきている。統合は着実に進むだろうが、問題は地域ごと特に南西地域での統合司令部がないことだ。東日本大震災の際はミッションを統合的に組織して行った。南西方面で尖閣や台湾有事の際にも同様に動ければいいが、日頃からやっていないと難しい。

わが国周辺海空域における最近の中国軍の主な活動

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