«
»

自分の音色で喜び伝える

国内外でチャリティー活動

ピアニスト 西本 梨江さんに聞く

 心揺さぶられる響きに透き通るような音色――。幼くしてピアノの舞台に立ち、作曲もしてきたピアニストの西本梨江さんは、国内外で音楽を通じたチャリティー活動に勤(いそ)しんでいる。2019年には国連のSDGsの理念に共感し、「SDGs~だれ一人とり残されない世界のために~」を発表。ピアノで自己表現する無口な少女から、平和への祈りを音で伝える演奏家となった西本さんに、音楽への思いを聞いた。
(聞き手=辻本奈緒子)

0歳がいる絵本コンサート
平和への思い込め作曲も

幼少期からピアノを弾いていたと聞いた。

臓器移植の啓発コンサートで演奏する西本さん=1月23日、東京・原宿(辻本奈緒子撮影)

 にしもと・りえ 桐朋学園大学ピアノ科卒業。全国各地、海外のコンサートにも多く出演。映像とオリジナル音楽と朗読で綴(つづ)る「絵本コンサート」を企画し開催。0歳から楽しめるコンサートも積極的に行う。SDGsの理念に触発され自作曲を発表し、21年1月には西本梨江の活動を追ったドキュメンタリー番組が放映された。

 ピアノを習い始めたのは3歳の時で、4歳上の姉が通っていたヤマハ音楽教室に母と同行するうちに、自分もやってみたいと通ったのがきっかけだった。そこではピアノを弾くだけでなく作曲も教えていて、即興演奏も学ぶことができた。普段はおとなしい子供で先生からは「無口な子」という印象を持たれていたようだが、ピアノに触れるとがらりと雰囲気が変わって「ピアノで感情を表に出す」子だったそうだ。

数々のコンクールでも入賞を経験している。

 4歳で初舞台を踏んだ。8歳の時に自身で作曲した曲を発表する「ヤマハJOC全国大会」に最年少出場し、最優秀賞を受賞した。コンクールには小学5年生から出場し始め、6年生で全日本学生音楽コンクール第1位となった。賞をもらった時は嬉(うれ)しかったのを覚えている。

スランプを感じたことは。

 小学生くらいまではいい緊張ができていたのだが、中学生の頃から演奏時に頭が真っ白になるようになり、演奏が終わってからどんなふうに弾いたのか記憶がないこともあった。それに連れて「ピアノをやめたい」という気持ちが強まっていった。音楽科の高校に進学した後、意を決して両親に思いを告げると、「無理に続けなくてもいいんじゃない」と言われ、驚いた。ずっとピアノをやってきたので周囲の期待もあり、高い学費も払って間もなかったのに、そう言ってくれて心が救われた。高校の先生にも相談してピアノに触れない時間を持つうち、「弾いていない自分」に違和感を覚え、大学もピアノ科に進んだ。「答えは一つじゃない」と思えたことで、気が楽になったのだと思う。

気持ちが変化したきっかけは。

 大学2年生の時に横浜市の国際交流事業で米国のサンディエゴを訪れた。高校、大学と音楽仲間に囲まれて生活していた私にとって、音楽をやっていない友人と一緒に過ごす数少ない機会だった。そこで知り合った友人に促されてホテルにあったピアノを演奏してみると、その場にいた皆が拍手を送り「素敵だったよ」と言ってくれた。演奏をして人に喜んでもらったと感じたのは久々で、新鮮だった。間違えないように弾くことや、コンクールで賞を取ることも大事だが、音楽はそれだけではない。音楽を通じて何かを伝えたり、分かち合ったりすることに自分が演奏する意味を感じた。人に共感してもらい、喜んでもらえる活動をしたいと思うようになった。

 もう一つ印象的だったのは、大学4年生で日露友好ピアノ贈呈コンサートのため渡ったサハリンで、孤児院を訪問したことだった。歓迎のため、子供たちがスプーンや木の箱を使って演奏してくれた。楽器もないが、その笑顔がキラキラしていた。感動すると同時に、ピアノがあり、演奏ができる自分が恵まれていることにも気付かされた。

 また、二胡奏者の賈鵬芳(ジャー・パンファン)氏との出会いは音楽の転機となった。行き詰っている時、表現力を磨くのにピアノ以外の楽器を演奏することを勧められ、二胡を教わることにした。二胡を通じて「自分にしか出せない音を持つこと」を学んだ。賈氏とはその後も「二胡とピアノのコンサート」を全国各地で開催してきた。

チャリティー活動を始めたきっかけは。

 サンディエゴを訪れた仲間たちと国際交流クラブを立ち上げ、地元・戸塚区でコンサートなどを行っていた頃、地雷撤去に関する絵本に衝撃を受けた。地球で何が起こっているか、音楽を通じて伝えられないかと思い、1999年から「絵本コンサート」を始めた。絵本の映像をスクリーンに映し出し、朗読と演奏を付けるもので、音楽でメッセージを伝える活動のきっかけとなった。

 2001年からは国連食糧農業機関(FAO)のチャリティーコンサートに毎年出演してきた。

海外でもコンサートにも出演されている。

 日韓国交正常化40周年記念に、韓国のバイオリニストと「Toi(トワ)」のユニット名でCDデビューした。日比友好コンサート、日中友好コンサート、イタリアや台湾での公演にも出演した。

最近の活動は。

 2019年から、横浜市戸塚区で「0歳から3世代で楽しむ絵本コンサート」を開いている。音楽に合わせて、手を叩いて喜び聴く0歳児もいる。コロナ禍ではホールで開かざるを得ないが、通常はピアノを囲んで、マットの上で泣いても寝転がってもいい。乳幼児を連れて入れるクラシックコンサートはなかなかないので、お母さんたちにとっても交流や憩いの場になる。もともと13年から始めた企画で、自分が息子に音楽を聴かせて育てた経験から、地元でも始めた。

 出産・育児で1年半演奏活動を休んだ時は感覚が戻らず、子供を持ってから喪失感を感じたこともあったが、振り返れば休んだ期間も得たものが大きかった。演奏家として経験を生かすことが大切だと思った。

今後の抱負は。

 19年に作曲した最新曲「SDGs~だれ一人とり残されない世界のために~」は、SDGsの理念に触発され、平和へのメッセージを込めた。コロナ禍にある今のように、これだけ世界中の人が同じ思いを共有することはほとんどないと思う。作曲を通じて自分の思いを伝えること、自分の音色で、落ち込んでドロドロした気持ちからも見いだせる希望を、音で表現したい。それに共感してくれる人がいれば、発信する意味も出てくると思う。

0

コメント

コメントの書き込み・表示するにはログインが必要です(承認制)。