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スマホ脳 自然と触れ合い依存回避を

脳科学者 森 昭雄氏に聞く

 電車やカフェなど見回すと誰もがスマホをじっと見詰めている。朝起きて最初にやることは、スマホに手を伸ばすこと。一日の終わりも、寝床の横にそっと置く。そして一日中、何度となくスマホを触る。ほとんど人生の伴侶のような依存ぶりだ。だが、便利なものに依存し過ぎるととんでもない落とし穴にはまるリスクが存在する。そのリスクを「ゲーム脳」を説いた脳科学者の森昭雄氏に聞いた。
(聞き手=池永達夫)

視覚刺激で睡眠変調
恒常的な時差ボケ状態に

スウェーデンの精神科医アンデシュ・ハンセン氏による『スマホ脳』という本が話題になっている。

 精神科医の著者は近年、精神的不調で受診する人が増えていることに気がついていた。スウェーデンでは、成人の9人に1人以上が抗うつ剤を服用しているという。物質的には恵まれているに、なぜ不安を感じているのかといった疑問から内的真相に迫ったのが『スマホ脳』だ。

脳科学者 森 昭雄氏

 もり・あきお 昭和22(1947)年、北海道生まれ。生理学者、脳神経科学者、医学博士。著書に『ゲーム脳の恐怖』(NHK出版生活人新書)、『ITに殺される子どもたち―蔓延するゲーム脳』(講談社)、『「脳力」低下社会』(PHP研究所)『ネトゲ脳緊急事態』(主婦と生活社)など多数。

森先生がお書きになった『ゲーム脳の恐怖』では、視覚刺激が強過ぎて認知症に似た「ゲーム脳」に陥る危険性に警鐘を鳴らしている。

 「スマホ脳」の場合も「ゲーム脳」同様、視覚刺激の画面問題が大きいと思う。

 ゲームやスマホにはまった「ゲーム脳」「スマホ脳」では、依存症の精神障害に陥りやすい傾向がある。こうした依存症は酒であれ薬であれ、手っ取り早く快楽を得たいと考えるようになることから、衝動的、短絡的行動に走る傾向がある。

『スマホ脳』の本では、ブルーライト(パソコンやスマホに使用される波長380から500ナノメートルの青色光)がメラトニンの分泌を抑える働きがあると指摘している。

 ホルモンの一種メラトニンは、眠りに就く時間を体に知らせる働きがある。

 体内リズムは、どのくらい光を浴びたかなどによって制御されている。その量は日中は少なく夕方になると増え、夜になると最多になる。

 ただ、光を浴び過ぎるとメラトニン分泌にブレーキがかかり、体はまだ昼間だと勘違いする。

 部屋が明るいと眠りに入りにくくなり、眠っても浅い睡眠であったりするのはそのせいだ。

 スマホのブルーライトによる視覚刺激で覚醒され続けると、恒常的な時差ボケと同じような状況を強いられることになる。

IT企業のトップは、自分たちの子供にスマホは与えないという。

 アップル創業のスティーブ・ジョブズ氏が、10代の子供にiPad使用時間を厳しく制限していたという話は有名だ。

 マイクロソフトのビル・ゲイツにしても、子供が14歳になるまでスマホを持たせなかった。

依存症の兆候が表れたら、どう対応すればいいのか。

 自然と触れ合うようにすることが大事だ。自然の中にあふれている川や風の音に触れることで人間としての感性が生まれる。自然の音は特定のパターンがなく、絶えず変化している。そういう揺らぎなどがいいのだろう。キャンプに行くのが難しければ、散歩やジョギングなどの運動でもいい。

 また、読書や音楽鑑賞なども効果があるし、お手玉などの遊びも脳の活性化を促す。

 家族とコミュニケーションを取ることも大切だ。努めて親子で対話したり、一緒に旅行に出掛けたりすることで人間らしさが取り戻せる可能性が出てくる。

森先生が指摘した「ゲーム脳」と「スマホ脳」は同じものと考えていいのか。

 基本的には同じと考えていい。

 私は当初、高齢者の認知症の研究で脳波を使った研究をしていた。それで認知症になっている人は、ベータ波がかなり低いということが分かった。その時、たまたま調べた学生の脳波が、認知症と同じ波動を示していた。その学生は、ゲームにはまっていたことから「ゲーム脳」という言葉が生まれた経緯がある。

リモートで仕事をしたり、会わずして友達や家族と連絡を取ったりすることができるスマホやデジタル機器はコロナ禍の中、人々のライフラインとなっている。

 デジタル機器が重要なツールであること自体を否定するつもりはない。

 ただ、道具というものは使い道を間違えると、とんでもないしっぺ返しを受けるものだ。

 その意味でも21世紀に突如、出現して世界を席巻したスマホのリスクをちゃんと認識して正しく使う必要がある。

 一番大事なことは、便利で楽しいからといって全面的に依存するようなことをせず、適度な距離を取って主体的に使いこなすようにすることだ。

問題は人々がスマホに費やす時間の1分1秒が、企業にとっては黄金の価値を持つということにある。人々がスマホに浸る時間が長ければ長いほど、広告が売れるからだ。利益を追求する企業とすれば、利用者の時間を奪うことが至上命題となる。

 その通りだ。使う側の幸福を考えず、利益最大化を図る売る側の論理が先行した基本問題が存在する。

 私が言いたいのは、スマホに適応すればいいという話では決してない。

 スマホはとても便利なものだが、人類にとっては過激過ぎる毒物になりかねないリスクが存在する。

 『スマホ脳』の本で鮮烈なのは、脳科学を知り尽くした人々らが開発したスマホは、未(いま)だ原始的な脳と変わらない人間の脳をいとも簡単にハッキングし、大企業の利益に変えている実態だ。

 「ゲーム脳」や「スマホ脳」の問題は、こうした利益最大化を第一義とする資本主義社会の問題点も浮き彫りにしている。

 テクノロジーというのは基本的に人間に寄り添ったものであるべきだ。

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