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「和風」彫刻を世界に発信

チェーンソーアーティスト 伊藤 正美氏に聞く

木材を「祈りの器」に

 秋田県由利本荘市の「鳥海山木のおもちゃ美術館」前の広場で久々にチェーンソーのブーンブーンという音を聞いた。チェーンソーアーティストの伊藤正美氏(48)が友人と共に、同美術館から依頼を受け2体のマスコットを製作していた。林業の衰退で家業のチェーンソー屋の生き残りを懸けて始めたチェーンソーアートだったが、今では龍や仏像も彫り震災復興にも携わってきた。海外に「和風」彫刻を知らせたいとSNS発信も行う。
(聞き手=伊藤志郎)

大道芸ではなく芸術の高みへ
震災復興にも手伝い

新型コロナウイルスの影響でイベントがほとんど中止の中、久々にチェーンソーの音を聞きました。

チェーンソーアーティスト 伊藤 正美氏

 いとう・まさみ 1972年、秋田県由利本荘市生まれ。高校生時代にアメリカに留学。宮城県仙台市で学生時代に極真空手の道場に通う。家業の農林業関係の機械販売・修理の仕事を両親としつつ、秋田県を拠点にチェーンソーで木彫刻の製作実演、講習、出張作業を行う。秋田県彫刻連盟会員。

 今年初めてのデモンストレーションです。美術館から2体の公式マスコット、カモシカのユリオ君とユリカちゃんの製作実演依頼を受けました。1本の杉の丸太を素材に、午前10時から友人と始めて、最後にガスバーナーで目を入れ、午後3時にできました。

腕や胸などすごい筋肉ですね。本業は何ですか。

 自分はチェーンソー屋です。格闘技もやっていました。今回は小さいですが、高さ180センチ以上、太さも60センチを超すと大きなチェーンソーを使うので、持ち続けると疲れる。体力づくりが必要で、でなければ肩や手首、関節を駄目にする。振動をある程度、吸収できるようにならないと。

格闘技もやっている?

 仙台の学生時代、たまたま近くに極真空手の道場があり、友達が欲しいと通いました。突く、蹴る――防具なしでの倒し合いですね。(寸止めでは)殴り方が分からないし、殴られないと痛さが分からないです。格闘技自体の奥深さを知ったし、もしかしたら集中力や我慢の部分がチェーンソーに生かされているかもしれない。

チェーンソーアートはいつからですか。

 父親がチェーンソーを販売・修理する店を始めていたが、林業が衰退しつつありチェーンソーも使われなくなってきた。ホビー(趣味)ユーザー向けの可能性を広げたいとチェーンソーアートを知り、和歌山県の城所(きどころ)ケイジ先生に習いにいきました。

 チェーンソー屋ですから、敷地内に丸太と土場があるので、すぐできる。北秋田市の北欧の杜(もり)公園の競技大会にも2度出ました。北秋田市出身の大相撲力士・豪風関をモチーフに金剛力士像を彫りました。ただ、競技大会は大道芸に近いところがある。自分がやりたかったのは既存の彫刻と競り合えるところに高めていくことで、それを目指しています。

 最初は模造することで精一杯。フクロウとか馬の首、熊など。今回はマスコット名のマリオ、ユリカの文字を彫刻の頭の後ろに入れましたが、文字やデザインを複合させるのは試行錯誤の中で生まれました。自分のインスタグラムに、仏像から動物まで彫っている動画を挙げています。

仏像を彫り始めたきっかけは?

 仏像も龍も独学ですね。見に行ったこともあるんですが、ほとんどは掛け軸の龍とか鯉(こい)の滝登りで彫刻にしたら楽しいと思った。

 木材は、家具とか家として使われるものと、人々の願いの拠(よ)りどころ、祈りの器として存在する木もあります。違う形の命があればいいのかと。この作品もマスコットの形をしていますが、自然を象徴し、単なる彫り物ではなく、その裏にストーリーがある。それが理想ですね。自分はそっちの方がいいと思っていて、それで被災地に関わることになりました。

復興、被災地支援もされているんですね。

 宮城県石巻市に先輩がいて、東日本大震災が発生してすぐに重機を持ち込んで手伝いました。その後、慰問ですが、仮設住宅の広場で周辺住民の方にチェーンソーアートを見ていただき、小さい作品を差し上げました。依頼を受けて石巻市の神社に河童(かっぱ)2体とか、民間団体や個人の方に観音様や仏像を彫ってお渡ししました。

 3年ほど前に、栃木県塩原市の神社から、樹齢100年以上の由緒ある伐採したイチョウの木の話を伺い、不動明王の化身である「倶利伽羅(くりから)龍王」を祈り探し彫りました。1日6時間、1カ月間泊りがけで完成させています。

 仙台空港の近く、宮城県岩沼市の「千年希望の丘」の一角(現在の相野釜公園内)に、津波の後も残っていた根回り1・4メートルのケヤキがありました。塩害で枯れた木に再び命を吹き込もうと1年ほど募集しても誰も手を挙げない。同じ東北の人間だからと志願し、2018年6月、3日間で市のシンボル的な鳥の大鷹(たか)を約3メートルの高さに彫っています。

今後の抱負を聞かせてください。

 SNSのインスタグラムで英語とロシア語と日本語の3カ国語で動画を発信しています。高校1年から3年間アメリカに留学しました。外国の人、違う文化の人たちと意思疎通ができれば楽しいんじゃないかと。親は「外の飯を食うのもいいことだ」と応援してくれました。バブルの終わりかけの頃でまだ景気も良く、チェーンソーもジャンジャン山で使われていた頃です。

 日本人は長けていると思う。器用で独特のセンスもある。仏像も彫っているので、日本的なテイストで世界に挑戦していきたいなと。ロシアやアメリカで大会があるので、アジア勢、日本の和風を持ち込んで、鯉とか龍とか仏像や、芸者や花魁(おいらん)姿も彫ったりしますから。「JAPAN」の一面を、パフォーマンスも交えて表せたらと思っています。

 自分は神道ですが、神社にご神体、寺の本堂にご本尊がないのは寂しい。龍を奉納する活動も少しづつやりたい。昔は町内や集落に仏像を彫る人がいたと思います。ご神体やご本尊がないと、何を拝んでいいのか分からないですもんね。そういう文化も大事にしたいです。

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