女にとっての仕事と家庭
母親の経験を社会に生かす
マナーコンシェルジュ 新倉 かづこ氏に聞く
人口減少の中、社会における女性のいっそうの活躍が期待されるが、家庭と仕事の関係をどう考えたらいいのか。長年のOL生活の後、起業し、社員教育やマナースクールで活躍する、マナーコンシェルジュの新倉かづこさんにインタビューした。
(聞き手=森田清策)
子育てで生まれる人間的幅
男性とハーモニー奏でる
損害保険会社に31年勤めた後、社員研修やマナー講座などを行う会社を立ち上げた経緯は。

にいくら・かづこ 株式会社「ナルミ」代表取締役。「花には水を 人には愛を 心に太陽を…」を座右の銘に、社員教育セミナーなどに活躍する。昨年からコミュニティーサロンを主宰し、「女性性と男性性の調和」のためのメッセージを発信している。
社員教育・研修部門が長かった会社勤めは、それなりの達成感はありました。しかし、離婚したこともあり、娘を私の母に預けることが非常に多くありました。娘に寂しい思いをさせて申しわけないと思い、娘と母のための時間を持とうと考えたのです。
家庭と仕事の両立で悩む女性は少なくありません。
髪を振り乱してバリバリ働きながら、どこか女らしさに欠ける人がいます。私は常に、身だしなみをしっかり整えながら、家庭と仕事を両立したいと思っていました。しかし、仕事にのめり込む一方、家では“いい奥さん”を演じようとしていました。それで疲れてしまい、夫とぶつかり結局、離婚となってしまいました。その反省がすごくあります。
娘さんとの関係はどうでしたか。
一人娘で、愛情を注いで育てていたつもりでした。しかし、娘からすると、「寂しい」と言わせない母親でした。だから、娘は無表情で無口だった。
家にいないことが多く、後ろめたさもあったのですが、「母親の後姿を見ていれば分かってくれるだろう」と軽く考えていました。しかし、高校生になると口を利かなくなることも多々ありました。離婚した後、娘と一緒に暮らしましたが、一緒にいればいいというものではありません。一緒にいると、うるさく口を出してしまい、高校生になった娘はガングロ、茶髪とやりたい放題でした。
母娘関係をどう修復しましたか。
ある時、娘が黒髪に戻した時、「ママは何も言わず、やりたいことをやらせてくれた。いつかはちゃんと戻そうと思っていた」と言った。ガングロや茶髪は、少し世間体は悪いけど人に迷惑を掛けているわけではないので、娘を尊重するようにした。それが良かったのだと思います。
もう一つは、私の心が変わり、娘にわびる気持ちが強くなったこと。良い例が娘の結婚です。娘が働くようになってから、結婚を勧めたとき、娘は泣き崩れて言いました。
「パパとママが結婚生活のお手本じゃないのに、矛盾している!」
夫婦不和のしわ寄せは結局、子供にいくのです。ただ孫が欲しいという、自分中心の考えだったから、私の言葉を、娘が受け入れるはずはありません。私が反省した後、娘に紹介した青年の名前が別れた夫と同じだったことなど偶然も重なり、結婚に至りました。
親が変わると子も変わる。
二人目の子供を身ごもった娘が、血圧が異常に高くなって難病の原発性アルドステロン症の疑いがあると言われました。子供の頃にいつも寂しい思いをさせてきた私のせいだと感じ、病院で泣き崩れて謝りました。娘も泣きながら、「寂しかった、寂しかった」と叫んだ。まだ謝り足りないと思い、抱きしめながら「ごめんね、ごめんね」と言った。そしたら、それまで固かった娘の体が、一瞬柔らかくなった。翌日行った時、血圧の数値が変わっていた。「奇跡が起きた」と思いました。それから娘の心も変わり、今では親友のような関係です。
母娘関係を乗り越えたことが、マナー講座に生きていますか。
ものすごく生きています。コミュニケーションで大切なことは話を聴く能力です。話を聴いてまず相手を受け入れる。そうすれば、相手も受け入れてくれ、関係は変わってきます。また、人はそれぞれなので、自分を押し付けるのではく、性格を読み取ることが大切。例えば、一対一で注意する方がいい人と、みんなの前で注意しても大丈夫な人がいる。相手の性格を読み取るのがコミュニケーション能力だと思います。マナー研修でいつも言っていることです。
「人生100年時代」。結婚して出産、子育てを経た女性が、その経験を職業に生かす道が広がっています。
そう思います。なぜか。それは子育てほど難しいものはないから。子供は思うようにならないという経験をしている母親には、人間的な幅と達観した見方を持っている人が多い。それぞれの人生の選択ですから、子供を持たないで頑張る道も当然ありますが、人を育てるという意味では、母親としての経験は社会に生かせると思います。
一方、娘をずっと保育園に預けた経験から申し上げると、「三つ子の魂百まで」というように、やはり子供が幼い時は、女性は出世意欲を出さずに、子供といる時間を大事にしてほしいと思います。それは私の体験からきた反省です。
マナー研修を続けてきて、今の社会状況はどう映りますか。
男性と闘っている女性が多いのが気になります。最近、大企業から「女性」をテーマにした講演依頼がありました。「女性も出世する社会になってきたが、身だしなみができていないなど、どこか女性らしさを感じない人がいる。憧れられる女性像をテーマに講演してもらいたい」と。
これからは、女性が男性と勝ち負けを競う時代ではありません。「女性活躍」という謳(うた)い文句の中で、頑張って強がるのではなく、女性がどう生かされていくか。女性をもっと肯定するとともに豊かな感性を生かし、それに男性が「いいね」と言って共に調和する。それが理想の形ではないでしょうか。
生み出す力を持っている女性は本来強い。ある意味、男性は女性を脅威だと思っている。だから、組織の中では権力を使って女性に圧力をかけているような状況もあります。そこは女性らしさを上手に出しながら、お互いを補う関係、ハーモニーを奏でる関係にしていけたらいいと思います。
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