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  • 温暖化の悪影響に追い打ち

    地球環境を救え!

    国立研究開発法人海洋研究開発機構特任参事 国際海洋環境情報センター長
    白山義久氏に聞く

    海水の酸性度上昇 生態系のリスクに
    石灰の殻つくれず/ウニ消滅の可能性も

    海洋の酸性化の影響は。

    白山義久氏

     しらやま・よしひさ 1955年東京都生まれ。東京大学理学部生物学科動物学教室卒、同大大学院理学系研究科博士課程修了。理学博士。東京大学海洋研究所助手、助教授、京都大学理学部教授、同フィールド科学教育研究センター長(兼任・瀬戸臨海実験所長)を経て、2011年海洋研究開発機構研究担当理事。専門は海洋生物学。特に小型底生生物(メイオベントス)の生態学、分類学、保全生物学。

     サンゴ礁の危機は温暖化現象の影響が大きいが、それに酸性化というものが追い打ちを掛けている。2090~2100年つまり今世紀の最後の方には日本の周辺から造礁サンゴが生育するのに適切な場所がなくなってしまう可能性がある。

    サンゴ以外の生物に対してはどうか。

     炭酸カルシウムの殻を持っている生物が影響を受けるのは、まず間違いない。巻貝の仲間で翼足類というプランクトンがいて、そのグループが最初に影響を受けるのではないか。その殻が溶けて浮力が大きくなり、海底に沈まなくなると、海底にいる生き物にとっては餌が少なくなってしまうかもしれない。例えばベーリング海だと、タラバガニなどに、またオヒョウ(注・ヒラメに似た魚)など、海底にいる漁業資源にはマイナスの影響がある。

    日本の沿岸地域の影響は。

     酸性化が今より進んだときには日本の周辺でも同じような現象が起きる。スケソウダラや底魚にとっては、餌資源が減ることになる。

    生態系はどうなるか。

     植物プランクトンの中で石灰の殻を持っている円石藻は殻がつくれなくなり、その生育が難しくなると思う。それによって例えば、そのプランクトンを餌資源にしている動物プランクトンが減り、さらにその動物プランクトンを餌資源にしている魚が減るといったことがあり得る。

    漁業資源全体の変化は。

     そのことについては、酸性化よりむしろ温暖化の方が危険だと思う。温暖化では、暖かくて軽い水が恒久的に表面にあり、下の冷たく重い水と混ざりにくくなる。すると、植物が育つための栄養素で、海底に沈んでしまった窒素とリンが表層に来なくなり、植物が生育しなくなる。そのために海全体の生産力が落ちるだろう。

     魚種の交代が起きる可能性もある。

    今世紀末に、酸性化が顕在化するということだが。

     気がついてから何かすれば対策になるかというと、これはならない。そこが問題だ。大気中と海水の二酸化炭素の濃度を比べると、必ず大気中の方が高いので、二酸化炭素は海水にどんどん溶けていく。

     「大気が二酸化炭素を増やすのをやめよう」ということで、いちどきに二酸化炭素排出がぴたっと止まったとしても、大気と海中では濃度差があるから海中に溶け、状況はどんどん悪くなっていく。「これはまずい」と思って対策を取り始めても、もう遅く、ブレーキはもっと前にかけないといけない。

    いつごろか。

     先ほど言ったが、今世紀末、造礁サンゴの生育に適切な場所がなくなってしまう可能性がある。また多分2050年から60年には世界的にサンゴ礁が成長できる条件がほぼなくなってしまうのではないか。

     例えばわれわれが寿司ネタで好むウニ、これは550とか600ppmの二酸化炭素濃度になると、相当悪い影響が出そうだ。現在、400ppmを超えていて、あと100~150ppmぐらいしかない。毎年約1%、数ppmずつ増えているから、あと20年とか30年でそのレベルに達する。それまでにブレーキをかけないといけない。

    魚類に対する影響はどうか。

     最近の詳細な研究は、魚類も海洋酸性化の影響を受ける恐れが大いにあることを示唆している。特にさまざまな感覚器官が影響を受け、その結果、行動が変化すると報告されている。

     欧州では主たる漁業対象はタラとニシンだが、タラは酸性化に対して非常に脆弱で、あるメソコスム(注・海洋や湖沼における生態系を解明するために、水域の一部をシートで仕切った隔離水界)実験では、稚魚を酸性化した条件で放流したら、全滅してしまった。それに対し、ニシンの稚魚は生き残った。将来の海は、酸性化に対して耐性のある勝者が支配する世界になるかもしれない。

    酸性化対策と温暖化対策との違いは何か。

     海洋の酸性化の問題と、温暖化の問題で一つ、大きく違うところがある。温暖化は適応策をいろいろ考えることができる。しかし酸性化した海水をまたアルカリ性に戻さなければいけないということだから、これは基本的にはどうみてもコストがペイしない。酸性化に対しては緩和策しかなく、その対策は二酸化炭素削減に尽きる。酸性化は適応策がなかなかない。

     ただ沿岸については、大気の二酸化炭素の量プラスαで陸上からの有機物の流入量があって、酸性化を増す要因になっている。そのため沿岸部では酸性化の影響が早めに出ると思うので、「これはいけない」と気づき、排水の浄化など、素早く対処すれば、逆に、酸性化の影響が出るのをうんと遅らせることができるのではないか。

    「漁業資源が半分になる」という報告もあるが。

     Global Ocean Council(GOC)のレポートにある。どちらかといえば低緯度の海域でそういう大きなインパクトがあるだろうと予想されている。海全体でも資源が減ると思うが、急にはならない。

    今の理系の学生は海洋に関心が高いか。

     どちらかというと海の仕事というのは楽な仕事ではないので、多分目指す人が少しずつ減っているというのが現状ではないか。
     人材育成ということで言えば、私が今センター長をやっているゴーダックという、沖縄にある情報センターでは、地元の方が、サンゴ礁海域にあるということもあって関心が高い。酸性化に関する色々なレクチャーを、子供も含めてかなり頻繁に行っている。

    (聞き手=編集委員・片上晴彦)

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