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タイ爆弾事件、国内対立を激化させるな

 タイで今月中旬、中部の保養地や南部のリゾート地などで爆発が相次ぎ、4人が死亡、外国人を含む35人が負傷した。多くが即席爆発装置(IED)を携帯電話で遠隔起爆させるタイプだった。

 王室の宮殿があるホアヒンで爆発が発生したことやシリキット王妃の誕生日と重なったことなどから、王室の威光にすがる軍を中心とする支配層への反発との見方がある。

新憲法案の承認直後

 とりわけ今回は国民投票で新憲法案が承認され、当面、軍の支配が続くことが確定的になった直後だった。

 国民投票では「どちらに転んでも勝者は軍事政権」という見立てが極めて有力だった。新憲法案が承認されれば、暫定軍事政権への支持と受け止められるし、否認された場合でも、新たな憲法案を立案するために時間稼ぎができ、暫定政権は事実上、4年以上の政権維持を担保できるからだ。

 新憲法案は、上院の全議員を軍政が指名するなど軍が民選政府に強い権限を有する内容となっている。軍人を含む議員以外の首相就任が可能となっただけでなく、従来は下院だけで実施されていた首相の選出投票に上院の参加も認められた。

 軍政によって選ばれる定数250の上院は、実質的に軍の一つの政党となる見込みだ。選挙で選ばれる定数500の下院は、たとえ第1党といえども首相選出で過半数を取ることは難しく、非民選の首相が誕生する可能性は高くなる。

 それこそがプラユット暫定首相の狙いだった。軍が国家の安全保障に専念するだけでなく、政界にも足場を持ち、圧倒的な影響力を行使できる準独裁体制が維持される趨勢にある。

 しかし、強権をバックにした統治は、不満がいずれ爆発するリスクを伴う。そもそも2年前のクーデターは、タクシン元首相派と反タクシン派が共に自らの主張を譲らず、一触即発の状態にまで危機が高まった折、軍が「最後の手段」として踏み切ったものだった。その時、軍は分裂したタイ国民の和解を約束した。

 だが、喧嘩(けんか)を止めに入ったはずの軍はこの2年間、なりふり構わずタクシン派の政治基盤を突き崩すことに専念した。さらに今回の新憲法案で、軍の政治的権能を高める方向へと舵を切った。

 クーデターで政権を追われたタクシン元首相派は、来年後半にも実施される総選挙で巻き返しを狙いたいところだが、軍政は政治活動禁止を一向に解こうとはせず、解除時期も明言していない。

暫定政権の手腕問われる

 タイはこの10年余り、タクシン元首相派と反タクシン派の対立が激化し、爆破事件も繰り返されてきた。ただ、多くは観光客など不特定多数に対する大規模テロというより、IEDや手投げ弾などで限定的な被害を出す程度だった。

 その意味では、今回の一連の爆破も敵対勢力への警告というメッセージ色の強いものだと考えられる。国内対立の激化を防げるか、暫定政権の手腕が問われる。

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