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iPS視細胞移植 光取り戻す治療の第一歩

 神戸市立アイセンター病院は、人工多能性幹細胞(iPS細胞)で網膜シートを作製し、目の難病「網膜色素変性」の患者に移植する世界初の手術を実施した。患者が光を取り戻すための治療法確立への第一歩だ。

60代女性の難病患者に

 網膜色素変性は、視細胞が徐々になくなり、視野が狭くなったり視力が低くなったりする病気だ。国内の患者は約4万人と推定されている。

 視細胞は光の刺激を電気信号に変換し、見えた物の色や形の情報を作り出す働きがある。視覚の源となる細胞だ。中枢神経に直結する視細胞は再生能力が低く、一度失われると自然に回復することはほとんどないとされる。このため、根本的な治療法は確立されていない。

 手術は、症状が「明暗が分かる程度」まで進行した60代の女性患者に行われた。京都大iPS細胞研究所から提供されたiPS細胞から視細胞のもとになる細胞を作製し、直径1㍉のシート状に加工。3枚を右目の網膜の下に移植した。

 今後1年かけてシートが腫瘍化しないかどうかの安全性や、患者が光を感じられるようになるかなどを確認する。神戸市立アイセンター病院は今年度中に2例目の手術をしたい考えという。新たな治療法の確立を期待したい。

 ただ、今回は安全性と有効性の基礎的な確認が目的だ。移植した視細胞も網膜全体の面積の数%で、視力が大幅に改善するわけではない。実用化までには時間がかかる。まずは、慎重に経過を見守る必要がある。

 理化学研究所と神戸市立アイセンター病院は、視細胞の働きを助ける網膜色素上皮細胞の再生医療の臨床研究も手掛ける。既に「加齢黄斑変性」の患者にiPS細胞から作製した色素上皮細胞を移植し、1年の経過観察で安全性を確認した。このほか目の病気の治療では、大阪大が角膜の病気の患者に細胞シートを移植している。

 iPS細胞は神経や筋肉、臓器など体のさまざまな組織になる能力を持つ細胞。皮膚や血液の細胞に数種類の遺伝子を送り込み、受精卵に近い状態に「初期化」して作る。

 山中伸弥京都大教授が2006年にマウス、07年に人の細胞で開発に成功し、12年にノーベル医学生理学賞を受賞した。再生医療だけでなく、患者の細胞を再現して新薬開発に利用することを目指している。

 再生医療については、目の病気のほかにパーキンソン病、重症心不全などで患者への移植が実施され、実用化に向けた研究が進んでいる。また新型コロナウイルスに関しても、iPS細胞から免疫細胞を作って患者に投与する治療法開発を目指して研究が行われている。

京大財団は開発に貢献を

 京都大のiPS細胞備蓄事業は4月、公益財団法人「京都大学iPS細胞研究財団」に移行された。

 大学では難しかった技術者の長期雇用や、収益事業としてのiPS細胞の製造や品質評価などを進める。研究機関や企業などと情報を集約・共有し、さまざまな治療法の開発に貢献してほしい。

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