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高雄市長リコール 中国の台湾戦略転換に要注意

 台湾南部の主要都市・高雄の韓国瑜市長がリコールされた。韓氏は台湾で初めて、リコールにより市長職を罷免される。
 市長失職に伴う補欠選挙では、民進党の陳其邁・行政院副院長(副首相)が有力視される。医師出身の陳氏は新型コロナウイルス感染症対策で功績のある一人で、市民の信任も厚い。

総統選で蔡氏に大敗

 韓氏は、2018年11月の統一地方選で20年間民進党の牙城だった高雄市の市長選に手を挙げ、「韓流」ブームを巻き起こした。その余勢を駆って1月の総統選に出馬したものの、親中国路線が裏目に出て、対中強硬姿勢を維持し続けた民進党の蔡英文総統に大敗を喫した。

 今回のリコール成立は、韓氏にとって追い打ちをかけるような屈辱となった。だが、高雄市政をないがしろにしたまま総統選に出ること自体が、市民にすれば裏切り行為に等しかった。

 注目されるのは、93万9090票という賛成票の数だ。反対票はわずか2万5051票で、賛成票がリコールの成立要件だった有権者総数(約230万人)の4分の1(約57万5000票)を大幅に上回った。

 リコール成立の追い風となったのは、強権国家・中国の存在だ。中国の全国人民代表大会(全人代)は先月末、反体制活動を禁じる「香港国家安全法」の制定方針を採択した。同法は「一国二制度を骨抜きにし、香港の自治と自由を圧殺する暴挙」として、香港市民だけでなく欧米諸国からの批判の声が高い。

 中国から一国二制度による中台統一を呼び掛けられている台湾も、これには敏感に反応した。「今日の香港は、明日の台湾」との認識は、多くの台湾国民に共有されている。リコール投票の賛成票の数は、中国への不信が爆発した結果とみるべきだ。

 中国は陰に陽に韓氏支持に回った。その意味で今回のリコール投票は、一地方の投票というより中台の政治的対決の最前線であり、さらには台湾の後ろ盾となっている米国と中国の綱引きの現場とみる方がその本質を突いている。

 2期目を迎えた蔡政権の最大の課題は、中国の脅威が高まる中、安全保障をどう担保するかだ。中国の軍事行使の敷居は低く、「政権は銃口から生まれる」と言った毛沢東を信奉する習近平中国国家主席の台湾併合策は軍事路線に傾く可能性がある。とりわけ中国共産党政権の正当性を保障してきた経済成長が止まるなど求心力が危うくなった場合、外部に敵を求めて内部矛盾の転嫁を図ろうとするのは共産党政権の常套手段だ。

 これまで中国の台湾併合策は「以商囲政」(商売で外堀を埋め、政治を囲い込む)方針だった。韓氏が市長に就任して最初にやったのも、高雄市の農産物などの中国での売却だった。中国にとって韓氏は使い勝手のいい人物だった。総統選に次ぐ今回のリコールを、中国がこうしたシナリオの破綻と認識した場合、がらりと手を変えてくるリスクが存在する。

日米台の連携強化を

 台湾とわが国は、民主主義を共有する運命共同体であり、安全保障を絡めた日米台のトライアングルを強める必要がある。

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