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米比協定破棄、中国の海洋進出を助長するな

 フィリピンのドゥテルテ大統領は国内での米兵の法的地位を定めた「訪問米軍に関する地位協定(VFA)」の一方的な破棄を米国側に通告した。VFAは通告後180日を経過する8月には、自動的に無効となる。

 米比の離間によって、南シナ海における中国の強引な海洋進出を加速化させてはならない。

ビザ発給拒否がきっかけ

 ドゥテルテ氏が破棄を決めた直接のきっかけは、側近のデラロサ上院議員のビザ発給を米国が拒否したことだとされる。デラロサ氏は警察トップとして強硬な麻薬犯罪撲滅作戦を指揮した人物だ。

 米国では、ドゥテルテ政権が麻薬犯罪容疑者の超法規的な殺害を容認している事態に対し、人権侵害だとの批判が強い。一方、フィリピンではVFAについて内容が不平等だとする批判もある。

 米軍は冷戦終結後、フィリピンのスービック海軍基地、クラーク空軍基地から撤退した。この直後から、中国は米軍不在の「力の空白」を突き、南シナ海の南沙(英語名スプラトリー)諸島で人民解放軍の活動を活発化させ、フィリピンが領有権を主張する環礁(ミスチーフ礁)を占領して建造物を構築した経緯がある。

 VFAは1998年、51年に締結された米比相互防衛条約を実施するための具体的手続きなどを取り決めたものである。数千人の米軍兵士が参加する合同軍事演習をフィリピンで行うことを法的に可能にするものだ。これまで頻繁に演習を実施し、中国を牽制(けんせい)してきた。

 フィリピンのロレンザーナ国防相は「米の支援がなくてもフィリピン軍は任務を全うできる」として、ドゥテルテ氏を支持する姿勢を示した。だが破棄の意向を示したドゥテルテ氏に対し、フィリピンでは軍部を中心に反対論や慎重論が出た。

 米軍の伝統的な東アジア戦略は、日米同盟、米韓同盟、そして米比同盟が三本柱になってきた。VFAが失効すれば、南シナ海や東アジアの有事の際に米軍は戦闘部隊や補給部隊などをフィリピンに展開させて対中攻撃態勢を補強することができなくなる。ドゥテルテ氏はVFA破棄を見直すべきである。

 中国は破棄通告について論評を避けているが、内心では歓迎しているとみるのが自然だ。米比両国の同盟関係が弱まれば、中国の南シナ海進出がさらに強化され、地域を不安定化させることは明らかだ。

 オランダ・ハーグの仲裁裁判所は2016年7月、南沙諸島で中国が造成する人工島について、排他的経済水域(EEZ)は生じないと判断し、中国の主張を退けた。中国による南シナ海の軍事拠点化は国際法に違反している。フィリピンは、中国の覇権主義的な動きを助長するようなことをしてはなるまい。

脅威にらんで連携強化を

 フィリピンのVFA破棄通告について、トランプ米大統領は「私は構わない。多額のカネが節約できる。ありがたい」と述べた。地域の安全保障環境に及ぼす悪影響への認識が足りないと言える。米比は中国の脅威をにらんで連携を強めることが必要だ。

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