ワシントン・タイムズ・ジャパン

尖閣領海侵入は「侵略」

世日クラブ

中国の海洋進出と日本の安全保障
自衛隊は尖閣をどう守る

元統合幕僚学校副校長・海将補 川村純彦氏

 世界日報の読者でつくる世日クラブ(会長=近藤讓良・近藤プランニングス代表取締役)の定期講演会が19日、都内で開催され、元統合幕僚学校副校長の川村純彦氏が「中国の海洋進出と日本の安全保障/自衛隊は尖閣をどう守る」をテーマに講演した。

 川村氏は、安倍政権が推進する沖縄・南西諸島への対艦・対空ミサイル配備などの防衛力強化は、日米の中国封じ込め戦略の一環だと説明。中国の公船や漁船群による尖閣諸島の領海侵入を「侵略と認識すべきだ」とし、同諸島の有人化や領域警備法制定の必要性を説いた。(以下は講演要旨)

日米は東シナ海で封じ込め/島の有人化、領域警備法必要

最大の脅威は飽和攻撃/統合ミサイル防衛整備を

 中国の習近平主席は、中国が覇権を獲得するためには海洋強国、すなわち強力な海軍国を作らねばならないと言っている。そして、太平洋を支配する米国に対抗するために「接近阻止・領域拒否」(A2AD)戦略を進めている。

川村純彦氏

 かわむら・すみひこ 昭和11年、鹿児島県生まれ。同35年、防衛大学校卒(第4期)、海上自衛隊入隊。対潜哨戒機パイロット、在米日本大使館駐在武官を経て、第5および第4航空群司令、陸海空自衛隊の将官、高級幕僚を養成する統合幕僚学校副校長などを歴任。現在、川村純彦研究所代表。海軍戦略・中国海軍分析のエキスパート。著書に「尖閣を獲りに来る中国海軍の実力 自衛隊はいかに立ち向かうか」(小学館101新書)など。

 中国は、1996年の台湾海峡危機の教訓から、何百発もの対艦弾道ミサイルを配備し、米国の航空母艦が近づけないようにし、その上で、南シナ海に潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を配備し、信頼できる核の報復力を確保しようとしている。しかし、中国の現有のSLBMの射程は8000㌔で米国本土の北西部しか届かないので、潜水艦は太平洋に出なければならない。将来射程を延ばせても黄海や東シナ海の水深は浅すぎて潜水艦を待機させることは危険だから、十分な水深がある南シナ海に配備するしかない。そこで、日米の哨戒機や軍艦が入れないように防御を固めて、この海域を中国原潜の聖域とし、内海化するのに躍起になっているのである。

 もしも、中国が南シナ海を戦略ミサイル潜水艦の聖域にして、その核戦力が米国と肩を並べるようになったなら、日本が中国に軍事的な脅しを受けても米国が必ず守ってくれるとは限らない。だから、日本は米国と共同して南シナ海を絶対に守らなければならないのである。

 米国は、対中戦略として、2010年に陸海空統合のエアーシー・バトル構想を公表した。これは、B2戦略爆撃機やF22戦闘機のステルス機で中国のミサイル基地を攻撃し、その脅威を排除した後に航空母艦が出撃。最終的に陸上部隊が中国本土に上陸し、政権を倒すというものだ。中国の対艦弾道ミサイルの脅威がなくなるまでは航空母艦は小笠原からグアムを通るいわゆる第2列島線の後ろまで退避するとはっきり言っている。これまで日本人は日本有事には米軍がすぐ応援に来てくれると信じていたが、これはあり得ないということだ。まず日本が自身でしっかり守らなければならないのだ。

 そこで日本は、2014年に策定した防衛計画の大綱により、南西諸島の防衛強化に取り組み始めている。対艦・対空ミサイルを配備して国土を防衛するものだが、実は、これと同時に東シナ海から太平洋に出ようとする中国の試みを断とうとするものである。すなわち、中国に対する接近阻止を狙ったもので、安倍晋三首相は大変なことをやろうとしている。昨年の日米防衛協力のための指針(ガイドライン)で米側もこの日本の戦略に呼応し、尖閣諸島の防衛にコミットすることで合意した。ただし、島嶼(とうしょ)防衛の主体はあくまでも日本であるということは確認されている。

 米国が考えているのは、日本列島から沖縄諸島、台湾、フィリピンに延びる第1列島線の内側への中国封じ込めだ。台湾周辺もミサイルで防御し、フィリピンにも陸軍のミサイル部隊を配備する。さらに、ベトナム、インドネシアとの間でも、米軍配備に関する話し合いが行われている。そうすると、中国阻止網ができるわけだ。これは大変な戦略の転換だが、このことは日本のマスコミは一切報じていない。

 最近、尖閣諸島の周辺に中国の公船や多数の漁船が進出し、挑発行為を繰り返しているが、これは仲裁裁判所の判決を受け、海洋進出政策の重点海域を南シナ海から東シナ海に転換したのだと思う。さらに言うならば、実は日米の対中戦略に対する中国の反撃ではないかと私は見ている。中国は日米の対中戦略にようやく気が付いたのだろう。中国が米国に対してやろうとしていたことを、逆にやられるわけだから大変なことだ。南西諸島を固められたら、中国にとっては大変な障害となる。

 中国が進めている平時の戦略は非常に巧妙だ。軍事力は使わないで、表に出すのは巡視船、いわゆる公船と漁船群だ。漁船には漁師ではなく海上民兵が乗っている。約30万いるといわれる海上民兵は元軍人や予備役で定期的に訓練を受けている。全て共産党や軍の指令を受けて動くようになっている。普通の漁船ならば、あれだけの数の船が突然現れたり、一斉に消えたりすることは絶対あり得ない。

 民間の漁船を装っているので他国の軍艦は手荒に扱えない。「自由の航行作戦」を実施した米海軍によると、中国の漁船群が最大の厄介者だという。作戦を行う米艦の周囲は数百隻の漁船に取り囲まれ、自由に行動できないという。これでは米海軍も手足を縛られた状態になる。このように相手が手が出せないような手段で徐々に勢力圏を拡大していくやり方を米側は「サラミスライス戦術」と呼んでいる。

 では、今後日本は、中国の尖閣諸島への侵攻にどう対処すべきだろうか。まず、警備を強化することが不可欠だ。それと同時に、新しい対中戦略を考えなければならない。具体的な対応策としては、島嶼の有人化がある。かつて尖閣諸島には200人以上の人が住んでいたが、今は無人島となっている。そして、中国への配慮から島には灯台も気象観測施設も建設されていない。しかし、現在の事態に及んだ以上中国への配慮は不要だ。島に所要の施設を造り保安部隊と施設管理の職員を常駐させるべきだ。米軍射爆訓練場の使用を再開することも検討すべきだろう。

 しかし、現在の法律のままでは、結局は効果的な対応ができず上陸を許してしまうだろう。中国の行動は国家が明らかに意図してやっている侵略だ。わが国には侵略という認識に基づいた領域警備法が必要だと思う。

 それに加えて、日本は国防力を増強しなければならない。特に、統合防空ミサイル防衛および国土の抗堪力強化を図らなければならない。ミサイル防衛のために、いま自衛隊には陸海空それぞれにミサイル兵器システムが配備されている。海上自衛隊には迎撃ミサイル(SM3)を装備するイージス艦があり、航空自衛隊にPAC3(パトリオット・ミサイル)、警戒監視のための早期警戒管制機AWACSや早期警戒機E2Cという飛行機もある。陸上自衛隊にもミサイルシステムがある。これらは陸海空それぞれの組織の中で完結している。これを国家として全てを一つにまとめた形として、ミサイルに関するあらゆる情報を集約して、統合的に指揮調整するシステムが必要だ。例えば、AWACSが探知したミサイルに対して、その脅威度を判定し、最も有効に対応できるイージス艦や陸上のPAC3部隊に指揮を出すというように、1カ所で情報を収集し、指揮する統合防空ミサイル防衛システムを速やかに構築しなければならない。米国もようやく今このシステムの構築に着手し、日本の防衛省も検討を始めたところだ。

 今、日本が備えるべき最大の脅威は、中国が何百発ものミサイルを日本本土に向けて一斉に発射する飽和攻撃の事態だ。日本はこの脅威に有効に対処するための態勢が全くできていない。政治経済の中枢や基地などの防護や、国民の生命を守るシェルターの建設も必要だ。原発、飛行場、港湾もしっかり守らなければならない。

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