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東アジア地域における在沖米軍の役割 在沖縄米軍海兵隊政務外交部次長 ロバート・D・エルドリッジ氏

海兵隊は平和と安定の要

 在沖縄米軍海兵隊政務外交部次長のロバート・D・エルドリッジ氏はこのほど、世界日報の読者でつくる「世日クラブ」(会長=近藤讓良・近藤プランニングス代表取締役)で講演し、在沖米海兵隊が世界一の統合運用能力を機軸としていかに日本とアジア太平洋の平和と安定に貢献しているかを紹介し、その上で、米軍再編による沖縄の負担軽減は可能だとの見解を示した。本記はその講演要旨。

“顔の見える関係”作りに貢献/統合運用こそ世界一のゆえん

島嶼防衛で自衛隊と連携/沖縄の負担軽減は可能

400 日米同盟における米国の海兵隊の役割を紹介したいと思うが、今回、世日クラブの講演依頼を受け、喜んでうかがった。なぜならば、沖縄では世界日報は、私たちが目指している海兵隊の透明性向上のために丁寧に活動を紹介してくれていて、お互いに非常に深い交流ができているからだ。

 なぜ、海兵隊の透明性を高めたいかと言えば、日本国民が海兵隊について理解していないと感じるからだ。その理由はいろいろあるかもしれないが、私は二つあると考えている。

 一つは、自衛隊には海兵隊という組織が存在しないということだ。陸上自衛隊のカウンターパートの一つである米陸軍、そして、海上自衛隊に対する米海軍、航空自衛隊に対する米空軍のそれぞれの任務については理解できる。しかし、海兵隊のような組織が日本にはないので、海兵隊を見透し理解するレンズがないのだ。

 二つ目は、海兵隊の任務の特殊性がある。海兵隊は常に遠征的な組織で、敵が自分の所に来るのを待つのではなく、敵の所に行って作戦を展開、あるいは、戦闘が起こらないように抑止力を示している。これに対して、自衛隊は冷戦後は少しずつ派遣されるようになってきたが、任務は非常に限定的で、法的根拠が明確でないと派遣されない。海兵隊は命令があればいつでも、どこでも前方展開する即応態勢部隊だ。

 海兵隊は常にセットで行動する。戦闘時は、四つないし五つの組織で編成される。司令部機能、兵站(へいたん)、輸送手段(主に航空団)、および、実際に派遣される陸上戦闘部隊、そして、それらを支える基地がある。さらに、海軍と連携し海外の各地に展開できる。

 その編成、運用の仕方は、海兵空陸任務部隊「MAGTF(マグタフ)」と呼ばれる基本組織が自立した一つの部隊として様々な作戦任務を行うというものだ。米国は60年近くこの方法を採用しているが、この統合運用の故に海兵隊は世界一の軍隊になっているといってよい。この運用の仕方を自衛隊は勉強している。

 なぜ、自衛隊が海兵隊から統合運用を学ぼうとしているのか。自衛隊は、東日本大震災の時、初めて統合任務部隊を編成した。非常に良く頑張ったとは思うが、私たちから見たら、実際は統合運用ではなく共同運用だった。陸海空三自衛隊が一緒に同じ部屋にいたが、統合的に動いたとは言い難い。

 海兵隊は創立して239年になる。相当の歴史と伝統、そして経験がある。その経験を今、自衛隊が一所懸命に学ぼうとしている。特に、水陸両用作戦や統合運用を勉強している。中でも、海兵隊的部隊を編成して島嶼(とうしょ)防衛に力点を移している九州の陸上自衛隊西部方面隊は海兵隊と緊密な連携を取っている。

 いわゆる沖縄問題の背景には社会的、歴史的、経済的、教育的な様々な問題があるのだが、海兵隊の存在に関して言えば、海兵隊をアジア太平洋地域に分散配置できない理由がある。海兵隊という組織の性質上、分散してしまうといざという時に即応できないからだ。海兵隊は、有事に備えて日々訓練し、部隊間でコミュニケーションを取っているのだ。

 日本にいる海兵隊のうち、実際に派遣される運用部隊を第3海兵遠征軍という。この遠征軍が活動するための施設が米海兵隊太平洋基地(MCIPAC)で、韓国からハワイまでを管轄する。その中で最も重要なのが日本にある基地で、普天間をはじめとする沖縄の基地、そして、岩国(山口県)、キャンプ富士(静岡県)だ。

 アジア太平洋地域は、政情不安な国が多い。領土・歴史問題をめぐる政治的な争い、資源確保をめぐる衝突が各地で発生している。さらに、世界の災害の約6割がこの地域で発生している。この不安定な地域だからこそ海兵隊がいるのだが、第3遠征軍の担当地域は地球面積の52%、米国にある第1、第2遠征軍で残りをカバーしている。第3遠征軍が一番忙しい。

 海兵隊の役割は、日米安全保障条約の第5条と第6条に関わるもの、つまり、日本の防衛に寄与することと、アジア太平洋地域の平和と安定に貢献することだ。そして、私はこれが最も重要だと考えているのだが、地域の防衛協力、軍事演習、人事交流を通じてお互いの透明性、信頼関係を高めることになる。これを推し進めることで平和的な要因が増えていく。

 すると、戦争、紛争が発生しても大人の対処ができる関係づくりができていく。海兵隊は、いわば“顔の見える関係”づくりに成功していると断言できる。

 沖縄では数多くの基地が県内各地に分散しているが、個人的な意見として言わせてもらえば、これらの整理縮小は可能だ。そして、実は米軍もそう考えている。なぜならば、これを全て管理するには人とカネが膨大にかかる。さらにテロ対策の上でも守りにくいからだ。

 いまオーストラリアへの訓練場移転が進められ、沖縄の負担軽減が図られている。これは米軍にとっても悪い話ではない。オーストラリア軍と共同訓練ができるし、沖縄で実施できない訓練ができる。今後、沖縄の基地問題を解決する上で、お互いの利益になることがいくらでもあり、そのために知恵を出し合うことが大事だ。

 一つの例は、普天間の垂直離着陸輸送機MV22オスプレイを佐賀空港に移駐するという話が持ち上がっているが、訓練のためならば良い話だと私は受け止めている。沖縄の負担軽減になる。佐賀空港の財政上のプラスになる。地域への経済効果が見込める。

 しかし、日本政府が最も重視しているのは、自衛隊も導入を予定しているオスプレイを佐賀に配備し、海兵隊と共同訓練ができるようになれば、日米同盟、そして、陸上自衛隊とそのカウンターパートである海兵隊との関係がさらに深化するという点だ。

 海兵隊は今、地域におけるプレゼンスを分散する方向に向かっている。私は沖縄の海兵隊のグアム移転の話が持ち上がった時、研究者として猛烈に反対した。しかし、グアムに持たせる能力は沖縄に負けないもので、いざ有事という時に、沖縄のほかにもオプションがあることは非常に可能性が広がると考えるようになった。

 海兵隊と沖縄県民との関係について言えば、海兵隊に対する世論は確実に良い方向に向かっているということだ。その一因は、県民のメディア離れがあると思う。情報入手を革新系で反米、反基地の論調の地元2紙に依存せず、インターネットを通じてもっと違う情報を得るようになっている。

 また、「沖縄オスプレイファンクラブ」が2年前にできて、今では会員が約5000人になっているという。ボランティア活動も基地の人間と一緒にやっている。世論は確実に変化している。しかも、県民のアイデアを積極的に取り入れている。

 1968年、米ニュージャージー州生まれ。90年、米バージニア州リンチバーグ大学国際関係学部卒後、来日。99年、神戸大学大学院法学研究科博士課程修了。博士号取得。2001~09年、大阪大学大学院准教授。その間、米海兵隊太平洋軍司令部顧問、参議院沖縄・北方領土特別委員会特別研究員などを歴任。09年9月より現職。著書に『奄美返還と日米関係』『沖縄問題の起源』『硫黄島・小笠原をめぐる日米関係』『沖縄返還と尖閣諸島の処理』など多数。
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