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会社は社会に貢献する「公器」 原丈人氏

時代が求める公益資本主義

アライアンス・フォーラム財団代表理事 原 丈人氏

東京都いたばし倫理法人会設立30周年記念講演

 会社を株主のものと位置付ける英米型の「株主資本主義」から脱却し、会社を社会の公器と捉える「公益資本主義」への転換を提唱する内閣府参与でアライアンス・フォーラム財団代表理事の原丈人氏が今月2日、東京都いたばし倫理法人会(宮崎武彦会長)の設立30周年記念式典で講演した。原氏は、株主だけでなく社員や仕入れ先、顧客、地域社会など「関わるすべての人が報われる資本主義」の実現に向け、日本が世界をリードしていくべきだと主張した。以下は講演要旨。

富の一極集中招いた英米型
株主偏重の企業統治改めよ

 1990年代後半から資本主義の流れがおかしいのではないかと自問するようになった。株主は株主だけの利益を短期間に最大化することを要求する。こうした流れは90年代の日本にはほとんどなかった。だが、2000年代に入ってから、村上ファンドをはじめこのような動きをする人たちが日本にも多く出てきた。

原丈人氏

 はら・じょうじ 1952年、大阪生まれ。慶応大学卒。スタンフォード大学工学修士号取得。84年にベンチャー企業の育成を手掛けるデフタ・パートナーズを設立し、シリコンバレーを代表するベンチャーキャピタリストに。国連政府間機関特命全権大使、米共和党ビジネス・アドバイザリー・カウンシル名誉共同議長、政府税制調査会特別委員などを歴任。著書に『21世紀の国富論』『「公益」資本主義』など。

 時代が求める資本主義とは一体何か。それは、関わるすべての人が報われる資本主義だと考える。関わるすべての人とは、社員であり、仕入れ先であり、地域社会であり、顧客だ。会社を成功させてくれるすべての仲間に対して報いることができる資本主義が理想的だ。

 しかし、現実はどうか。米国のシリコンバレーを代表するヒューレット・パッカード(HP)は、利益の154%を株主に配分している。マイクロソフトは105%、IBMも113%、タイム・ワーナーに至っては305%だ。タイム・ワーナーの利益を100億円と仮定すると、200億円の社債を発行して300億円を株主に配分している形だ。これは異常事態だ。

 アメリカン航空は、経営者の判断ミスで業績が悪化し、従業員の給料を340億円削減した。その一方で、経営陣は200億円のボーナスを受け取った。従業員の給料は会社にとっては費用であり、それを削減して会社の価値を上げたのだから、経営陣にボーナスを出して何が悪い、という理屈だ。

 これは全世界の常識から考えても受け入れ難い。私は米国の経営者を徹底的に批判したが、逆に「あなたは共産主義者か」との批判を受けた。これが米国と現在の資本主義の実態だ。

 では、コーポレート・ガバナンス(企業統治)は、何のためにあるのか、との疑問が出てくる。英米型の企業統治とは、株主の立場に立った、株主による企業統治だ。要するに株主、投資家にとって有利になることはすべて良し、そうでないことは企業統治に違反する、そういう考え方だ。

 私は米国で事業を始める前、ビジネスのやり方を学ぶため、スタンフォード大学経営学大学院のMBA(経営学修士)コースに入った。そこでは会社は株主のものだといったことを徹底的に洗脳する。

 私は内閣府参与の立場で、経済財政諮問会議専門調査会会長代理として、日本の文化や伝統をしっかり理解し、国民が本当に豊かになるようなコーポレート・ガバナンスにすべきだと主張したが、多勢に無勢でほとんど英米型が導入された。その結果、ある製薬会社が利益の90%を配当に回したり、大手通信会社が利益の117%を株主に還元するといった、以前の日本ではあり得なかった事態が起こるようになった。

 世界で最も金持ちの8人と世界人口72億人の下から36億人が持っている資産は一緒だという極端な貧富の差が出ている。上位1%と残りの99%が持っている富も同等だ。

 株主、投資家の利益が上がる一方、会社に勤める社員への配分、つまり労働分配率は日本や米国、欧州諸国で1960年から2010年代にかけて下がりっぱなしだ。労働者が貧しくなり、株主と経営者が豊かになる流れはずっと続いている。

 アメリカン航空やHPなど極端な株主重視は良くないということをはっきり言える企業統治制度を日本からつくり上げていきたい。

 だが、日本には米国に汚染されている経営者や学者、官僚が多い。「米国の言う通りにしなければ日本はつぶれる」と、まるで日本が奴隷であるようなことを堂々と言う人までいる。

 世界最大の小売りである米ウォルマートの売上高はスペインの収入よりも大きい。トヨタ自動車の売上高はインドの収入よりも大きい。サムスンの売上高はトルコよりも大きい。世界の大会社を国家と仮定すると、世界上位100カ国のうち70を企業が占める。そのような状況で株主だけに利益を配分すれば、世界が歪(ゆが)んだものになるのは明らかだ。

 株主資本主義は別名、カジノ資本主義だ。一人の勝者がすべてを取る。金融危機のたびに中産階級が没落し、スーパーリッチ層はどんどん豊かになる。

 中間層がいなくなると何が起きるか。民主主義は層の厚い中間層がいて初めて機能する。中間層がいなくなれば民主主義は機能しなくなる。

 政治家が5年、10年後の話をしても、明日生きるか死ぬかという人たちにとってはどうでもいい話だ。不満のはけ口を聞いてくれる政治家に投票する。中間層がいなくなり、貧困層が多くなれば、ポピュリズムが進む。公益資本主義では、会社は株主のものではなく、会社は社会の公器であると考える。会社の目的は時価総額や株価の増大ではなく、会社をつくった理念、使命の最大化だ。

 富を分配し、中間層を創出し、イノベーションをつくり出す資本主義を日本から世界に出していくことができれば、日本は世界から尊敬される国になるのは確実だ。

 日本経済新聞で「稼ぐ力」という言葉を聞くが、株主資本主義における稼ぐ力とは、株主に対するリターンがいかに大きくなったか、要するに配当や株価だ。

 これに対して公益資本主義の稼ぐ力とは、会社が生み出す付加価値の総和を大きくすることだ。付加価値とは、社員の給料や教育、社会への貢献、地球環境保護、顧客の安全性、適正価格の仕入れなどがそうだ。すべての企業がこれを始めれば、最終的に世界中で教育を受けた健康な中間層をつくる資本主義ができるだろう。

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