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米「人種差別暴動」の見方 極左集団無視する識者

古森氏、田中論文を痛烈批判

 人種差別への抗議行動から広がった米国内の暴動に関連して、トランプ大統領は連邦政府の治安要員を投入してでも「法と秩序」を守る姿勢を示している。しかし、この米国の暴動をどう見るかについては、日本では大きく分かれている。保守派は、暴動を左翼による破壊活動と危険視する一方、トランプ大統領を「米国社会の脅威」と捉える識者もいる。

 産経新聞ワシントン駐在客員特派員、古森義久が 保守派の「Hanada」8月号に寄稿した論考「米・日主要メディアが報じない 米国黒人暴動の驚くべき真相」で、国際政治学者・田中明彦の論文について痛烈な批評を行っている。

 読売新聞(6月14日付)の1・2面に掲載された田中論文「全米デモ 『軍投入』民主主義の危機」について、古森は「国際政治学者の論文と呼ぶのをためらってしまうほど皮相(ひそう)で浅薄(せんぱく)な一文」であり、「米国から離れた日本で、現地の状況を自分の偏見に合わせて伝えるとは、知的な傲慢(ごうまん)、あるいは怠惰(たいだ)だろう」と酷評している。

 一方、「WiLL」8月号には、国際政治学者・藤井厳喜の「米『人種差別暴動』はトランプ再選阻止運動」、カリフォルニア州弁護士ケント・ギルバート、経済評論家・上念司、お笑い芸人・居島一平の対談「黒人差別デモの陰に中国!」などの論考が載っている。テーマを見れば分かるように、これらに共通するのは、暴動が人種差別への怒りから自然発生的に広がったとは捉えていない点だ。

 抗議運動は、白人警察官が黒人男性を死亡させたことがきっかけで起きた。しかし、マルクス主義思想の極左暴力集団「アンティファ」や、同じ流れをくむ「黒人の命は大切」(BLM)運動が抗議を誘導、あるいは便乗したことで、商店の破壊や放火、略奪などが頻発する暴動に発展。米国の秩序を破壊する「テロ」または「暴力革命」の様相が強まったことで、アンティファを「テロ組織」に指定し、米国の法と秩序を守ろうとしているのがトランプ大統領だ、という捉え方である。

 こうした保守派とは真逆の見方をしたのが田中論文である。抗議運動が「平和的」とするフレーズが5回も登場する一方で、略奪や暴力行為が行われたことについては、冒頭にわずかに触れる程度。保守論壇が超過激な極左暴力組織として警戒するアンティファについてはまったく言及がなかった。

 そればかりか、州当局の対応が不十分なら「連邦軍を動員する」と宣言した大統領発言については「異様な言動は目に余る」と切って捨てる。さらには「ウイルスと不況と人種差別という三重の危機」よりも「さらに米国社会にとって脅威なのは合衆国大統領その人なのである」と断じている。

 古森が田中論文に怒りを隠さないのは、その内容もさることながら、田中の立場上の問題があるからだ。「事実上の政府機関に等しい」独立行政法人・国際協力機構(JICA)の理事長を務めた経歴を持つとともに、現在は国立の政策研究大学院大学学長の地位にある「国の政権に寄り添う学者」なのである。

 尖閣諸島を奪取しようと狙う中国に対しても、北朝鮮に拉致された日本人の解放に関しても、トランプ大統領は「頼りになる同盟国の元首」。「その大統領をつかまえて『米国社会の脅威だ』とか『敵だ』と断ずるとは、いったいなんのつもりなのだろう」と、古森は憤る。

 選挙で選ばれた民主主義国家の元首で、しかも支持率が新型コロナウイルス感染拡大の影響で下がっているとはいえ、今も40%を保つ大統領に対して「米国社会の脅威」という言葉を使うことは、米国民の選択をも愚弄(ぐろう)することになる。左派の人間はともかく、田中論文を一読すれば、古森の憤りの理由がすぐ理解できるだろう。

 日本の保守論壇には、暴動はトランプ大統領の再選を阻止するための運動とする見方もある。トランプ大統領を米国の「脅威」とする田中は当然、再選反対の立場なのだろう。古森の論考に対する田中の反論を是非読みたい。

 編集委員 森田 清策

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