ワシントン・タイムズ・ジャパン

音楽業界の苦境訴えたロックミュージシャンの声を取り上げた新潮

音楽業界もまた新型コロナ感染の影響を大きく受けているが、日本と外国では対応が大きく異なる。

音楽業界もまた新型コロナ感染の影響を大きく受けているが、日本と外国では対応が大きく異なる。

仕事を失う人が続出
 お笑い芸人がユーチューバーとなって日本史や政治・経済を講義する時代になった。人は何をやってもいいのだろうが、「分を弁(わきま)える」がだんだん死語に近くなる。ワイドショーでは、やはり芸人がしたり顔で政局に対してコメントする。専門家の立つ瀬がない。領分を犯すどころか、領分が曖昧になってきた。

 週刊新潮(10月21日号)でロックミュージシャンの世良公則が「ワクチンパスポート」について発言していた。どうしてロッカーがコロナについて語っているのか。領分が違うだろうと思って見てみると、そこには音楽業界が置かれた切実な苦境があった。

 飲食店などと違い、ライブやイベントに携わるアーティストやフリーのスタッフは政府や自治体の補償の対象になっておらず、仕事を失う者が続出、自殺者も出ているという。

 それでもライブやコンサートを政府の基準で行えば、赤字が増えていくばかり。世良は言う。「政府が設けているハードルは、ライブをあきらめさせたいからなのか、かなり高いです」「倒産や失業の連鎖が止まりません。そうした現状を訴えても、いまなお政府は動いてくれません」と。

 緊急事態宣言が解けて、ウィズコロナの実証実験が行われるようになり、音楽業界も活動再開できるのではないかと思うだろうが、実情は全く違う。

 「『明日から営業開始』というわけにはいきません。準備に最短でも8カ月はかかり、利益が出ても、スタッフに分配するには、さらに数カ月かかる。その間、補償はありません」というのが現状だ。

 「報道されませんが、政府のデータを見ても、公演を中心とする音楽業界の収益は2019年とくらべ、90%の減益」という惨憺(さんたん)たる状況なのだという。気の毒だが見捨てられた業界だ。

軽視される文化芸術

 世良はドイツの事情を挙げた。「ドイツでは、コロナが感染拡大しはじめた当初に、メルケル首相が自ら、文化に携わる人々への支援をいち早く発表し、文化が芸術を支えました。『文化や芸術がないと国は豊かさを失う』と明言されましたが、日本はどうでしょう」

 飲食業や観光業、その関連業種を支えようと懸命になっていた政府の方策も間違いではないが、日本ではまだ「文化芸術」に考えが及ばないのが現状だ。そしてその分野から世良のような声があまり聞こえてこない、というのもどうなのか。交響楽団や演劇界なども経営に困っているのは同じはずなのだが。

 「文化や芸術を担う業界への支援が少ないのは、僕らに政治への影響力がないからでしょうか。しかし、文化や芸術が人々に与える大きな影響を軽視してほしくはないです」

 世良が最近、政治への発言を続けている動機がこの辺にあることが分かる。その脈絡で、実証実験の中で導入が議論されている「ワクチンパスポート」についても述べている。世良は「差別や分断の引き金になる」と危惧する。ファンを対象にライブや公演を行っている人たちにとって、観客をそれで分ける、ということは受け入れ難い。

 政府や関係当局が正しい情報を出して、誤解の拡散を防ぎ、ワクチン接種者も非接種者も「安心に共存できる方法」を示せと訴えている。

自由人権の再考訴え

 今後、ロックダウンが必要な感染症が出てくるかもしれない。その時、政府は根拠を持って断行できるのだろうか。その法整備すら手に就いていない。世良はその現状を憂うる。

 世良はこれを機会に、日本は自由や人権を捉え直すきっかけにすべきだとまで考えを広げている。そして、リーダーとはどうあるべきか、にまで言及する。「商売違いのコメントをワイドショーで行う芸人」とはまったく別次元で発言しているのだ。まとまって一貫した言葉には、深く考え抜いたからこそ出てくる重みがある。

 声を上げた世良と、4㌻を割いた新潮に拍手を送る。この声を政府は聞くべきだ。

(岩崎 哲)

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