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ドイツでの中国のスパイ活動に警告を発した報告書を報じない各紙

◆ほぼ毎月スパイ摘発

 米国ではスパイ活動の拠点だったヒューストン中国総領事館閉鎖、オーストラリアでは「目に見えぬ侵略」が暴かれるなど、中国のスパイ事件は後を絶たない。

 ドイツも例外ではない。中国は先端技術分野で独自技術を有する中小企業を買収する一方、さまざまな手段で先端技術に関わる科学者、学者をオルグしている(「千人計画」)。同国の諜報(ちょほう)機関、独連邦憲法擁護庁(BfV)が先月9日に公表した2019年版「連邦憲法擁護報告書」はそう指摘し、中国のスパイ活動に異例の強い警告を発している(本紙7月21日付)。

 このニュースは他紙にはなかった。それでネットで調べると、ニューヨークに拠点を置く中国の反体制紙「大紀元」に詳報があった。それには6月末に開催された独連邦議会監視委員会で同国の情報機関当局者が「ほぼ毎月、国内で中国のスパイを摘発している」と発言したとあるから驚かされた。「中国人を見たらスパイと思え」(トランプ米大統領のオフレコ発言)はあながち嘘(うそ)とは言えないようだ。

 BfVの報告書は貴重だ。技術国の日本はドイツと同様にターゲットにされているからだ。毎年、公表されるのに日本の特派員は無関心なのか、本社から要請がないからか、感度が鈍すぎる。

 警察庁は平成21年版「治安の回顧と展望」で、ドイツの機械・兵器製造企業が中国のスパイ活動で年間500億ユーロ(約6兆円)の損失を受けたとし、日本でも「長期間にわたって巧妙かつ多様な手段で先端科学技術の情報収集活動を行っている」と警鐘を鳴らしている(産経2009年12月10日付)。

◆「千人計画」日本でも

 実際、スパイ活動は長期間にわたる。古い資料を手繰ってみると、1955年以来、東大工学部の博士論文などをコピーし、横浜から中国船で本国に送らせていた。61年には名古屋大学の原子力物理学教授が中国に密航、63年には日本原子力研究所(東海村)所員らも密航し中国の核開発に手を貸した。いずれも親中・共産主義者だった。

 78年6月には電電公社(当時)武蔵野電気通信研究所の係長が電子通信などの秘密資料700件を中国専門書店の役員に売り渡したとして逮捕された。当時、日中条約締結交渉が終盤で(8月締結)、朝日は中国のスパイ活動から目を逸(そ)らさせるかのように「東南ア・中国へ輸出?」(同6月14日付)と惚(ぼ)けたことを言った。条約締結後、スパイ活動は一層、活発化した。

 日本での「千人計画」については読売が5月4日付で取り上げている(「安保60年」第2部 経済安全保障① 技術狙う中国「千人計画」 軍事転用へ海外の科学者招致)。人工知能(AI)を専門とする東工大教授だった男性(70歳)が5年間で1億円の研究資金や給料、手厚い福利厚生で中国の招請に応じ、北京理工大教授に収まっている。温水プールやジム併設の25階建て高層ビルの22階の一室で暮らしているという。

 中国の招聘(しょうへい)は純粋に科学的な理由だけではない。読売は「科学技術・経済・軍事において機先を制して有利な地位を占め、将来の戦争の主導権を奪取する」との中国の軍民融合に関する戦略方針(2016年7月)を挙げ、「軍事と民間の境目はない。むしろ、民間技術を軍事的な優位性につなげようと血眼になっている」と指摘している。

◆日本守る意志示さず

 トランプ米政権は歴代政権の対中政策は「失敗」だと断じ「中国関与策」からの脱皮を図る。新聞でこれを是としたのは産経と本紙のみ。先に死去した台湾の李登輝元総統について朝日社説は「築き上げた民主の重み」(8月1日付)と書くが、中国から民主日本を守る意志も示さず、どんな「重み」なのか首をひねる。

 日本ではドイツのように中国スパイが摘発されることはないから安心、とでも言うのだろうか。そう思うならスパイ防止法なき日本に喜んでいる当のスパイたちと同類だ。

(増 記代司)

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